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開戦

本格的にイベントが始まりました!


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ・北区:門外〓〓


『黄金福音』のギルドホームから出た陣は、まず周辺の西区を駆けずり回った。『初心者用』と銘打たれた剣銃を、スキルスクロールを買うために貯めていた資金を放出して片っ端から買い集めていた。

 以前、武具屋のプリムラに言われた「初心者用の武具は耐久性が高い」という言を信じて、この一戦を持てばいいと割り切って門外の平原に突き立てて行く。

 初心者用の剣銃が激安だったということもあり、大量の武器が突き立てられた一角は、さながら墓標のようだ。


 戦力として当てにしていたプレイヤーキラーは、陣が北区に到着した時には綺麗サッパリといなくなっていた。

 彼らにしても不利は承知済み、圧倒的多数のモンスターに蹂躙されるのは御免被るという事なのだろう。


 本当なら今こそプリムラが作った武具が欲しかったのだが、残念ながら間に合わなかった。

 彼女は彼女で自分の店を守るため、西区で迎撃に出るという事だから流石に無理も言えない。


「あ、兄ちゃん!」


 門まできたキーが、見知った陣を見て駆けて来る。

 陣は慌ててキーの元に向かい怒ろうとするのだが、それより前にキーが飛び込んできた。


「兄ちゃん!街がおかしいんだ!いつも酒場で安酒飲んでる冒険者もいないし、外うろついてるモンスターもいないんだ。

 こんなに静かな街初めてだよ!何があったんだよ!」


 陣はしゃがみ、キーと目線を合わせる。普段なら頭の一つも撫でる所だが、子供扱いされては誤魔化されたと感じるだろう。あくまでも対等な者として相対するつもりで、陣はキーの肩に手を置いた。


「もうすぐここは戦場になる。俺はここで戦うつもりだ。

 門周辺は危ないからさ、キーは友だちと一緒に出来るだけ街の真ん中に近い所に隠れてな?

 全部終わったらまた、美味いモン作ってやるから食べようぜ」


 キーはじっと陣の目を見つめ、「分かった!」と門へ向かって駆けていく。


「兄ちゃん!コボルトの群れ追っ払えるくらい強いんだから楽勝だよな!

 俺、隠れて待ってるから!美味しいもの頼んだよ!」


 子供はあれくらい現金な方がいいと、微かに笑みを浮かべて目を瞑る。

 目の前に突き立てていた剣銃を握りしめ、一気に引き抜く。


「約束、しちまったしな。

 未だ目録とは言え、俺も相馬の一人。全霊を懸けてここは護る」


 陣は一人。静かに精神統一しながら時を待つ。


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ・種界門前〓〓

■19:55


「さぁ〜もうすぐ始まりますEAO公式サービス始まって以来の大イベント『都市防衛戦』!本日は『人界』(トレジャー)エリアシティ唯一の安全地帯な種界門前よりお送りします!

 超ビッグな後援者パトロンの存在でイベントアイテムも超ビッグ!配られた資料によりますと、参加者全員に期限付きながら優秀なアクセサリー配布!上位2位〜10位には職に合わせた強力なイベント武具をプレゼント・フォー・ユー!黄金に輝くマイクとか私も欲しいぞ☆そして、な、なんと1位には!ってえ?何じゃこりゃあ★1位の景品が『小さなマイホーム』ってシル◯ニアファミリーか!?記念なんだかショボイんだかよく分からない物ですが気を取り直してサクサク進めまーす♪

 言い遅れました!ワタクシ女の子なのに司会者職(チェアマン)!でお馴染みのグラス・金魚です☆気軽に金魚って呼んで下さい♪さんはい!」


『きんぎょぉぉ!』


「ありがとぉ〜う☆♪

 そして!ゲスト解説員もイベントに合わせて超ビッグです!なんと!本日!何故か!主催のDr.ミカミが来てくださいましたー☆

 あえて言おう!解説する暇があるなら仕事しろ★と!」


「ハハハ!辛辣デスネー!」


「今回のビッグイベントに合わせて司会者職(チェアマン)組合も総力を上げてバックアップ!

 東西南と三大ギルドが護る要所を中継で繋げちゃいました☆

 レポーターのみなさーん☆聞こますかー♪」


「「ハーイ!」」「…ハーイ」


「『四神会』が護る南区のレポーターさんが元気無いですねー★まぁ気持ちは分かります♪

 朱雀様の怒り買ったら即焼滅ですからねー★正直私は司会者職(チェアマン)で良かったとすら思ってます☆

 こんなスリリングな体制で本日はお送りしております☆

 さて!本日のビッグイベント!Dr.ミカミ的にはどこが見どころですか?♪」


「そうデスネー。

 最初に言いマシたが今回は大量のモンスターが襲ってキマース。しかも一気にじゃなく波状でキマース。

 数もとてもタクサーン。どれだけ素早く武具の修理、補給をするかがとても大事デース。

 それを考えれば生産者が多い西、NPCショップで補給が出来る東は比較的には有利デショウネー。

 と、門を守っているプレイヤーが思ってたらシメタモノ!そんなヌルいイベントではアリマセーン!クフフ」


「と主催者のS気味なコメントを頂けた所でイベント開始時間デース☆

 って移った!?怪しげな言葉遣いが移った!?」


 シビアな戦況やシリアスな空気を置いておいて、相変わらず司会者席付近は平和そのものだった。


■■エリアシティ:西郊外■20:00


「報告します!前方1km地点よりスケルトン多数!

 今の所リッチやヴァンパイアといった上位種の姿は無いようです!」


 光彦ライトは伝令の報告を聞き舌打ちする。

 想定内ではあったのだが、やはり一気に全モンスターが襲ってくるわけではなく、『防衛戦』は雑魚の群れから始まるようだ。

 逸る気持ちを抑え、光彦ライトは指示を下す。


「100mまで近づいたら魔術師ウィザード部隊から炎弾ファイアボールを一斉に放て!抜けてきたスケルトンを戦士ファイターの部隊で殲滅!スケルトン種には打撃が有効だ!戦鎚ハンマーを装備させるのを忘れるな!

 まだ始まったばかりだ、浮き足立って撃ち漏らすんじゃないぞ!」


「はい!」


 光彦ライトは駆けて行く伝令の後ろ姿を見ながら、厳しい戦いになる事を予感していた。


■■エリアシティ:南郊外■20:05


 指揮所に持ち込んだ豪奢な椅子に座った朱雀は、傍らに控える青龍に愚痴を零す。


「ふん、他愛ないねぇ。

 小手調べにしても随分とお粗末だね」


「はっ!しかし新しく四神会に入った新参連中にはいい経験値稼ぎになります!

 白虎や玄武の指揮練習にもなりますし、渡りに船だったのでは?」


 朱雀は「ふん」と鼻息を出し、つまらなそうに戦場を眺める。

 開戦した戦況は圧倒的に自軍有利。そもそも相手のモンスターが弱すぎるのだ。

 最初は無数にいたスケルトンの軍勢も、ギルドメンバーの手にかかりみるみる数を減らして行く。

「いつになったら暴れられるのかねぇ、と言うか出番がくれば良いがねぇ」と独り言を吐けども、朱雀の暇な時間はまだまだ続きそうだった。


■■エリアシティ:東区、外壁上■20:05


 スケルトンが現れたと知った時、ミオソティスは溜息が出るのを抑えられなかった。

 ミオソティスがリーダーを務める『箱庭』(ガーデン)は、彼女の魅力を慕って集まった女性や少女ばかりのギルド。そのためか見た目が綺麗な氷や風の魔法を使う者はいても、対アンデッド戦において効果の高い火魔法を使える魔術師が圧倒的に少ない。また近距離戦が怖いという理由で弓師アーチャーを選んだ子もいるが、矢はアンデッドに対しては効果が薄い。

 対アンデッド特性の高い聖職者クレリック司祭プリーストは数が揃っているのだが、彼女たちは貴重な回復要員、こんな序盤もいい所で疲弊させる訳には行かない。またミオソティス自身が出れば一番早いのだが、下手に自分が出る事で部下の子達が混乱してはと必死に自制するしか無かったのだ。


「まさか初めから貴女にお願いすることになるとは思わなかったわ。

 申し訳ないけど、アクア、行ってくれる?」


「おー、じゃあポキポキっとしてくるのだ!ソニアっちも行くぞ〜!」


「え?ちょ?なんで私まで!?ってキャアアアア!」


 水穂アクアはソニアの腕を掴むと、躊躇無く外壁から飛び降りる。

 既に外壁までスケルトンが群がっていたが、着地の勢いで何体か踏み潰し、ソニアの腕を掴んだまま水穂アクアは走りだす。

 ボーリングのピンのように面白いようにスケルトンが吹っ飛んでいくのは、傍目にはコメディのようだ。


「ははは!楽しいなぁソニアっちぃ!」


「(シクシク)私、ここに居る意味ありますの…?」


 水穂アクアに振り回されてスケルトンにぶつかり、地味に体力を削られながらソニアは泣き濡れるのだった。


■■エリアシティ:種界門前・司会者席■20:06


「さて、まずは三大ギルド共に順調な滑り出しですね☆

『黄金福音』の高火力!『四神会』の厚い陣容!『箱庭』の剣舞姫アタック★とギルドカラーも良く現れてます♪

 モリモリとスケルトンが倒されてますが、ミカミさん的にはどうですか?」


「見ろ!骨がゴミのようだ!」


「ってスケルトンの骨は文字通りゴミです★売っても超安いんですよねアレ★

 でも順調すぎてつまらないんじゃないですか☆

 安定して強すぎて全く危なげありません♪」


「Oh、スリリングなヴィジョンが見たいんですね?

 じゃあ北区のスクリーンをルッキン!…ってなんで北の様子映してないんデスか?」


「やだなぁ☆あんなプレイヤーキラーしかいない所映してもしょうが無いじゃないですか☆

 見たい人もいないと思いますし、組合も面子少ないんでシビアなんです★」


「hmm…じゃあワタシが映して上げまショーウ!

 さぁミナサーン!レッツルッキン!」


 ミカミがパチンと指を鳴らすと、東西南の区域を写していたスクリーンにもう一つ、北区の様子を映した物が追加される。

 そこでは、ミカミがスリリングと言った通りの死戦が展開されていた。


■■エリアシティ:北区門外■20:07


 陣は襲いかかって来るスケルトンの斬撃を避け、剣銃を一閃させる。

 盾を持った者は打突で打ち払い、鎧を着た者は蹴り飛ばして他の者を巻き込み、武器を持った者からはそれを奪い取り他の者に投げ付ける。しかし、陣の奮戦をして多勢に無勢。あまりの敵の多さに、何度か門を抜けられそうになった。

 北区の門は幅5m。普段は狭いと思うその5mが、今の陣にとって何より広い。

 近距離戦では分が悪いと感じる頭があったのか、後列から槍などの長物を持ったスケルトンが突っ込んでくる。

 長持ちのスケルトンに目をやった隙に、2体の敵が門に取り付いてしまった。


 陣は周囲に突き立てていた剣銃を引き抜き、二刀持ちで当たるを幸いと滅多斬り。

 押し寄せる敵の重圧が減った一瞬の隙を突き、装填されている弾倉が風弾である事を確認。左右に取り付いたスケルトンに両手を広げ速射、いくら剣銃の性能が悪かろうと相対距離は2m、ここまで近ければ嫌でも当たる。属性的にはスケルトンと相性の悪い風だが、効果範囲スプラッシュを期待しなければ問題ない。そもそもスケルトンは弱敵、一射で倒せるなら属性的な不利など関係ないのだ。

 風弾の効果で切り裂かれたスケルトンが崩れ落ちるのを横目に、群れに特攻。最も群れが厚い所で回転斬りをしながらの風弾射撃。一発撃つ毎に反動で斬撃速度が上がり、二刀合わせて18発を撃ち終える時にはまるで独楽のようだ。


 相馬流抜刀技:水蓮の二刀連斬。それに、陣には知る由もないが期せずして一連の風弾射撃が中級風魔法「風波鞭ウィンド・ウェイブ」と同じ効果を生み出した。そして風。相馬において風は森を育む「木」の属性となる。

 銃の土は未だ弱く水の刃を剋するに至らず、水の刃は風となりて木を育む。水侮土で場が『水』となり、強まった『水』を『風』が運び『木』が受け止める。相馬流の絶大なる相生技。陣の攻撃自体が埒外に強力なのは間違いないが、それに超至近距離からの魔法ダメージと、魔弾を撃つ際のノックバックが威力として乗算され周辺の敵を一掃。

 一匹撃ち漏らしたスケルトンに剣銃を投げ付け粉砕。陣は弾倉を交換しながら次の群れを見る。


「ようやく6分の1か。まだまだ先は長いな…」


 陣は油断すること無く、群れを睨みつけながら回復ポーションを飲む。

 思考する間もない激戦に集中するにつれて、何処からとなく懐かしい「砂の匂い」が漂った気がした。


■■エリアシティ:種界門前・司会者席■20:10


 陣の孤独な奮戦を見やったプレイヤー達は言葉も無い。

 これが名声や実力を伴ったトッププレイヤーなら納得は難しくとも理解は出来ようが、見たこともないプレイヤー、しかも相手は最弱とも言われた剣銃士ガンブレーダーなのだから。


「って☆あれジンさんじゃないですか〜☆

 なんで北区にいるんですか!★?しかもなんか押してるし★

 ホント行動が読めない人ですね〜☆」


「ホウ?あのカレ知ってるんですかMissグラス?」


「グラスオンリーだと草なんでやめてください★

 あの剣銃士さんのPVPを前に司会したことあるんですよ〜☆

 忍者に勝っちゃう剣銃士なんていう珍しい勝負を見させてもらいました☆」


 金魚の言を聞いた周りのプレイヤーが、ざわざわと小声で話しだす。


「おい聞いたか、あの剣銃士、忍者に勝ったんだってよ?」

「つーか普通に考えてあり得ねえだろ、なんであの状況で死に戻らないで戦えてんだよ?」


 ミカミはイライラと机を指で叩くのだが、それに気づかないプレイヤー達は徐々にその声は大きくし、次第に煽動する者が現れる。


「チートじゃね?」「そうだな、剣銃士が強いって段階で無いわ」「チーターか」「卑怯だなマジで」


「黙らっシャラーップ!!」


 ミカミの吠え声と共に、不平を上げていたプレイヤー達に雷が落ちる。

 あまリといえばあまりな癇癪に場も静まり返る。


「このミカミの目がブルーなウチにチートなんていう不正を許すとでも思ってるんデスカ!?ワタシをナメクサルのもタイガイにしてくだサーイ!

 そもそもジョブ毎に優劣の差はアリマセーン!溢れんバカりの工夫と、磨き上げたバトルセンスがあれば誰でもアレくらいは出来るんデス!」


「そうは言っても…なぁ」「まぁDr.ミカミの言うことだから間違いないんだろうけど」「つーかあの剣銃士誰よ?」

 幾分、陣を責める声は減ったが、やはり納得がいかないのか不平不満というより困惑した声が聞こえるようになった。


「良いデショウ!

 後で公式アナウンスする前提でミナサンにちょっとしたタクティクスを差し上げまショウ。

 例えばこの中でアーチャーのプレイヤー、アローを握って近距離戦をしたことがアリマスか?アローをロストしないで状態異常はとってもオトク!

 ブラックスミスのプレイヤー、実はヴァイタリティが高いと体当たりダメージ上がるって知ってマスカ?上手くやればタンク職よりダメージ出マース!

 ベータ時代にガンブレーダーをやっていたプレイヤー、ショットノックバックを上手く利用するとスラッシュスピードが全職No1になるんデスが試したコトアリマスカ?

 ソレを工夫と言うのデス、ソレを試して実践してしまえるからセンスがあると言うのデス。

 知らない事をチートと言うより、誰も知らないタクティクスを見つけたほうが有意義デスヨ。それこそアナタタチが考えたやり方が、次世代スタンダードなのかも知れないんデスから」


 と、茶目っ気たっぷりな表情でミカミは言う。

 その言はこの場に居る、トッププレイヤーには至れずに、こんな楽しげなお祭り(イベント)にも参加できないプレイヤーにとって目の覚めるような言葉だった。普段なら眉唾な事でもそこは開発者のこと、何より説得力を持つのだ。

 じゃあ俺なら、私ならこうすると議論を始めたプレイヤーを見て頷き、こっそりとミカミは舌を出す。


(とは言うもののカレは『呼応者』(レスポンダー)ですからネ。やはりアナタタチとは違うのデスヨ。

 あれだけ派手に戦っていれば、何時アンゼル体が出ても不思議じゃアリマセーン。

 楽しみでしょうが無いデース)


 時間は20:15。いよいよイベントも序盤は終わり、中盤に差し掛かろうとしていた。

まさかの金魚再登場。


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