#3 運命のイベント
翌日。
王立学園の大講堂。
新入生たちで溢れる、華やかな空間。
私は、できるだけ目立たない席を探した。
後ろ。隅。誰も見ない場所。
でも――。
「リリア様、こちらへどうぞ」
案内されたのは、最前列。
中央。
一番目立つ席。
(なんで!?)
逃げられない。
座った瞬間、周囲の視線が刺さる。
「あれが、聖女のリリア様……」
「昨日のお茶会で、涙が宝石になったという……」
「触れることも許されない、神聖な存在……」
違う。
ただの、コミュ障なだけで…
やがて、入学式が始まった。
学園長の挨拶。来賓の祝辞。
長い。早く終わってほしい。
そして――。
「それでは、第一王子ヴィクトール殿下より、お言葉を賜ります」
壇上に現れたのは、金髪碧眼の美青年。
整った顔立ち。気品ある立ち振る舞い。
まさに、ゲームで見た通りの王子様。
――眩しい。
いや、マジで眩しい。
イケメンすぎて、直視できない。
溶ける…
王子の祝辞が終わり、やがて――。
「新入生代表、リリア・フォン・ローゼンベルク」
私の名前が、呼ばれた。
え?
なんで?
「前へ」
促される。
足が、震える。
視線、視線、視線。
講堂中の目が、私に集中している。
(無理無理無理無理!)
心臓が破裂しそう。
なんとか壇上に上がると、王子が微笑みかけてくる。
「ようこそ、王立学園へ。君のような優秀な生徒を迎えられて、光栄だ」
王子が、手を差し伸べてくる。
握手。
ゲームでは、ここで主人公が王子の手を取り、物語が始まる。
でも――私には、無理だった。
王子が眩しすぎる。
周囲の視線が痛い。
息が、できない。
(……消えたい)
この場から、消えたい。
誰もいない、暗くて静かな場所に――。
その瞬間。
私の体が、光に包まれた。
ゲームの設定を、思い出す。
聖女の力は、「感情の純度」に反応する。
本来のリリアは、穏やかで優しい感情を持つから、力も穏やかに発現する。
でも――私は違う。
恐怖。絶望。逃避願望。
感情が、振り切れている。
コミュ障の私は、他人の感情に過敏で、自責が強く、そして――感情の爆発が、激しすぎる。
結果――。
聖女適性が、原作以上に高い。
本人の意図:「誰もいない暗いところに転送して!!」
しかし、周囲に見えたのは――。
王子が手を差し伸べた瞬間、リリアから「浄化の光」が溢れ出した。
天使の羽根のような光。
舞い散る花びら。
きらめく光の粒子。
そして、リリアの姿が――文字通り「昇天」したかのように、消えた。
「……!?」
講堂中が、静まり返る。
残されたのは、リリアがいた場所に転がる、小さな宝石。
彼女がパニックでこぼした涙が、魔力で結晶化したもの。
その宝石が、淡い光を放ち――。
講堂の床の汚れが、一瞬で消えた。
古びた壁が、新品のように輝き出す。
講堂全体が、浄化された。
「……なんという……」
王子が、呆然と呟く。
「触れることさえ許されないのか……まるで、この世のものではない……」
周囲がざわめく。
「あの光……伝説の、聖女……」
「あまりに神聖すぎて、俗世に留まることができないのだわ……」
それは、勘違いの始まりだった。




