#2 演じられない聖女
公爵家のお茶会は、予想通り地獄だった。
華やかなドレスに身を包んだ令嬢たち。
優雅に紅茶を傾け、笑い声を響かせる。
そして――その中心に座らされた、私。
「リリア様、王都の社交界デビュー、楽しみですわね」
公爵令嬢のアメリアが、にこやかに話しかけてくる。
「……は、ぃ」
声が、小さい。
震えている。
でも、それが逆に――。
「まあ、なんて慎ましい……」
周囲が、感嘆の声を上げる。
「さすが、聖女様……」
違う。
ただ、緊張してるだけ。
幸か不幸か、リリアの体には「伯爵家の作法」が叩き込まれていた。
幼い頃からの厳格な教育。
体が勝手に、完璧な令嬢の仕草をしてしまう。
緊張で顔が強張る → 「凛とした佇まい」
パニックで声が小さくなる → 「慎ましい声」
逃げたくて俯く → 「可憐な仕草」
本人の意図と、周囲の解釈が、完全にズレている。
(え……これ、詰んでない?)
私が黙っていればいるほど、周囲の期待値が上がる。
ハードルが、天井知らずに上がっていく。
そして――その期待に、私は絶対に応えられない。
「リリア様は、聖女としての自覚を、すでにお持ちなのでしょうね」
アメリアの言葉に、私は息を呑んだ。
聖女。
ゲームの知識が、脳裏を過る。
リリアは、数百年に一人現れる聖女。
王国を蝕む魔族領の瘴気を浄化できる唯一の存在。
国のために、命を懸ける覚悟を持つ。
それが、本来のリリアの役割。
でも――私には、その覚悟なんて、ない。
ただ、静かに生きたいだけ。
人前に出たくない。
注目されたくない。
役割なんて、背負いたくない。
「……ぃえ、私なんて……」
小さく首を振る。
でも、それすらも――。
「謙虚な方……!」
称賛に変わる。
(ひぃぃぃぃっっ)
お茶会が終わり、帰りの馬車の中。
私は、ぐったりと座席に沈み込んだ。
「リリア様、素晴らしかったですわ」
エマが、嬉しそうに言う。
(なにが⁉)
「皆様、あなたの気品に魅了されていましたわ」
(え……違う...)
私、ほとんど喋ってない。
「それに、明日は王立学園の入学式ですね」
――ぁあ
入学式。
そして、ゲームの最初の重要イベント。
第一王子、ヴィクトールとの出会い。
(あぁ……無理だ)
イケメン王子と会話なんて、私には絶対に無理。
明日...どうしよう...早く帰りたい




