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号砲

凄まじく長いことお待たせしました、まさか半年空いてしまうとは!(滝汗

諸々事情があったのですが、それはまた別途活動報告にて報告させて頂きます。

色々と細かい設定を変更しましたので、活動報告での変更点を見ていただくか、久し振りという事もありますので再読していただけると幸いです。


〓〓『人界』(トレジャー)・第五層:黒樹海〓〓


「ハッハッハ、フー…スー…」

 陣は呼吸を抑え、ターゲット・スコープを合わせ狙いを付ける。

 狙いは小規模なコボルトの群れ。可愛らしく丸っこい犬が、武器を携え二足歩行で歩いているような見た目のモンスターだ。

 その愛くるしさから捕縛テイムしてペットにされる等、プレイヤーからマスコット扱いされているのだが、見た目と違い強力な腕力と標的を食い千切る強靭な顎を持つ油断ならないモンスター。


 相馬本家より戻り早一週間。

 EAOの世界で自らの武術が通用することを実感した陣は、現実世界では修行を行うことが難しい「銃砲術」を徹底的に鍛えることにしていた。場所は人界で最も獣型タイプのモンスターが多い「黒樹海」。その力量がどんなに高くても未だEAOにおいて初心者の域を出ない陣にとって、「狩り」の感覚を養うのにこれほど向いたフィールドも他に存在しない。


 整息をした陣は、一気にトリガーを引く。

 ヒュボッ!空気を吸い込むような軽い砲声と共に第一射。

 狙い違わず頭部に着弾、一瞬でコボルトは火達磨になる。リーダー格らしき一匹が辺りのコボルトに警戒を呼びかけているようだが、獣毛の焼ける匂いが辺りに充満しお得意の鼻も効かないらしい。その隙を付き大樹の影に隠れた陣は、モンスターが自分の姿を見失った事を確認し再度狙いを定める。


(狙ってやってることだけど魔法お手軽過ぎるだろ!?

 低威力焼夷弾連発ってどんな鉄火場だ!?ファンタジーってのは本当に怖い所だ!)


 特に高価では無いが、初期装備の無限弾ではなく『炎弾マガジンLV2+10』にした効果がここに現れている。これは無限弾と違い10発ごとに使い捨てになってしまう弾倉マガジンなのだが、その分無限弾より遥かに高いダメージを叩き出す。かつコボルトは地属性のモンスター。属性的な相性の良さも相まって、ほぼ『ワンショットキル』が出来ている状態。

 とはいえ剣銃ガンブレードの威力の低さが災いし、本来ならスプラッシュ効果のある炎属性攻撃も範囲が広がらず1匹しか仕留めることが出来ずにいる。陣にとっては不本意ながら、ヒット・アンド・アウェイをせざるを得ない状態だ。


 姿を見失ったコボルトがある程度離れた事を見た陣は、ここが機と見て大樹より躍り出る。

 最後尾にいたコボルトに向かって狙いを定めずに三連射、剣銃の集弾性能の悪さで当たる事はないが群れの足並みを乱すことには成功。最後尾にいた1匹は後続が混乱していることに気づかず、陣に向かって来る。陣は冷静にコボルトとの相対距離を目視、距離が5mを切った瞬間に立射姿勢から1射。見事に命中し、このコボルトも火達磨になる。


(見た目に騙されて狙撃銃スナイパーライフル突撃銃アサルトライフルだと思ったんだけど、動的射撃なら10m以上厳しいってようは剣銃コイツって拳銃と同じ程度の性能なんだよなぁ。

 長銃と同じ感覚で撃ってりゃそりゃ当たらんわ)


 その陣の考えは実は間違っていて、対象距離も剣銃マスタリの成長と共に伸びていく。今現在の成長度では拳銃レベルの性能が限界という事だ。


 コボルトリーダーが指示を取り群れの混乱は収まったようだが、苦手な炎を目の前にしたせいか群れは直ぐには襲ってこない。

 その隙にダメ押しで残弾を斉射、素早く弾倉交換リロード。立射姿勢を保ちながら次のコボルトが炎を抜ける瞬間を待つ。


『BOWBOWBOW!』


 コボルトリーダーが吠え、「さて、来るか?」と陣がトリガーに手をかけたと同時、コボルトの群れは身を翻して逃走する。


『System Message:

 Quest:《コボルトの群れを撃退せよ》のクリア条件1《群れの撤退》を達成しました。

 依頼主に報告して下さい』


 コボルトリーダーは分が悪いと判断したのか、戦わずに逃げる道を取ったようだ。

 彼我の戦力差を見れば襲ってきてもいいものだが、モンスターの割に随分と慎重な戦術を取る。


「あ〜らら。また逃げちまったよ。

 いい加減この戦術もコストがかかりすぎるし、ちょっと見直さないとなぁ…。

 スキルスクロール買う金も無いし、どうしたもんかねぇ…」


 ま、今日は帰るかと、ドロップ品のリストを見ながら陣はエリアシティへと戻って行った。


〓〓『人界』(トレジャー)・第一層:エリアシティ・北区「貧民街」〓〓


「おーいキー、今日も全滅させられなかったよ。悪いな〜」


「あ、お兄ちゃん。お疲れ様ー」


 陣がエリアシティに戻り真っ先に向かったのは「貧民街」。エリアシティの中で最も乱雑としていて治安も悪いという設定だが、20世紀の東南アジアを思わせる猥雑さが陣は嫌いでは無かった。

 陣が声をかけたNPCは、貧民街で荒ぶっていたプレイヤー同士のいざこざに巻き込まれかけていた所を助けた縁で、妙に懐かれた少年だ。最初の頃はあまり喋らない内気な少年だったのだが蓋を開ければ快活な性格で、構っている内によく喋るようになった。

 これが親密度ってやつかと感心していると、「そういや兄ちゃんも冒険者だよね…」と切りだされたクエストが『コボルトの群れを撃退せよ』だった。


「いいっていいって、どうせ兄ちゃん以外の冒険者はこんなクエスト受けてくれないからさ!

 いつもごめんね、こんな報酬で」


 そう言ってキーは、陣にリンゴを差し出した。


『System Message:

 Quest:《コボルトの群れを撃退せよ》をクリアしました。

 《キーのリンゴ》を取得』


「ほいよ、次は絶対倒してやっからな。待ってろよー」


 キーの父親(というNPC)は生活のため黒樹海に木材を集めに行くらしい。

 本来なら深域までは行かずに表層で集めるためモンスターと遭遇することはあまり無いらしいのだが、最近モンスターの行動範囲に修正が入ったらしくコボルトが出現するようになってしまった。特にコボルトリーダーの居る群れは脅威で、群れを撃退してもリーダーさえ生き残っていればゲーム内時間で3日後(だいたい3時間がゲーム内の1日に当たる)にはまた群れを成して襲ってくるそうだ。

 なんとか襲われる度に追い払っているのだが毎回負傷者が出てしまい、いつ死者が出るか分からないといった状態。

 当然そんな危険な場所に子供を連れて行ける筈もなく、父親の手伝いをしたいキーは不満を溜めるしか無かった。


 冒険者に頼めばいいと言われたキーがクエストという形で依頼をしようとしたのだが、低難易度とは言えさすがにリンゴ1個で受けるプレイヤーも居らず手付かずになっていたらしい。

「クエストマニア」と呼ばれる全てのクエストをクリアすることに情熱を燃やすプレイヤーも世にはいるそうなのだが、NPCから受けるイレギュラークエスト、かつキーとの親密度を上げる必要があると受諾難易度が高い事から見落とされていたのだろう。


「そういやこれでリンゴ10個目だな、他の材料合ればアレが作れるんだけど…」


 陣はアイテムリストから材料が揃っていることを確認し、パンとキーの腰を叩きちょっと悪い顔で笑う。


「よーし、キー。今から美味いもん作ってやるから友達呼んで来な。

 親父さんたちには内緒にするんだぜ?」


「本当に!?待ってて、すぐに呼んでくる!」


 外見年齢相応に腹ペコ世代らしく、凄まじい勢いでキーは駆けていく。

 んじゃま作りますかねと、陣は新調した料理道具をアイテムリストから取り出すのだった。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 初心者ニュービーにとって必須の防具やスキルスクロール等々。それらを購入せず、周りからの「なんで!?」との声をガン無視した水穂アクアに買わされたのは、フライパンや包丁を始めとした料理道具一式だった。水穂アクアや、相伴に預かって味をしめた光彦ライト・プリムラ達から高レベル食材を持ち込まれ、求められるがままに料理していたり。たまたまやって来た司会者職チェアマンのグラス・金魚がつまみ食いをして「味のMVPや〜☆」とか言い出したり、滂沱の涙を流しながら「兄貴、世の中にこんな美味いものってあるんですねぇ…」と出っソードトゥースが食い散らかしたりとしている内に、料理スキルが高速強化パワーレベリングされ、何故か陣のスキルの中で料理が一番高レベルになってしまうという本末転倒な結果を生んでいた。

 俗にカンストと呼ばれるMAXレベルが999なのに対して料理スキルが既に900越え。決して修練をサボっている訳ではない陣の剣銃スキルが未だに100強なのを考えれば、どれだけ無茶をさせられたか分かろうかという物。


 陣は手早くリンゴの皮を剥き、底が深めのフライパンを携帯コンロでクタクタと煮始める。キーが持って来たリンゴは割りと質が良く蜜がたっぷりとしている物だったので、半分もすりおろせば果物の水分と砂糖だけで十分煮ることが出来た。余った皮は捨てずに細かく刻み、生地に練り込むのが陣流。本当はシナモンが欲しい所だが、似たアイテムがEAOに存在しなかったため、風味付けに柑橘系の香料を少し。

 煮詰まったリンゴの粗熱を取っている間に、キーが友達らしき子供2人を連れて戻ってきた。


「お兄ちゃん!連れてきたよ!

 何作ってるの?」


「ん?甘くて美味いモンだよ。まぁ待ってな。

 3人か〜。材料余りそうだから水穂アクアも呼んでやるかね」


 オンラインになっているから都合付きゃ来るだろと肩を竦め、陣は携帯オーブンをアイテムリストから取り出し温める。

 溶かしたバター(らしき何か)と卵(鶏のではない)を混ぜあわせ、リンゴを包んだ生地に塗りオーブンに突っ込む。

 程なくして辺りに香ばしい匂いが立ち込め、自然と子供たちの目がキラキラと輝き出す。


「焼け具合は…いいね。うし、完成!

 ほら、特製アップルパイの出来上がりだ」


 涎を垂らして見つめていた子供たちは、キーを筆頭に歓声を上げてアップルパイに飛びつく。

 貧民街と言う場所柄もあり、子供にとってお菓子はご馳走なのだ。


「お兄ちゃん!こんなの初めて食べたよ!」


「おう、一杯作ったから焦らず食べな。どうせ子供だけじゃ食い切れないんだから…ってなんだありゃ!?」


 陣の目からして辛うじて見える程の遠距離から、砂塵を巻き上げ突っ込んできた正体は…


「あ 〜 に 〜 ぃ 〜 !!

 あぁ 〜 たぁ 〜 しぃ 〜 のぉ 〜 はぁ 〜 !!!!????」


 まぁ、予想通り速度ステータスを存分(無駄)に発揮した水穂アクアだった。

 キキッとブレーキ音がしそうな勢いで陣の前にスライディング正座で鎮座した水穂アクアを見て、余りの食い意地に陣は嘆息しながら答える。


「一応あるぞ、いくらお前でもホール1個も食えば満足だろ。

 そんかわりお前も食材提供しろよな」


「分かってる!(モフッ)あにぃの菓子が食えるなら(モフッ)なんでも出すぞ〜(モフフッ)!」


「って食いながら喋んな!ほらこぼすな!ガキかっ「黙れ兄、私のモフりタイムを邪魔するな!」てガキだっ!精神年齢的にキーよりガキだ!?ツーか水穂アクアキャラ変わるくらいアップルパイ好きか!?俺初耳なんですけど!?」


「ふむ、これだけ美味なら水穂アクア嬢が夢中になるのも分かるな(モフッ)」


「って毎度どこから湧いて出るんだ光彦オマエは!?なんで勝手に食ってる!?それよりなんでテメエが出ると毎回カオスになるんだよ!?」


 何処からともなく湧いてでた光彦ライトが「私も食材提供に協力すれば文句はなかろう」と勝手にアップルパイを齧る。

 水穂アクアは「自然な甘みが舌を楽しませ、焼いた皮が絶妙な苦味と香ばしさを演出する。正に至高!」とどこぞの美食家のようなことをのたまいながら凄まじいスピードで食い散らかす。てかコメントのレベルが上がってる。どんだけグルメ番組好きなんだ妹よ。

 余りの唐突さに子供たちは食べる手を止め目を丸くしていたのだが、このままでは全部食われると手掴みで食べ始める。


「ほら…な…皆ちょっと落ち着けよ…てかまだ完成してねえんだよ…このクリームとか乗せると美味しく…」


「「「ソイツヲ寄越セエェェ!!!」」」


 作法マナーも何もあったもんじゃない。正しく(?)カオスな空間がここにあった。


※---※---※---※

※---※---※

※---※


 腹いっぱいになって眠ってしまった子供たちを、陣は痛ましさから目を細め眺めていた。

 今は美味いものを腹いっぱいに食べ血色も良くなったように見えるが、普段あまり食べて無いのだろう。よく見れば子供たちは「子供らしい肉付き」をしておらず、頬を痩けさせていた。


「あにぃ、これはゲームなんだよ…?」


 水穂アクアがコートの裾を握り陣に訴えかけ、陣は分かってるよと水穂アクアの頭を撫でる。

 くすぐったいのか、ゴロゴロと鳴き真似をしだす妹を横目に、そっと呟く。


「分かっちゃいるんだがな、こいつらがそういう役割ロールを担ってるAIだって事くらいは…な」


 寂しそうに子供を見る陣を、悲壮な顔をした光彦ライト見ていた。


「陣、お前は…」


 数少ない「二人の事情」を知る光彦ライトが何か言いかけたその時、ゲーム環境の天候遷移を待たずに豪雨が降りだす。

 陣達のチャットウィンドウにシステムメッセージが流れた。


『System Message:

 皆さん「Eden Acceleration Online」を楽しまれているでしょうか?

 公式サービスの開始より3ヶ月。期待以上の賑わいに、運営一同プレイヤーの皆様には感謝しております。

 その気持を形にすべく、今より現実時間で1時間後よりゲリライベントを開催します!

 そして、なんとEAOの生みの親であるDr.ミカミよりプレイヤーの皆様へご挨拶と、今回のイベントのルールをご説明いただけることになりました!

 今より10分後、南区のイベント広場にて説明があります。

 プレイヤーの皆様はフレンドのプレイヤーもお誘い合わせの上、是非ご参加下さい!』


「天の声キター!!」

「おい、初の公式イベントだってよ!!これは参加するしか!」

「Dr.ミカミが参加とかビッグイベントだよね!?これはイベントクリアのアイテムとか期待できるんじゃない!?」


「レアアイテム!?」「Dr.ミカミだと!?」

 とブルーになっていた水穂アクア光彦ライトは満面の笑みでハイタッチ、勢い余ってクルクルと踊りだす。


「ははは。まぁ、気分転換にゃ丁度いいかもな」


「あにぃ〜」「分かってるだろうがぁ〜」


「言われんでも分かっとるわ!

 相馬の技を使わずに何処までやれるか、2週間程度の修練だが腕試しと行こうじゃねえか」


 陣も笑いながら、少し気を持ち直す思いだった。


 自分の手料理を食い幸せそうに眠る子供たち。喜んでまだ踊ってる友人と妹。そして、存分に腕を振るい、競う場がもうすぐやって来る。なんだかんだ言いつつも、結構陣は幸せだった。

 この時は確かに、幸せな時間だったのだ。

取り急ぎおまたせしたお詫びも兼ねて、今後8〜9話ほど毎日更新させて頂きます。

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