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蠢動2

復帰第二話目が、まさかの権江無双。


〓〓???〓〓


 陣が小さな幸せに浸っている5時間前。

 相変わらず薄暗い部屋で、華美な男は満足気に報告を聞いていた。


「ディメンション・ブロックからの負荷(トラフィック)は尚も増大中。

 アンゼル体のアクセスはやはり『呼応者』(レスポンダー)に向かっているようです」


「OK、いい傾向デスネー。彼女も痺れを切らしてヤキモキしているンデショー」


 ディメンション・ブロックから彼女を感知した後から、それまで遅々として進まなかった研究がここに来て一気に進展したのはやはり『呼応者』(レスポンダー)のおかげなのだろう。

 『呼応理論』(ロジック)からアンゼル体にアクションを起こさせる特殊な人材が必要だと判明し早5年。人材探索とアンゼル体観測を安全に行うため開発された『Eden Acceleration Online』であったが、予想以上の結果に男は得意気に鼻を鳴らす。


『呼応者』(レスポンダー)と言えば汚れ仕事の専門部隊(シャドウサービス)からの結果はまだデスか?

 彼らの事デスからそろそろ朗報を期待しているのデスが?」


「…『呼応者』(レスポンダー)の素性は判明しております。

 名前は『相馬陣』、20歳。心葉大学に通う学生です。心葉大学の特殊性によって専門学科は無いようですが、特に苦手科目も得意科目も無いようです。運動能力に秀で、スポーツジャンルによってはプロアスリートに匹敵するポテンシャルを持っているようですね。

 EAOサーバ内においてはジンというキャラネームで剣銃士ガンブレーダーとしてプレイ中。現在は休講時期に当たるためログイン率は良いです。

 以上になります…」


 普段は苛烈とも言える程明晰な秘書の言であるのに、言い淀んだ事に男は怪訝な顔をする。

 しかもその報告はとても満足行く物とは言えない情報量なのだ。

 若干顔色の悪い秘書に対し、男は更に情報を要求する。


「君らしく無いデスネー。名前が分かったのはGoodですが、それ以外の情報がBadです。

 ワタシは相馬陣君?のファミリーから過去の血統リネージュに至るまで全てを知りたいと言ったハズデース。

 そんなハッキングすれば分かる情報程度では汚れ仕事の専門部隊(シャドウサービス)を使った意味がありまセーン。

 彼らは何をやってたんデスか?」


 汚れ仕事の専門部隊(シャドウサービス)

 男の企業を裏で支える所謂「戦争屋」(ウォードッグ)共だ。その構成員は元アメリカ陸軍の特殊部隊上がりやPMC(民間軍事会社)のリーダークラスの人材を多数抱え、男が所属する組織の暗部を一手に引き受ける存在。

 虎の子とまでは言えないが、それなりに腕は確かで便利な連中である事は間違いない。


 秘書はいよいよ顔面蒼白になり、冷や汗を流しながら答える。


「…全滅しました」


「は?耳おかしくなりましたかねー。once more」


「だからSSは全滅したんです!

 相馬陣の素性を確かめるために彼の実家に向かい、その地でSSメンバーは撃破されました!

 辛うじて全員生存、日本政府より引き渡され戻って来てはいますが、『悪鬼デーモンに会った』と怯えるばかりで要領を得ません!」


「…攻撃映像レコードは残しているんですよね?

 SSが稼働する時は必ず残す筈ですが」


 思わずキャラを捨て素で答えてしまった男に対し、秘書は微かに目を泳がせる。

 映像を男に見せていいものかどうかの判断が付かないが、この場では男が最高責任者だ。言えば見せざるを得ないだろう。正直一度見た秘書はもう二度と見たく無いと思っているのだが、渋々とその存在を伝える。


「…かなり映像が荒いですが存在はしています。

 しかし、ショッキングな内容ですし、あまりお薦め出来ません。

 それでもご覧になりますか?」


 当然だと男が頷いたのを確認し、秘書は映像ファイルを開く。

 ジジっというノイズ音の後に、作戦行動の映像ログが流れ始めた。


〓〓相馬本家・映像〓〓


 大型のバンから10人程の男達が姿を表わす。

 目立たぬよう平服ではあるが、纏う剣呑な雰囲気や次々取り出される突撃銃アサルトライフルを見れば堅気の人間だとは誰も思わないであろう。素性を知られないために意図的に無個性にしているのか、全員判を押したように同じ格好、同じ武装だ。スターライトスコープを装着した男達は物音を立てず、統率された動きで整然と準備を整えていく。


『現在2:00AM、作戦目標はジン・ソウマと呼ばれる男の情報を可能な限り確保する事。

 クライアントのオーダーは『なんでもいいから情報を取得しろ』との仰せだ。

 ここは合衆国ステイツでは無い、家人に遭遇しても可能な限り殺すな。弾頭はショック弾を使用、実弾は避けろ。

 では作戦行動開始!GOGOGO!』


 男達は一斉に行動を開始する。

 3組に別れそれぞれ別サイドから侵入口を作成し、屋内に突入する。

 レコーダーを装備している隊長は1階の窓をカッターで切断。鍵を外して侵入したようだ。


『Alpha、エントリー』

『Bravo、エントリー』

『Charlie、エントリー』


『よし、では各自行動続行しろ』


 隊長が侵入した部屋はどうやら居間のようだった。

 窓口は広く侵入は容易かったが、期待しているような情報はこの部屋には無いだろう。

 隊長は二人隊員を連れ、廊下に進出する。


『Alpha、移動開始。

 1階廊下クリア』


『Bravo、ラッキーだ。こちらは書斎のようだ。

 情報を収集する』


『Charlie、こちらは…

 Freeze!』


 Cチームが何者かに発見されたらしい。

 これで発見されずに作戦行動を終えることは不可能になった。速やかに拘束し行動を終える必要がある。命令通り発砲しなかった事は評価出来るが、リスクは増大する。

 隊長は内心で舌打ちしながら、無線を通し命令を下す。


『Charlie!拘束したらそちらは速やかに撤退しろ!引き上げ地点にて他チームを待て!

 Bravoは引き続き情報採取を優先!発見された以上長居は出来ん、その部屋を調べ終わったら無理せず帰還しろ!』


『Bravo了解、情報収集を続ける』


『…ガガッ…お前さんら誰じゃぁ?』


 日本語の聞き覚えの無い声がCチームの無線から戻ってきた。

 信じ難い事だが、Cチームは何者かに全滅させられたらしい。

 シャドウサービスのメンバーは戦争屋だ。今でこそ非公式だが、元々戦闘のスペシャリスト。当然その辺の一般市民にやられるようなヤワな人間はいない。

 だが現実は現実だ。考え難い想像ではあるが、たまたまこの家に自分達以上の猛者が存在していた可能性も0ではない。

 隊長である自分にしても、一般市民に偽装したテロリストに何度も煮え湯を飲まされた経験がある。例え子供だったとしても正体は少年兵であったり、果ては遠隔起動の対人地雷を持たされた人間爆弾だったりと、想像の埒外な事など幾度もあったのだ。


『Shit!

 Bravo!Charlieがやられた!情報収集を中断して至急こちらと合流しろ!

 我々がいた証拠を残す訳にはいかん!Charlieを救出したら脱出するぞ!』


『Bravoりょうか…Hey!』


 バババという発砲音が連続して響く、Bravoも誰かしらに遭遇したらしい。

 隊長は改めて舌打ちしそうになるが、状況を考えれば致し方ないだろう。見知らぬ迎撃者がどれだけの技術を保有していようが、ここは日本だ。銃撃に対して優位な行動を取れるとは思えない。銃弾にしろ薬莢にしろ販売記録も製造記録も無い物だ。そこから我々を辿れるとは思わない。


『Bravo!殺すなよ!』


『…ガガッ…何言ってるか分からんのうぅぅ、日本語で喋れやぁぁ…ブツッ…』


 なんという事だろうか。SSが誇る隊員が一瞬にして6人無力化された事になる。

 平和ボケしている日本は何処に行った?何時の間にか紛争地帯にいるとでも言うのか!?

 後ろについた隊員もちょっとしたホラーのような現状に不安を覚えたのか、普段は命令に反抗することなどあり得ないにも関わらず引き上げようと具申し始める。


『隊長!この家は何かおかしい!

 我々の正体が露見していないなら、ここは一旦引き上げて態勢を整えるべきだ』


『一方的に損害だけ与えられて引き上げるわけにはいかん!

 どんな小さな情報でもいい!何か見つけるんだ!』


 隊長にしても引き上げたいのは山々だが、何の成果も無く引き上げてしまえばSSの存在価値が問われる事になる。

 命と引き換えにサラリーを貰おうとまでは思わないが、高給に見合う仕事をしなければいつ尻尾を切られるか分からない。それ以上に正体不明の何かに『正体不明のまま』舐められっぱなしでは戦争屋の名が泣く。


 念の為無線を完全に切り、ハンドサインで進行を伝える。

 静まり返った廊下を静音行動で進むと、背後に薄い気配を感じる。

 付いて来ていたはずの隊員はいつの間にかおらず、そこには真っ白な寝間着を着た少女がいるだけだった。


 唖然とする隊長を横目に、薄い気配の少女は「興味が無い」とばかりに踵を返し廊下を進んでいってしまう。


『おい!お前は何者だ!

 他の隊員を何処へやったんだ!?』


 もはや軽いパニックになりかけている隊長は、必死に少女を追いかけるも曲がり角で見失ってしまう。

 スターライトスコープの感度を最大に上げ、辺りを見渡すと離れの建物に向かう少女が辛うじて見えた。


『クソッ!舐めやがって!

 せめてあの子供だけでも確保しないとこの失点は取り返せないか…』


 隊長はAKライフルに装填されていたショック弾を実弾に入れ替える。

 手足の一本でも撃ち抜けば無力化出来るだろう。状況を鑑みるに証拠隠滅は不可能、ならば手荒でも目標を達成するのみ。

 某国大使館に潜り込むまで綱渡りが続くが、そこは蛇の道は蛇。比較的安全なルートは確保できる自信がある。最終的には米国に戻るのだが、犯罪人引渡条約を結んでいない某国なら問題ない。


 離れの扉は開けっ放しになっていた。

 警戒しながら入るも、少女の姿は見えない。代わりに大部屋の中央に小柄な老人が正座している。

 老人は往々にして頑固者が多く喋らなかったり、痛みの耐性が弱いせいか手荒な真似をするとショック死する可能性もあるため拷問にもかけ難い。そういう意味で、老人より少女の方が情報源という意味では好ましいのだが、見当たらない者に執着してもしょうがないだろう。

 老人にライフルを突きつけ、隊長は誰何する。


『Hey、こっちを向け!貴様はこの家の住人か?

 抵抗しなければ手荒な真似はしない』


 何が起こっているのか分からないのか、老人は微動だにしない。

 隊長はライフルで小突くが、まるで置物のように無反応だ。


 しょうがないと正面に回ろうと一瞬目を離すと、老人はまるで蜃気楼だったかのように姿を消す。


『なんだつ!?

 ここは幽霊屋敷か!?』


「貴方、ちょっと五月蝿いですよ」


 ドンという鈍い音と共に、隊長が崩れ落ちる。

 隊長の視点に合わせて録画されるレコーダーも、畳のアップで止まってしまった。


 トントンとレコーダーを叩く音、ふいに視点が高くなり老人の顔が映し出される。


「どなたがどんな目的で侵入してきたのか分かりませんが、次は貴方がいらっしゃい。

 相馬の者は逃げも隠れもしませんよ?」


 グシャっという音と共に、映像は砂嵐サンドノイズを映すだけとなった。


〓〓???〓〓


「それで、シャドウサービスのウォードッグ共は全滅したと…」


「はい、日本政府から合衆国ステイツ経由で『相馬の人間に手を出すな、何か問題が発生してもこちらは責任持てない!』という伝言が来ております」


 いくら平和だとはいえ、一国の政府から一個人・一家族の事で苦情が来るなど普通はあり得ない。

 一体『相馬』とはなんなのだ。


「これ以外には何かわかりませんか?」


「一応、相馬家は『相馬流』という武術宗家だという事は分かっています。

 また最後に写っていた老人が『権江』という呼応者レスポンダーの祖父であるという事も、日本政府からの伝言により判明しています。

 ただそれ以上の事は何も。

 今は情報部の人間を動かしてネット上から相馬というキーワードで調べさせていますが、ご報告した通りあまり芳しい結果は得られていません。

 今の所、部隊を再度派遣する等の処理は控えております」


 男は椅子に深く座り直し、目頭を揉む。

 最上級の椅子であるのに、まるで岩の上に座っているような錯覚。確かにこの秘書をして言い淀ませるだけのショッキングな内容だった。


「調べ方はそれでOKです、無理せずやって下さい。これ以上の被害は認めません。PTSD(心的外傷後ストレス障害)食らったシャドウサービスの隊員には手厚いカウンセリングを付けてやって下さいね」


 流れてきた冷や汗を自覚して、額を拭った男はボフッと椅子から跳ね上がりモニタールームの出口に向かう。


「それがどんな人間であっても『EAO』のオンライン・ワールドには手出し出来ないでしょう。

 物理干渉リアルが無理なら仮想空間バーチャルで、こちらのフィールドで調べればいいだけです。

 元々呼応者(レスポンダー)へアクセスするためのイベントは準備中でしたし、そちらから行くとしましょう。

 Dr.ミカミの名にかけて、呼応者(レスポンダー)を目覚めさせる足掛かりくらいは作って見せましょう」


 やれやれと秘書は首を振り、ミカミの後について行く。

 秘書は男が最後まで何時もの調子を取り戻さず、「素の状態」で話していたことに気づいていなかった。

あまりにもあんまりなんで、お昼にもう一話UPします(汗。


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2013/08/13 一部文言の調整を行いました。

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