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憧れの乙女ゲームのヒロインに転生した私 ~コミュ障に社交界(キラキラ)は無理でした……何をしても詰んでます~  作者: モブ介/灰原数馬


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#9 聖女ママとの邂逅

 扉を開けた瞬間。

 私の目に飛び込んできたのは――。

 例の山のように積まれた花束。

 そして、扉の前で待機していた、数人の生徒たち。

「!!」

 生徒たちが、一斉に振り返る。

「リリア様が……!」

「お姿を……!」

 (ひぃ...やっぱりお外、怖い)

 でも、逃げちゃダメだ...世界が、かかってる。

「あ、あの……」

 震える声で、言葉を絞り出す。

 その瞬間、生徒たちが深々と頭を下げた。

 泣いている人までいる…

「お戻りになられたのですね……!」

「我々の祈りが、届いたのですね……!」

 違う。

 自主的に出てきただけ。

 でも、その言葉は言えなかった。

 緊張で、喉が詰まる。

 その時――。

「リリア様」

 凛とした声が、響いた。

 振り返ると、そこには――。

 公爵家の令嬢、アメリア。

 ちなみにアメリアは、国王の弟の娘で、あの王子のいとこである。

 王子と同じ柔らかな金色の髪を優雅にまとめ、気品ある立ち振る舞いで歩いてくる。

 彼女の表情は、厳しい。

 まるで、私を叱りに来たかのような――。

(あ...これ、怒られる奴だ...)

 直感的に、そう思った。

 引きこもっていたこと。

 みんなを心配させたこと。

 (これは、怒られるよね)

 私は無意識に、一歩後ずさった。

 でも、アメリアはそれを許さなかった。

「お待ちください、リリア様」

 彼女は私の手を、ぎゅっと握った。

 え?

「……お疲れでしょう。まずは、私の部屋でお茶をいかがですか?」

 その声は――優しかった。

 (逃げるのは無理そう)

 本当に心配してくていたのは、表情を見ればわかる。

「それに、お食事もまともに摂っていないのでは? パンだけでは、栄養が偏ります」

 (あ...バレてる)

「お風呂も、入っていないでしょう? 髪に埃がついていますわ」

 (ああ...完全にバレてる)

「さあ、行きましょう。まずは身なりを整えて、それから――ゆっくりお話を伺います」

 アメリアは、私の手を引いて歩き出した。

 まるで、母のように。

 いや、母そのものだった。

「あ、あの……」

「大丈夫ですわ。誰も、あなたを責めたりいたしません」

 アメリアは、微笑んだ。

(ママ...!これはママだ!)

「ただ、心配していただけです」

 その言葉に、胸が熱くなった。

 私、怒られると思ってた。

 でも、違った。

 私は、ママを見誤っていた...ママは懐が広いのだ。

「……ありがとう、マ…ございます」

 小さく、呟く。

 アメリアは、何も言わずに頷いた。

 そして、私たちは学園の寮へ向かった。

 その後ろを、生徒たちが感動の面持ちでついてくる。

「聖女様が……あのアメリア様に導かれている……」

「なんて美しい光景……」

「これぞ、聖女と王族の絆……」

 違う。

 ただ、ママに連れられてるだけ。

 アメリアの部屋に通されると、すぐにメイドが準備を始めた。

 お風呂、着替え、食事。

 全てが、手際よく用意される。

「さあ、まずはお風呂へ。その間に、お食事を準備させますわ」

 アメリアの指示は、的確だった。

 まるで、軍隊の指揮官のよう。

 (流石公爵家のご令嬢!人の上に立つ者の空気がある…ママ素敵)

 いや、これは――完全に、家庭を回すママや。

「あ、あの……本当に、いいんですか?」

「当然ですわ。あなたは、聖女さまです。この国の宝です。そして――」

 アメリアは、少し表情を緩め、すこし俯く。

「私の、大切なお友達ですもの」

(あら、かわいい。ママったら照屋さん!)

 そうホクホクしていると、驚愕の真実に気づいてしまった…

(私、友達って言われたの初めてでは?)

 今までと前世合わせて35年…友達出来たことが無いのである。涙が出そうになるリリア。

「……ありがとう」

 もう一度、呟く。

 アメリアは、満足そうに頷いた。

 そして――私は、彼女の部屋で、久しぶりの人間らしい生活を送った。

 お風呂に入り、温かい食事を食べ、清潔なベッドで休む。

 それは、倉庫での生活とは真逆の、贅沢な時間…人は多いが、

 アメリアの面倒見の良さが、心地よかった。

(……たまには、こういうのも悪くないかも)

 そう思いながら、私はベッドに沈み込んだ。


 その頃――。

 王宮では、ヴィクトール王子が報告を受けていた。

「聖女が、倉庫から出てこられた?」

「はい。公爵令嬢アメリアさまの説得により、無事に保護されました」

 侍従の報告に、ヴィクトールは安堵の息をついた。

「……そうか。アメリアが…助かった。聖女が、心を開いてくれたのだな」

 彼は、窓の外を見た。

 遠くに、王立学園の灯りが見える。

「アメリアに、礼を言わなくては。彼女の尽力で、聖女が戻ってきてくれた」

 ヴィクトールは、そう信じていた。

 まさか、リリアが自主的に出てきたとは、思いもしなかった。

 そして――リリア本人も、誤解されていることに気づいていなかった。

 世界は、また少しずつ――ズレていくのであった。

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