#6 安息の地の外はうるさい
リリアが倉庫に戻ってから、早数時間
倉庫の外では、異変が起きていた。
「……おかしい」
王立学園の生徒、マリアは首を傾げた。
彼女の手には、聖女リリアへの新しい花束がある。
朝、リリア様が倉庫から出てこられた時、あまりに神々しくて、声をかけることもできなかった。
ならば、せめてお花をと――そう思い再び戻ってきたのだが。
「扉が……開かない?」
備品倉庫の扉は、固く閉ざされている。
鍵がかかっているわけではない。
高度な結界が張られている。
「リリア様……中にいらっしゃるのでしょうか……」
マリアが恐る恐る扉をノックする。
返事はない。
一方リリアは、外の音など気にも留めていない。
(引きこもりの技術に関しちゃ、外に出しても恥ずかしくないですからね)
などと、そう褒められたもんじゃないことを考えているリリア。
打って変わってマリアは。
「……そうか。私たちのような俗人が、軽々しく近づくことを拒まれているのだわ……」
絶望していた。
彼女は深頭を下げ、花束を扉の前に置き、静かに立ち去る。
その姿を見ていた他の生徒たちも、次々と花束を置いていく。
やがて、倉庫の前は花で埋め尽くされた。
その花に満ちた楽園ような光景はまさに異様だ。
しかし、リリアは、外のことなどつゆ知らず一向に姿を見せない。
その事実が、学園中に広まり始めた。
「聖女様が、姿を隠された……」
「きっと、私たちの信仰心が足りないのだわ……」
「いいえ、この世界が穢れているから、お姿を見せられないのよ……」
噂は、加速する。
リリアが何もしないほど、神格化が進んでいく。
そして――その噂は、学園の外へも広がり始めていた。
王都の貴族たちの間で、こんな噂がささやかれる。
「聖女さまが、人前に出ないらしい」
「学園のとある隠し部屋に引きこもっているとか」
「いや、もう姿を見せることすら拒んでいるという話だ」
公爵家の令嬢、アメリアは眉をひそめた。
「なぜ、王宮に早くいれないのかしら? 聖女は国の象徴ですのよ?」
彼女の言葉は、もっともだった。
聖女は、ただの学生ではない。
王国の守護者にして、王国の象徴。
国民の希望だ。
その聖女が、人前に出なくなってしまった。
それは――国家にとって、由々しき事態だ。
一方、学園の教師たちも、困惑していた。
「リリア様が倉庫に引きこもっている?」
「しかも、扉が開かない……これは、どういうことだ?」
「何か大いなるご意思が……」
焦りと困惑が、広がっている。
だが、誰も扉を開けることはできない。
リリアが無意識に張った結界は、想像以上に強固だった。
そして――その「強固さ」もまた、聖女の力の証として、人々に尊敬と畏怖を与えた。
「あの結界……並の魔術師では破れない」
「選ばれし者以外、近づくことすら許されないというのか……」
「恐ろしいほどの、聖なる力……」
リリアの意図とは無関係に、世界は動き始めていた。




