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憧れの乙女ゲームのヒロインに転生した私 ~コミュ障に社交界(キラキラ)は無理でした……何をしても詰んでます~  作者: モブ介/灰原数馬


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#7 国家中枢会議

 王宮内、謁見の間に隣接する会議室。

 重厚な木製のテーブルを囲み、四人の人物が座っていた。

 第一王子ヴィクトール。

 枢機卿バルトロメウス。

 軍部代表、将軍フリードリヒ。

 そして、王国宰相、アルベルト。

 彼らの表情は、一様に険しかった。

「……では、現状を整理しよう」

 宰相アルベルトが、静かに口を開く。

「聖女リリア・フォン・ローゼンベルクは、王立学園の備品倉庫に引きこもり、本日朝に一度姿を見せたものの、すぐに戻ってしまった。そして現在、扉には強固な結界が張られ、誰も中に入ることができないと」

 枢機卿バルトロメウスが、重々しく頷いた。

「その通りです。我々教会も、何度か接触を試みましたが……扉は開きませんでした」

 彼は、深くため息をつく。

「聖女の力は、我々の想像を遥かに超えています。あの結界を破るには、相当な魔力が必要でしょう」

「問題は、それだけではない」

 将軍フリードリヒが、テーブルを叩いた。

「聖女が人前に出ないということは、国の象徴が機能していないということだ。外交にも、軍事にも、影響が出ないとも言えない。隣国の動きも気になる所もあるのでな。」

 宰相が、書類を広げる。

「こちらも問題が。北方のエルデンハイム公国から、使節が来る予定でした。だが、『聖女に謁見できないなら、延期したい』と言ってきています」

「魔族領の動きはどうだ?」

 王子ヴィクトールが、尋ねる。

 将軍が、地図を広げた。

「瘴気は、例年通り少しずつ広がっています。南部国境付近で、農地の一部が汚染されました」

 彼は、地図上の薄く灰色に塗られた部分を指す。

「ただ、まあ……いつものことです。作物が育ちにく程度なので、農民たちも、移住すれば済む程度です」

「移住先は?」

「もう決まっております、受け入れてもらえる農村も見つかっておりますので問題ないです」

「まぁ、そのうち、聖女に浄化していただければよいのですね」

 枢機卿が、さほど緊迫した様子もなく言う。

「ええ。歴史書によれば、聖女は数百年に一度現れ、瘴気を浄化してこられました」

 将軍が頷く。

「前回の浄化から、もう二百年以上経ちますからな。そろそろ本格的に動いていただく時期ではありますが……今すぐどうこうというわけではない」

「それに、過去の記録を見ても、人が大きな被害を受けたことはほとんどありません」

 宰相が、古い記録書を開く。

「聖女が現れ、瘴気を浄化し、世界は安定を取り戻す。それが、この世界の摂理です」

 彼らの口調は、どこか悠長だった。

 

 瘴気は、確かに厄介だ。

 放置すれば土地が汚染され、作物が育たなくなる。

 だが、それは「いつか聖女が浄化してくれるもの」という認識。

 歴史上、聖女が失敗したことはない。

 人類が壊滅的な被害を受けたこともない。

 だから――彼らは知らないのだ。

 数百年に一度起きる魔王の覚醒

 その魔王の覚醒と共に起きる大規模瘴気災害。

 その本当の恐ろしさを。

 もし聖女が機能しなかったら。

 もし聖女が心を折ってしまったら。

 瘴気は暴走し、国土を飲み込み、人口の八割を削る。

 魔物が溢れ、作物が枯れ、水も空気も毒に変わる。

 そして――人間の世界は、終わる。

 それは、ゲームのバッドエンドで描かれた光景。

 だが、それを知るのは、転生者リリアだけ。

 この世界の人々は、「聖女がいれば大丈夫」という、ある意味で楽観的な認識しか持っていない。

 過去の成功体験が、彼らの危機感を鈍らせている。


 沈黙が、部屋を支配した。

 やがて、王子ヴィクトールが口を開いた。

「……つまり、問題は瘴気そのものではなく、聖女が"象徴"として機能していないことだな」

「その通りです」

 宰相が頷く。

「外交においても、軍事においても、国民の士気においても――聖女の存在は重要です」

「ですが、彼女が人前に出ないとなると……」

 枢機卿が、困惑した表情を浮かべる。

「国としての体面が保てません」

 将軍が、腕を組んだ。

「聖女を、無理やり外に出させるべきではないでしょうか」

「……それはできない」

 王子は、静かに言った。

「なぜです?」

 将軍が、問い詰める。

「聖女は、国の資産です。国民の希望です。その聖女が動かないなら、我々が動かすべきでしょう」

「……違う」

 王子は、首を横に振った。

「彼女は、人だ。道具ではない」

 その言葉に、枢機卿が眉をひそめる。

「殿下、お気持ちは分かります。しかし――」

「分かっている」

 王子は、窓の外を見た。

 遠くに、王立学園の塔が見える。

「彼女が"聖女"である以上、国の役割を担わなければならない。それは、避けられない現実だ」

 彼は、拳を握りしめた。

「だが……彼女が、なぜ逃げているのか。なぜ、人前に出ることを拒んでいるのか。それを理解せずに、ただ引きずり出すことはできない」

「では、どうなさるおつもりで?」

 宰相が、静かに尋ねる。

 王子は、振り返った。

「私が、直接話をする」

 その目には、決意が宿っていた。

「彼女を説得する。聖女としての役割を、理解してもらう」

「それで、彼女が動くと?」

 将軍が、疑わしげに言う。

「……分からない」

 王子は、正直に答えた。

「だが、試す価値はある。彼女は、聖女だ。きっと、国のことを考えてくれるはずだ」

 枢機卿が、小さく笑った。

「殿下は、彼女を信じておられるのですね」

「……ああ」

 王子は頷いた。

 だが、その表情には、迷いもあった。

(本当に……彼女は、聖女として動いてくれるのだろうか?)

 心の奥で、不安がささやく。

 あの日、入学式で見た光景。

 王子が手を差し伸べた瞬間、リリアは光に包まれて消えた。

 まるで、触れることを拒むかのように。

(彼女は……本当に、この世界にいたいのだろうか?)

 その疑問を、王子は口にできなかった。

「では、明日、私が学園へ向かう」

 王子は、会議を締めくくった。

「それまでに、聖女との接触方法を考えておいてくれ」

「承知しました」

 宰相が頷き、会議は終わった。

 だが、部屋を出る時、枢機卿がぽつりと呟いた。

「……殿下。もし、彼女が動かなかったら?」

 王子は、振り返らなかった。

「……その時は、国が動く」

 その言葉の重さを、全員が理解していた。

 聖女リリアが、もし国の役割を拒むなら――。

 王国は、彼女を"一個人"として扱うことはできない。

 強制的に、聖女として機能させる。

 それが、国家の論理だった。

 だが、彼らは知らない。

 この「瘴気は大したことない」という認識が、どれほど危険なのかを。

 過去、聖女が成功し続けたのは――聖女が、ちゃんと機能したからだ。

 もし機能しなかったら。

 もし聖女が逃げ続けたら。

 リリアは機能できるのか…

 彼女は折れないのか?折れてしまったら?

 その時、初めて人類は知ることになる。

 瘴気災害の、本当の恐ろしさを。

 人口の八割を削る、壊滅的な災害を。

 そして――それを知る唯一の人物はリリアのみ。

 小腹が空いたと、倉庫の中で呑気にパンをかじっている。

 本当にこの世界は大丈夫なのか。

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