#4 詰んだ聖女
その頃、私はどこにいたかというと――。
王立学園の地下、備品倉庫の隅っこ。
埃っぽくて、薄暗くて、誰もいない。
「……ふぅ」
やっと、人目から逃れられた。
心臓が、まだバクバクしている。
でも、ここなら安全。
静か。
誰も来ない。
最高。
「……よし。卒業まで、ここに引きこもろう」
真剣に、そう決意した。
埃の中、古い箱を枕にして、私は目を閉じる。
これで、平穏な学園生活が――。
そう思っていた。
でも、それは間違いだった。
翌日。
備品倉庫から這い出た私を待っていたのは、入り口に並ぶ大量の花束と、跪く生徒たち。
「リリア様……! お姿を拝見できるだけで、光栄です……!」
「どうか、我らをお導きください……!」
違う。
私、ただ寝てただけ。
しかも、備品倉庫で。
「ぁ、あの……」
声をかけようとした瞬間、生徒たちがさらに深く頭を下げる。
「恐れ多い……! このような俗人が、聖女様に話しかけるなど……!」
いや、話しかけてほしい...普通に...
でも、その言葉は届かない。
生徒たちは、感動の涙を流しながら、私の前を通り過ぎていく。
まるで、神聖な儀式のように。
(……詰んだ)
本格的に、詰んだ。
私が望むのは、ただ一つ。
静かに、一人で、隅っこで過ごしたい。
それだけなのに。
世界は、それを許してくれない。
それどころか――。
私が逃げれば逃げるほど、「聖女」としての評価が上がる。
感情が爆発すればするほど、奇跡が起きる。
役割を演じられない私が、皮肉にも――世界が求める「聖女」そのものになっている。
ゲームの知識が、脳裏を過る。
この物語の結末。
聖女は、魔族領の瘴気を浄化するため、命を懸ける。
ルートによっては、心が壊れる。
世界が滅びかける。
そして――ハッピーエンドの条件は。
「聖女が、最後まで心を折らずに祈り続けること」
(……無理だ)
私には、そんな覚悟なんてない。
国のために生きる?
自己犠牲?
そんなの、絶対に無理。
でも――世界は、私に「聖女であれ」と強要する。
逃げられない。
どこまで逃げても、運命が追ってくる。
そして、私の感情の暴走が、その運命を加速させる。
(……これ、本当に詰んでる)
憧れの乙女ゲーム世界。
キラキラに満ちた、薔薇色の学園生活。
それは、転生五分で崩壊した。
役割を演じられない聖女が、世界から「聖女であれ」と強要される。
この矛盾が、どんな結末を迎えるのか――。
私には、まだ分からない。
ただ一つ、確かなのは。
この人生、マジで詰んでるということだけだった。




