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憧れの乙女ゲームのヒロインに転生した私 ~コミュ障に社交界(キラキラ)は無理でした……何をしても詰んでます~  作者: モブ介/灰原数馬


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11/12

#11 齟齬

 翌日の午後。

私は、アメリアと共に中庭で過ごしていた。

お茶と菓子が並んでおり、アメリアは書類を見ながら、紅茶を飲んでいた。

私は、その傍に座っている。

 会話はない。というか…何を話していい分からないが、アメリアは私に「何かを言わせる」ことを強制しない。ただ、そこにいる。その事実が、私にとっては、それが安心感になっていた。

 ゲームの中なら、ここで「選択肢」が出るはずだ。「アメリアに話しかける」「周囲を見回す」「一人で考え事をする」――そんな選択肢が画面に並んで、プレイヤーがタップする。そして、選んだ選択肢に応じて、会話が始まる。

 でも、ここは現実。現実には、選択肢など出ない。

 ただただ、時間が流れ、風が吹き、紅茶の香りがする。それだけだった。

 しばらくして、私の視線が中庭の向こうに向かった。あの三人がいる。

王子ヴィクトール。騎士カスパー。魔術師クロード。攻略対象たちが揃っている。

 ゲームの中なら、ここで「誰に話しかけますか?」という選択肢が出るはずだ。そして、選んだ相手と、好感度イベントが始まる。王子を選べば、優しい会話。騎士を選べば、元気な会話。魔術師を選べば、知的な会話。全部、シナリオ通りに進む。

 でも――現実には、選択肢など出ない。ただ、三人が低い声が聞こえるだけだ。

 私は、その様子を見ていた。ヴィクトールが何かを言った。カスパーが腕を組んで頷き、クロードは何も言わず、足元を見ている。

(何かあったんか?どうした?お姉さんが聞こうか?まぁ大した人生経験なんてないけどね!)

などと虚しいことを考えてしまう程に暇だ...

 (ただ…ゲームの中の彼らとは、やっぱり違うよね)   

 ゲームの中のヴィクトールは、もっと堂々としていた。決断が早く、周囲を引っ張るリーダーだった。「王子ルート」の第一章で、彼は学園の生徒会長として、みんなをまとめていた。選択肢で「王子を励ます」を選ぶと、彼は「君がいてくれて良かった」と微笑んだ。

 でも今、目の前にいる王子は――何かに悩んでいるように見える。堂々とした姿勢ではなく、少しだけ肩が落ちている。

(これ...学園の女子誰が話しかけても落とせるのでは?)


カスパーに目をやってみる。

 ゲームの中のカスパーは、明るく元気な騎士だった。いつも笑っていて、剣の腕も確か、現役の騎士にも負けないとか…

「騎士ルート」の第二章で、彼は訓練で主人公を守るんだよね。

選択肢で「応援する」を選ぶと、彼は「俺、頑張るよ!」と拳を握った。そして、大きな試練をやり遂げることによって、主人公との仲が深まるのだ。

(その時のカスパーが犬みたいで可愛いんだよなぁ)

 でも今、目の前にいる騎士は――腕を組んだまま、何も言わない。笑顔もない...むしろ険しい顔をしており、怖いぐらいだ...


 最後の一人、クロードはというと、知的で冷静な魔術師。

的確な助言をして、主人公を導き存在だ。

「魔術師ルート」の第三章で、彼は図書館で古文書を読み解いている。選択肢で「質問する」を選ぶと、彼は目を細め「興味深い質問だね」と答えた。

(いつも冷たい感じの、彼の表情が綻びギャップ萌えなんだよな...尊い)

 しかし...今、目の前にいる魔術師は――ただ、下を見ているだけで。何も話さない。

(全員……ゲームと違う...?)

 その「違い」が、何を意味するのか。私には、まだ分からない。などと考えると声がかかった。

「……リリア様?」

 アメリアが気づいた。

「あの……あちらのみなさまが」

 私は、アメリアは見た。そして、アメリアの表情がわずかに変わり、厳しくなった。

 ヴィクトールは、アメリアのいとこだ。アメリアの父は現国王の弟君で、前国王の若かりしときの爵位を継いだのだ。だからか、アメリアはヴィクトールに対し、多少厳しいところがある。

「……あの三人が」

 アメリアは静かに言った。

「今夜、何かをするつもりかもしれませんわ」

 私は、アメリアを見た。

「え、何かを……?」

「分かりません。ただ――」

 アメリアは、紅茶のカップを静かに置いた。

「最近聞いた噂ですけど…あの三人が、夜に学園の中を歩くことがあるようです。それぞれ、別々に」

 夜の学園。ゲームにはなかったイベントだ。

ゲームの中では、全てのイベントは昼間に起きる。

夜の描写は、ストーリー上ほとんどない。エンディングの一枚絵で、夜空の下で主人公と攻略対象が並んでいる絵があるのと、あとは...

気を取りなおし、聞き返す。

「なぜ、そんなことを?」

 アメリアは、少し考え、視線を向こうへ向けてから、静かにこう言った。

「この学園は――迷いの森のようなもの...昔、そう言った方が居たそうです」

 迷いの森。その言葉が、昨夜の私の考えと重なった。

(そんな、設定知らないんだけど…)

「なんでも、それを言った方が言うには...迷いの森では、役割に縛られた人々が、自分を見失う場所で。昼間はみんな「正しく」振る舞います。聖女は聖女らしく。王子は王子らしく。騎士は騎士らしく。でも夜になると――」

 アメリアは、少しだけ声を落とした。

「仮面を外して、本当の自分が、出てしまう...と言うことを言っていたのだとか」

 本当の自分。その言葉が、胸に刺さった。

(ん?聖女らしく...?)

「リリア様」

 アメリアは、私を見つめてから、私にさらに近づき、声のトーンをもう一段落とした。

「もし今夜、あなたが学園の中を歩くのなら――あなた自身の「本当の自分」にも、出会うかもしれません」

(ん?どういうこと?)

とはいえ――何かが、引っかかる。

 夜の学園。

 迷いの森。

 本当の自分。

 そして――この「齟齬」

 ゲームのシナリオにはない展開が、始まっている。

(え…私は、どうすればいいの)

 ゲームの知識は、ここでは通用しないということ...

 私は、アメリアには、何も答えなかった。

 ただ――建物の影に目をやる。

 昼間は、ただの建物だ。でも夜になると、その影は何を写すのだろうか…

 何事も無かったかのように、風は静かに吹いている。

ありがとうございます。

なかなかに重い話しが続いてしまって申し訳ないです...

リアクションだけでも頂けたら幸いです。

次回は少しコメディに戻っていきますので、またよろしくお願いします。

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