開催前時
本日二話目投稿。
いや、だって、ねえ。復帰二話目がまさかの相馬家無双だったしねぇ。話の筋としては入れたいシーンだったので後悔はしていませんが。
〓〓『人界』・第一層:エリアシティ・南区「イベント広場」〓〓
光彦と水穂に連れられてイベント広場にやってきた陣は、あまりの人混みに唖然とする。
最初にイベント広場を見た時は閑散としただだっ広い空間があるだけと思っていたのだが、その広場が幾万のプレイヤーで埋め尽くされると壮観の一言。雨の効果もあり、まるで地平線まで人がいるようだ。水穂、光彦と共に来た陣にして、はぐれ無いようにするのが精一杯という有様。集まったプレイヤーは期待に目を輝かせ、Dr.ミカミの登場を今かと待ち侘びている。
「しっかし突発イベントだって言うのに凄い人だな!
よくこんだけ集まったモンだ!」
「それだけ今回のイベントへの期待度が高いということだ!
正式サービスに入ってから今まで、運営主催のイベントなど無かったからな!
次の種界が開くまで時間があるから、そろそろハイレベルプレイヤーはダレる時期!テコ入れでもしたくなったのだろうよ!」
周りの雑踏と雨音が酷いため、大声で話さなければ隣の光彦にも伝わらない。
水穂は人酔いしたのかふらふらと周りのプレイヤーにぶつかっているが、知れ渡った名声からか笑って許されている。
「さて、そろそろ時間だぞ!Dr.ミカミがどう登場するのか楽しみだな!」
何のことだと陣が聞き返そうとした時、辺りに稲光が走った。
雷が苦手な水穂が「ひぅ」っと陣にしがみ付く。雷は屈折しながら本来はあり得ない軌道を描き、空に巨大なモニターを描き出した。
「Lady's and Gentlemen!
日本のミナサーン!EAOを楽しんでいマスか?私がDr.ミカミデース!」
ドンっと一際激しい雷がモニターに落ち、派手なエフェクトと共に爆散する。
今まで降り注いでいた雨が止み、俄に起こった霧をフォグスクリーンに見立てDr.ミカミの顔が映し出される。
「ミナサンのお陰でEAOもマズマズ順調な滑り出しをしました。
VR型ゲームの危険性が叫ばれる今、あえてEAOをプレイしてくれるミナサンには感謝が堪えマセーン。
そこで!ワタシの発案で今回のイベントを起しました!モチロン、優秀な成績を収めたプレイヤーには豪華景品を大盤振る舞イ!期待して貰ってイイデスヨー」
「レアアイテム!」「おお、Dr,ミカミだ…」
水穂と光彦はお互い別種の感動だが、二人共同じように目を輝かせている。それこそ先程のキー達と変わらない。元々、ミカミを胡散臭く感じている陣に取ってはその無駄に華美な姿と大仰なボディランゲージは胡散臭さを増大させる要素しか無いのだが、まぁ二人共楽しそうだからいいかと肩を竦ませる。
「サテ、景品リストは後ほどミナサンに送るとして、イベントのルールを説明しマース!
現在は19:15、45minutes後の本日20:00ジャスト、ここから1hourの「首都防衛戦」!EAO始まって以来の大規模スタンピートが今回のイベントデース!
エリアシティ中央にある『種界門』にこれからシティ全域を守っていたバリアを張り直しマース!東西南北の区域が一つ落とされる毎にバリアはメニーメニー弱体化!4つの区域が落とされたらイベントはプレイヤーの負けデース!
一つでも落とされずに残っていればプレイヤー側のウィン!豪華景品をゲットデース!」
周りから「おい、ソレって結構簡単じゃねーか?」「Drも言ってるけどご愛顧感謝ボーナスみたいなもんだろ?」と歓声が上がる。その声を尻目に、陣はミカミの言に引っかかりを覚えていた。そう、思わず独り言ちてしまうほどの大きな引っ掛かりを。
「…って都市守るバリアってのも初耳だが、そんなモン貼り直して平気なのか?
キーの親父さんらとか実際モンスターにやられて怪我してるんだぞ」
「ハイそこのガンブレーダーのキミィ!!!」
人に聞かせた意識の無い陣がビクッと震える。
巨大スクリーンに写ったミカミは陣をじっと見つめ、何事かと周囲が騒然とする。
「ガンブレーダー君!ほう?ジン君デスか。
今ジン君はとてもイイ所に気が付きました!そう、それがこのイベントのキモなのデース!」
まるで大学で講義でもするかのような、出来の悪い学生がたまたま正解を導き出し、それを喜ぶ教授のような口調でミカミは続ける。
「バリアを『種界門』に貼り直す!するとドウでしょう?NPCを守ってくれていたセーフティーは当然無くなりマース!プレイヤーのミナサンは死んでもリスポーンします!デスペナありますけど、当然デスよね?個人的に復活できなかったら面白さ半減以下だと思いマース!」
ミカミの冗談に雑然とした場の空気が和む。
プレイヤー達がほぐれたのを見て、鋭くミカミが言を放つ。
「でも、これがNPCならどうなるか?」
集まったプレイヤーを見渡すように首を回したミカミは、子供のような目で告げる。
往々にて、子供は残酷であると体現するかのように。
「プレイヤーのミナサンと違ってNPCは二度と復活しまセーン。
まぁ『海域』にあるエリアビレッジである程度は代替出来マスけど相当不便になりマスねー。ソウ!モンスターとバトルするだけではこのイベントは成り立ちマセーン!何を守り、何を切り捨てるのか。ソレともそれらを良しとセズに、スタンピードを殲滅するのを優先するか。高度なタクティクスが必要になりマース!」
東西南と、落とすわけには行かない区域が揃っている。
東区を落とされればNPCショップが無くなり冒険をするのに不便になるだろう。『海域』まで行かなければポーション等を気軽に買うことも出来なくなるのだ。
西区を落とされれば自由に露天商店を出すことも難しくなり、プレイヤーメイド品を買うことも覚束なくなる。それは即ちEAO攻略が劇的に遅くなることを意味する。
南区を落とされれば運営機能が弱る。何かあった時、誰に助けを求めればいいのだ。いや、流石にこれは代替手段を用意するだろうが、今までのような手厚いサポートは無くなるかもしれない。本来の営利運営ならそういうことはあり得ないが、良くも悪くもEAOは「Dr.ミカミのゲーム」。ペナルティでどんな事が起こるのか、それこそミカミの胸の内次第だ。
だが、陣にしてみれば北区が最も心配だ。
運営に絡まず、プレイヤーにも絡まず、攻略上の必要性も薄い。あまり価値の無い区域なのだ。
陣のようにその雰囲気や有り様そのものに価値を見出すプレイヤーはいるだろうが、絶対的少数である事は間違いないだろう。
スクリーン上のミカミは両手を広げる。
「さぁミナサン!結束するも良し、一発逆転狙いでスタンピートに戦いを挑むも良し!今までのプレイヤーとしてのキャリアを存分に活かしてこのイベントを乗り切ってクダサーイ!
ソレでは!ここに『首都防衛戦』の開催を宣言しマース!
ミナサン!GoodLuck!」
ヴンとSE音を残し、ミカミの姿は消える。
プレイヤーは自分のギルドに連絡を取る者、今のうちにと補給に出る者、考えを巡らす者と様々だ。
陣と水穂は途方に暮れ、光彦は何事か考え込む。
不意に、水穂と光彦に同時にプライベートメッセージが入ったようだ。じっとチャットウィンドウを見た光彦は陣の肩に手を置く。
「『四神会』『箱庭』『黄金福音』。三大ギルドの主だったメンバーを集めてこれから戦術決定の為の会議を行うそうだ。
陣。お前は『箱庭』幹部の水穂嬢の兄、そして『黄金福音』幹部の私の友として参加する事が出来る。
初心者であるのにこれだけの大イベントだ。呆然とするのは分かるが迷っている暇は無いぞ、行くなら早くしなければ」
「あぁ…そうだな。行こう」
陣は迷いを払い歩を進める。
出来るだけ被害を出さずに済ます方法を見付け出さねば成らないのだ。
イベント開始まで残り30分、余りにも考える時間が少なすぎた。
〓〓『人界』・第一層:エリアシティ・西区「黄金福音:ギルドホーム」〓〓
三大ギルド会議を発案したのが『黄金福音』のギルドマスターだと言うことで、会議場所は『黄金福音』のギルドホームにて執り行われることに成った。『四神会』からのクレームがあり一悶着ありかけたそうだが、時間がないとの事でゴリ押した格好になったらしい。
「こんだけ雁首揃えるのも珍しいのう。本当はGVGでも打ちたい気分じゃがな。
それでどのギルドが何処を護る事にするんじゃ?ウチは東西南と何処でも構わんぞ?」
『四神会』ギルドリーダー、朱雀。
グラップラーが装備するナックルダスターを紐で結び、ネックレスのようにぶら下げたプレイヤーだ。幼女のようなアバターにも関わらず纏う空気は陰性の物。その笑みは可憐なのだが、向けられれば大型猛禽類の鳥獣に睨まれたような錯覚さえ覚える。光彦ですら薄っすらと出る汗を止められ無い。まぁ、修行と称して猛獣の目の前に放り投げられた経験のある陣からすれば、「まぁ取って食われるわけじゃないし」と気楽な物だし、水穂にしても権江よりは怖くないと涼しい顔だったりするのだが。
「ウチも何処でもいいんですがね。まぁこっちは少数精鋭なんで戦力の多い西を担当させて貰いましょうか。
『箱庭』さんは東で?」
『黄金福音』ギルドリーダー、スオウ。
光彦と同じく眼鏡を装備、というか黄金福音のメンバーは全員同じ眼鏡を装備している。四神会の朱雀とは真逆の陽性の雰囲気、いたずら小僧というか「知的なお祭り好き」というイメージが合う。
光彦含めて黄金福音のメンバーは場を引っ掻き回す「トリックスター」という印象を持たれているようだが、兎に角派手で楽しいことが好きなのだろう。まぁ、朱雀との相性は最悪に近いだろうが。
「そうですね、こちらは東を担当させて貰います。
『箱庭』は遠距離職が多いから、城壁の厚い東区が一番守りやすいですし」
『箱庭』ギルドリーダー、ミオソティス。
腰まである金髪を泳がせ、豊かな胸を誇示するかのように腕を組む女性。腰に佩いた長剣を見れば剣士職なのだろう。尖った耳を持つアバターを見ればエルフになるのだろうが、その特性まで理解していない陣には「あぁ、エルフ?ってこんなんか」といった所か。
一見すると可憐な美少女なのだが、陣はその立ち姿から全身がバネのように鍛えられている事を見て取る。こりゃあ相当に「やる」なと、その美貌ではなく剣の腕に興味を抱く。
「そんじゃ四神は南で決まりね、んじゃそっからの戦術考えようか」
「我らはまだ承知していないぞ!そもそも福音が主導すること自体納得していない!」
龍のレリーフを彫り込んだ鎧と、青龍刀を装備した男がスオウに怒鳴りつける。
朱雀は面倒臭げに手を振り、
「良い、青龍。何処でも良いと言ったのはウチじゃ」
「しかし!朱雀様!」
「良いと言ったぞ?」
キロと朱雀は青龍と呼んだ男を睨みつけ、男は震えながら引き下がる。
「ではウチは南区じゃの。
まぁ精々運営に顔でも売っておくとしようかい」
ほっほっほと朱雀が笑う。
陣は話の流れから北区が出てこず、最初から切り捨てられているのを見て取り待ったを掛ける。
「ちょっと待てやコラ!
テメエら雁首揃えて北区何処やったんだ?お?」
「朱雀様の前での狼藉許さんぞ!」
「許さんのはこっちだボケ!」
白い毛皮を纏った棒使いの突込を、腰を回転させながら手刀で流す。
その勢いで棒を奪い取り背中に一閃。倒れこんだ棒使いの脇に棒を放り捨てギルドマスター達が会談を行なっていたテーブルに拳を叩きつける。
陣の拳は頑丈そうなテーブルを陥没させるが、ギルドリーダー達は一瞬眉を顰める程度の反応しかしない。
EAOを誇るトップギルドのリーダーともなれば、胆力もまた桁違いなのだろう。
「ほほ、最弱の剣銃士にして白虎を子供のように扱うか。そんな形でも一応、まぁ辛うじて四神の一角なんじゃがな?センスは0じゃが。
ヌシ、なかなか面白いのう…攻略の前線でもヌシは見たことが無い、どんなやり方でその強さを身につけた?」
「今はそんな事問題じゃねーだろうが?テメーだけに聞いてるんじゃ無えんだよ。
なんで北区の話題が出てこないんだ!?テメエら端から見捨てる気かよ?」
一瞬、朱雀は目を細めるが、ふと肩の力を抜いてスオウを見やる。
「と、この乱入した御仁は言っておる訳だが。
主催は『黄金福音』じゃ。得意の詭弁で納得させるが良い」
スオウは朱雀に言われ難しい顔をしながら、陣に
「詭弁は酷いなぁ。せめてディベートって言ってくれよ。
まぁ、それは良いんだけど。そもそも君、誰?」
と、根本的な事を問いかけるのだった。
※---※---※---※
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「はっはっは!ライトっちのリア友で剣舞姫のリア兄とか、そりゃあ確かにビッグゲストだね!」
スオウは陣の肩を乱暴に叩き、心から楽しげにしている。
ミオソティスも「ふふふ」と水穂を眺め、恥ずかしいのか水穂は陣の後ろに隠れてしまった。
話の筋が変わってしまった事に陣は頭を抱える。
「いや、俺の素性なんざどうでもいいだろうがよ?
それよりこれだけ面子が揃ってて北区の話が出ないっつーのはどういう事なんだ?」
「確かにね、出来ればこんな面白そうなプレイヤーとは平時に会いたかったものだけど、今はまぁ緊急事態だからね。
僕らの中では共通認識なんだけど、納得行かないみたいだからちゃんと説明するよ」
スオウは部屋に置かれたエリアシティの俯瞰図に歩み寄り丁寧に指差していく。
「まず中央、ここを落とされたら負けなんで当然重要だけど、正直今回はここは無視しちゃっていい。他の区域が落とされなければいいって話だからね。
次に東西南。言わなくても分かると思うけどここは超重要。落とされれば僕らのゲームプレイに支障出ちゃうからさ。
最後に問題の北区。
ぶっちゃけ、僕らは北区には落ちて欲しいとすら思ってるんだ」
スオウは秀麗な顔を歪め、憎々しげに地図を叩く。
「僕らが攻略を足踏みしている『煉獄』!聞いてるかもしれないけど、悪質なプレイヤーキラーがPVPを仕掛けて攻略の邪魔をするから遅々として進まないんだ。
勿論そんな連中相手を生産者職の皆は相手にしないし、EAOのAIは高性能だからNPCショップだって相手にしなくなるんだ。
だけどね、北区のNPCショップだけは違うんだよ。相手がプレイヤーキラーだろうと犯罪者コード食らってる相手だろうがアイテムを売ってしまうんだ!」
「つまり何か?プレイの邪魔だから北区が崩壊しようと知ったこっちゃ無いって事か?
ここに居るのはEAOが誇るトッププレイヤー達なんだろ?誰一人としてそこに住む人を守るつもりは無いって事か?」
陣はぐるりと部屋を見渡す。
三大ギルドのリーダーや幹部達は云うに及ばず、光彦や水穂ですら難しい顔で黙りこんでしまっていた。
それだけ、『煉獄』では苦労もしているのだろう。だが、北区を『貧民街』という「設定」に押しこめ、無用、むしろ邪魔だと滅ぼす権利が誰にあるのか。
「そういう事だね、僕達は今回北区を守りには行かない。まぁプレイヤーキラー達にすれば貴重な補給源だし、彼らが守るんじゃないのかな?むしろ彼らも少し痛い目に合って懲りてくれれば万々歳だ。
それに住人って言うけどNPCだよ?彼らが消えてもゲノムブレインがデータ補完して総数は守られるんじゃないかな」
「分かった分かった。
貴重なブリーフィングの時間を奪って悪かったな。
まぁ、一人くらい居ても居なくても戦力的には大差無いだろうから、俺は俺で勝手にやらせてもらうわ」
埒が明かない事を感じた陣は踵を返し、ギルドホームから去ろうとする。ただでさえ時間が無いのだ、ここにいるのが無為ならば用は無い。
スオウは待ったと、陣の肩を掴み強引に引きとめようとまくし立てる。
「ちょっとちょっと!いくら一人とは言っても足並み揃えてもらわないと困るんだよ!?
戦力云々じゃなくてなくて、こっちの方針に従ってもらわなきゃ!
安易な英雄願望で迷惑かけられたら堪らない…」
スオウが陣を強引に振り返らせ、言う事を聞かせようとした、その時。
「黙れ」
陣の言と共に、悍ましいまでの「何か」が場に充満した。反射的に朱雀は横柄に座っていた椅子から立ち上がり、ミオソティスは長剣の柄に手をかける。その「何か」を真正面から浴びたであろうスオウは、一歩二歩と下がり腰が抜けたようにへたり込んでしまった。失禁すらしなかったものの、そこにEAOが誇る三大ギルドのリーダーだという強さも、カリスマも見い出せない。
彼らの反応を責めることは出来ないであろう。その「何か」は平和を謳歌する日本では、本来直面する物ではないのだ。
「…」
陣はスオウを横目に見下ろし、何事も無かったかのようにギルドホームを後にする。
陣が去ったと同時、場に充満していた何かはあっさりと霧散する。悪寒の如き冷や汗と、沈黙が陣の存在を物語るだけだ。
「ライトっち…ありゃなんだ?僕は何をされた?なんで腰が抜けてるんだ?」
「分からんか『福音』の?ウチのライバルだからと目をかけてやっておったが、見込み違いかの。
まだ『箱庭』の小娘の方が弁えておるようじゃな」
朱雀は乱暴に椅子に座ると、彼女にしては「とても珍しく」喜色に塗れ腕を組む。
ミオソティスは、何故自分が長剣を握ってしまったのか。ましてや後少しでもあの剣銃士が場にいたら、間違いなく斬りかかるつもりになっていたのか自分でも分からず、困惑した表情で微かに震える手を眺める。
「私には分かりません。だけど、何故かあの剣銃士を倒さなければ、次の瞬間には私が殺される気がしたんです」
朱雀はまた、何時もの仄暗い笑みを浮かべ、呆れたように鼻を鳴らす。
「っほ、『箱庭』のも根本的には分かってはおらなんだか。
あれが本物の殺気よ。モンスターのそれや我らがお遊びの対人戦などとは次元が違う、悪霊の巣に無粋に踏み込んだ生者への怨念のような、実に強烈にして暗き殺気じゃったのう。全くウチ好みの天晴な殺意よな!
あのまま場に居れば接吻を交わすように拳を交え、抱き合うように骨を砕き、愛し合うように蹂躙し合ったのにのう。真、勿体無いことをしたわい。
のう『道化』?あやつ、よほど面白き生き方をしてきたと見えるのう」
「戦闘狂もいい加減にしないと寿命を縮めるぞ朱雀?
リアルを詮索するのはご法度だろうに。まぁ貴女は自分の過去を公言して憚らないので言うが、あいつは貴女と良い勝負だ」
それはまた楽しみとほくそ笑む朱雀を尻目に、光彦は未だ腰が抜けて立てないスオウを見やる。
まぁ、アレを食らっちゃしょうが無いと気を取り直し、光彦は手を打ち鳴らす。
「ハイハイ、こっちのリーダーはこんなザマなんで私が仕切る!
残された時間は僅かだ、ちゃっちゃと動いてサクっと景品ゲットするとしようじゃないか。
今ので寝覚めが悪いと思う人は、持ち場を守りきったら北区守りに行こうという事でお願いする。
ライバルが少ないという事はポイントゲットのチャンスでもある、上手い具合にやろう」
そう言いながらも、光彦は最大効率でスタンピードを殲滅し、陣の元に駆けつけるつもりだ。
悪友とはいえ、こんな時に傍に居てやれないで何が友だと心に思うのだった。
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水穂はミオソティスの服を引っ張り、耳元に話しかける。
「みおっち、あのな。戦術考えるとき、出来れば私は戦力に数えないで欲しいんだな。
一番わるい方に行っちゃったら、あたしはあにぃの所に行くからな」
ミオソティスは思案し、困った笑い顔で水穂に言う。
「そうは言ってもアクア。貴女は『箱庭』の数少ない前衛なのよ?
貴女に抜けられたら戦線維持も難しいし、出来ればこっちに居て欲しいんだけど」
水穂はプルプルと頭を振り、にかっと笑って答える。
「この前入ったソニアっちもそこそこ使えるようになったし、みおっちも居るんだからガーデンはだいじょーぶ。
さいあく、東区外域から大回りでモンスター薙払いながら行くからパーティー崩壊するほどには後ろに行かさないんだな」
聞き耳を立てていた光彦が笑いながら二人に近づき、ポンポンと水穂の頭を撫でる。
「なんだ、あの未ドリルは結局『箱庭』の世話になってるのか。面白そうなキャラだったから『福音』で引き取ろうと思ってたんだがな!あの未ドリルをツインドリルにするのを楽しみにしていたというのにw」
光彦は素早く水穂とプライベートチャットのウインドウを開き、水穂に話しかける。
自分は友情から陣の元に行くつもりだったが、この兄妹にはもっと切実な問題があるのだ。
『行くのか?』
『うん…行く。心から怒った兄様は本当に久し振り。
相当自制してたけど、多分あれだとちょっとした事で箍が外れる…』
水穂は、悲しそうな顔で陣が去って行った扉を見ていた。その扉が、在りし日に繋がらなければいいのにと願いながら。
ロリババア出現。
次話からは普通どおり深夜0時更新とします。
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2013/08/13 一部表現を変更、誤字修正