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北欧風の隣町に行ったと祖母は言うが絶対違う

作者: 和ともなか

短編投稿2作目です。

「光の魔法使い様ありがとうございます!」

「光の魔法使い様バンザイ!!」


 薄紫色の農作業用帽子を被った祖母を崇めるように、町の人達が騒いでいる。

 そんな彼らが身にまとっているのは簡素なシャツとズボン、質素なワンピース、中世の甲冑に剣? ローブに杖……革鎧に背負う大剣に弓矢に斧。その斧、伐採用じゃないよね。

 気を落ち着かせるために見上げた空には、太陽の他に知らない惑星が2つ浮かんでいる。


 なぜ、こんなことになったのか。


 それは、一本の電話から始まった。

 いや、正確には一本の電話で、始まっていることを知ったのだった。


 私は大学進学を機に、祖母が住んでいる県内で一人暮らしを始めた。

 女の子の一人暮らしが心配だったのか、単に祖父が亡くなって一人で暇だったのか、同じ県内と言っても電車で1時間以上かかるのに、祖母は食材を持って保存食作りに頻繁にアパートに来てくれた。料理をあまりしてこなかった私は、とても助けられた。


 そのまま大学のある県で就職したのだけれど、慣れない仕事で忙しかったり、祖母も長距離移動が体に負担になりだして、徐々に会う回数は減っていった。

 それでも1~2週間に一度は電話するように心がけていた。

 田舎の家に一人で暮らしている高齢の祖母が心配だったからだ。


 その日も、いつもの定期連絡になるはずだったのだが――。


『それでね、この前、ミクちゃんがついて来てって感じだったから、久しぶりに裏山を歩いてたのよ。そしたらいつの間にか、おとぎ話に出てきそうな北欧風の町に着いてたの。いつの間にあんな隣町が出来てたのかしらねえ。全然知らなかったからビックリしちゃった。梨花ちゃん知ってた?』

「えー知らな~い」


 裏山の先に新興住宅地でも出来たのかな? そう思いつつ、寝転がっていたソファから身を起こし、何気なくテーブルに置いていたパソコンの電源を入れた。

 ちなみに梨花は私の名前で、ミクとは祖母の飼い猫の名前だ。


『すっごい世界観が徹底された町でね、テーマパークみたいに建物も雑貨もすべて中世ヨーロッパ風なの。しかも住んでる人全員、服装も中世ヨーロッパ風でね、そうそう馬! 馬が馬車引いてるの!』


 服装も? と若干ひっかかりを覚えながら、ネットのマップで裏山辺りを確認してみる。

 ん~~どこの話だ? んんん?


「ねぇおばあちゃん、歩いていったの? 裏山から? 何分くらい?」

『山に入ってから10分、家から20分くらいかしらねえ。役場通りにあるホームセンターより近かったよ』

「うーん…地図には載ってないんだけど」


 町どころか拓けた場所すらない。

 有名なマップでも、現在の様子とちょっとは時差があるかもしれないけど、町みたいな大きな建造物なら、拓けた土地くらい載っていそうなもんだけど。

 低い裏山の先にあるのは山と木々だけ。随分と先になら町はあるけど、祖母が20分で歩ける距離ではない。

 困惑する私をおいて、祖母の話はさらに続いた。


「馬は観光用じゃなくて野菜とか運んでてね。車も自転車さえ無いの。井戸で水汲んでたし、明かりはかがり火とランプだったし」

「ちょっと待って。なんか怪しいんだけど」

「あんな徹底した町が今の流行りなのかしらねえ、自給自足ってやつ?」

「……そこって、まさか」


 その時私の脳裏に浮かんだのは、有名な海外ホラーミステリー映画だった。

 100年以上前の森にある村の話かと思っていたら、実は現代で、暴力沙汰で身内を失った人達が莫大なお金を使って作った理想郷という名の箱庭だったという……。


「ちょっと怖いんだけど。何回調べても、裏山の先に町どころか拓けた場所すら無いし。おばあちゃん、もう一人で近づいちゃダメだからね!」


 思わず強い口調で言ってしまったが、返ってきたのは、大丈夫よ~という呑気な声だった。


「確かに変わった町だけどみんなイイ人だったし。それにおばあちゃんね…ふふっ、その町で、光の魔法使いって呼ばれてんのよ。ビックリでしょ〜」

「は? ビックリ…というか、もう出入りしてんの!?」


 その新興住宅地ならぬ新興宗教施設っぽいところに?

 やばい。

 これはやばい。

 おばあちゃんが宗教勧誘か詐欺被害に遭ってしまう!


 明日そっちに行くからと告げて電話を切り、私は急いでクローゼットからボストンバッグを引っ張り出した。



 有休を取って朝早くから駆けつけた祖母の家は、いつもと変わらない、のんびりとした雰囲気が漂っていた。

 家に入ってコタツに足を突っ込み、出された饅頭を頬張って緑茶を啜っていたら、気付けばコタツでひと眠りしていた。


「違う! 寝に来たんじゃないから」


 コタツ恐るべし!


「私は、おばあちゃんに隣町について聞きに来たの」

「あら~そうだったの。で、何が聞きたいの?」


 私の向かいに座った祖母が、急須から湯呑にお茶を注いでくれる。


「ほら、あれだよ。光の魔法使いだっけ? そう呼ばれてるって言ってたでしょ。なんでそんなことになったの?」


 あーあれね、と祖母がのんびりと一口お茶を啜る。


「街灯がなくて暗かったら、ちょっと懐中電灯で照らしてあげただけよ」

「懐中電灯?」

「じゃ~ん、これよ。超強力懐中電灯」


 祖母がコタツの上に、ゴツくて高性能そうな金色の懐中電灯を置いた。


「ほら、最近何があるかわかんないでしょ。そんな時にテレビショッピングで見かけて、どうしても欲しくなっちゃって買ったのよ。遠くまで広く明るく照らしてくれる優れものよ」


 ここのフックで腰にぶらさげることも出来るの、と祖母が楽しげに説明してくれた。


「どういうこと? 隣町の人が、暗くて困ってたってこと?」

「んん~何かが暴走してて、そのせいで停電になったのか、そこは結局よくわかんなかったんだけど」


 祖母が思い出すように語ってくれた内容は、隣町でのよくわからない祖母の活躍だった。


 きっかけは、10日ほど前。

 祖母が畑仕事をしていると、飼い猫のミクが呼びに来たそうだ。

 ついて来いと訴えるように、祖母の顔を見ては鳴いて裏山のほうに進み、立ち止まって祖母を見て鳴き、祖母が動かないとまた戻って鳴くを繰り返す。

 特に急ぎの作業じゃなかったし、その様子がちょっと気になったので、祖母はミクの後についていくことにした。

 途中、あぜ道に置いていた、ペットボトル等を入れた手提げ袋と強力懐中電灯を拾いあげる。懐中電灯は、家に届いたばかりで、ちょっと浮かれて畑に持ってきていたらしい。

 ミクの後について裏山に入ってしばらく歩くと、木々がトンネルを形作るように曲がっている場所についた。


「…こんな木あったかしら?」


 昔から庭のように出入りしている裏山のはずなのに、こんな生え方の木なんて、今までみたことがない。

 不思議に思ったが、台風か強風の影響で知らないうちに曲がったのだろうと結論付け、祖母は物珍しげに木々を見上げなら、ミクの後についてトンネルをくぐった。

 と、急に視界が暗くなった。

 驚いて周囲を見回すと、祖母は、石造りの見慣れない家屋が左右に立ち並ぶ道の真ん中に立っていた。

 空は藍色。

 ぼんやり歩いているうちに隣町に出て日が暮れたのかと、のんびり屋の祖母も、この時ばかりはかなり焦ったらしい。

 まずい! 家に帰れなくなる。

 祖母が慌てて踵を返そうとした時だ。

 道の奥、家屋が並ぶ奥の方から誰かの悲鳴が聞こえた。続いて何かが崩れるような、工事現場で建物を壊している時のような音が響き、地面がわずかに揺れる。


 そこからはもう大騒動だったそうだ。

 人が一目散にこちらに走ってくる気配に、祖母は慌てて建物のそばに寄り、人波に飲まれる事態は免れた。

 だが、とにかく街灯もないし家の電気も灯ってないため、何が起きているのかさっぱり見えない。小さい子が近くで泣いているけど、どこにいるのかもわからない。

 その時、祖母は思い出した。

 

 私、強力懐中電灯を持ってるじゃない、と。


 ずしんずしんと重い何かが近づいてくる音がする。

 正体を確かめるべく、祖母は、道に飛び出て出力Maxで懐中電灯のスイッチを入れた。

 白光が影に当たる。

 その瞬間、ヴオオオオと何かが苦しげに叫んだ。


「何の声? 影…影しか見えないんだけど? 本体どこ!?」


 祖母は広範囲を照らすように拡張していた光を集約して強め、影の足元辺りを照らした。その辺りに本体が居て、影が伸びていると思ったからだ。

 すると、光を当てた足元から、影が粒子になって霧散していく。

 ギャアアアと断末魔のような声が響き、やがて声も影も消えていった。


「壁が崩れるような音がしたから、重機が制御不能になっちゃったのかと思ったけど、おっきい野生動物が暴れてたのかもね。私は影しか見てないから、結局何だったのか知らないのよ」

「町の人達はなんて言ってたの?」

「それが、シャドーを倒してくれてありがとうって。もうその後はお祭り騒ぎよ。ランプみたいなものに明かりがついて、やっと明るくなったんだけど。シャドーって影でしょ? 何のシャドーか聞いても、魔物のシャドーだ、あなたはシャドーを光魔法で倒した偉大な光の魔法使いだ、しか言わないのよ。おばあちゃん、困っちゃって」

「魔物……」


 知らない木のトンネル、気づけば夜、気付けば石造りの家、気付けば魔物……それ、どこか知らない世界に迷い込んでません? いやいや、そんなまさか。


「えっと、それで? その後どうなったの?」

「暗い中、山に入るのは危ないし、宴会してた店でミクちゃん抱っこして時間つぶしたの。そしたらリョウシュってお名前の煌びやかな服来た人が、御礼だって言って、金色の硬貨を沢山くれたの」

「は? それ、どこにあるの? 見たいんだけど!」


 おもわずコタツに前のめりになって尋ねたが、もう使っちゃって無いわよ~と祖母は軽く右手を振った。


「なんで? 沢山もらったのに?」

「だって全く知らない硬貨よ。よそでは使えないってやつ。ほら、梨花ちゃんも見たことあるでしょ? 商店街の共通通貨。あーいったモノは、さっさと使って経済回すのが、その商店街には一番良いの。そのために配ってるんだもん。だから、金色の硬貨もさっさと使ったほうがその町のためになるのよ」


 金貨見れなくて残念だけど、もっと気になることが出来たな。


「それで、何買ったの?」


 そんなオーガニックな生活送ってらっしゃる方達は、何を売ってるの?

 怖いもの見たさで訊くと、祖母はふふっと笑って、よっこいしょとコタツから立ち上がった。


「お野菜は道の駅で売ってる物のほうが美味しそうだったから、結局、これ買ったのよ」


 勝手口あたりから歩いてくる祖母が手にしているのは、仰々しい…やたら仰々しい鎌だった。


「なにその……中二病が好きそうな、持ち手や刃に凝った装飾が施された鎌は」


 色もなんか、うっすら水色に輝いてますが。


「見た目は派手だけど、すごく軽くて切れ味抜群なの。背が低くて髭モジャのがっしりした職人さんがね、切れ味だけじゃなくて、なんかすごい特殊な性能もついてるみたいなこと言ってたけど、使わないだろうから聞き流しちゃった」


 背の低い髭モジャのがっしりした鍛冶職人……それ、ドワーフじゃないよね。あ~この前、異世界転移のアニメ見た影響だなあ。ドワーフなわけないか~~ははは。

 知らず遠くを眺めていた私に、祖母は切れ味を見せると言い出した。


「よし、畑に行くよ。梨花ちゃんも手伝ってね」

「わかった」


 祖母の畑の手伝いは、こちらの県に越してきた大学生の時からたまにやっている。

 野菜も果物も分けてもらってるし、身体を動かすのは、普段の仕事と違って気分転換にもなる。まあ、暑かったり寒かったりして大変なことのほうが多いけど。


 祖母の家に置きっぱなしの私の農作業用の服に着替える。私はだいたい厚手のズボンにネルシャツに農作業用帽子で首元を覆う。

 玄関で長靴を履いていると、祖母がやってきた。何気なく顔をあげた私は、おもわず二度見してしまった。


「…おばあちゃん、そんなに紫好きだったっけ?」


 玄関に現れた祖母は、全身紫で揃えていた。

 濃い紫のモンペに薄紫の割烹着に、同じく薄紫の農作業用帽子。今までトータルコーディネートなんかしなかったのに、いったいどうした?

 祖母がサプライズに成功したように、ふふふっと楽しげに笑う。


「だっていつまた隣町に行くかわかんないでしょ? せっかくだから魔法使いっぽい服にしてみようかと思って」

「魔法使いって紫なの?」

「ほら、シンデレラの絵本とか」


 あー…フェアリーゴッドマザーのイメージかあ。

 祖母はグレーヘアで、ちょっとぽっちゃりしてるけど腰も曲がってなくて元気溌剌だから、フェアリーゴッドマザーぽさは、ギリギリあるかなあ。

 そう思ってたら、紫の長靴が出てきて、徹底ぶりに驚いた。売ってるんだね。


 さて、裏山近くの畑につくと、猫のミクちゃんがあぜ道でごろごろしていた。

 私達が近づくと、足にすり寄って愛想を振りまき、その後、気は済んだとばかりにさっさと裏山に入っていってしまった。実に気まぐれで猫らしい。


「ねえ、ミクちゃんて、どっかの家からもらったんだっけ?」


 猫の後ろ姿を見送りながら尋ねると、祖母がいいや、と答えた。


「寒い冬に外にいたから家に入れてあげて、そのまま居ついたのよ。綺麗な猫だったから、飼い猫だと思ったんだけど、捨てられたのかもねえ」


 そういえば、気づいたら居て、すでに成猫だったなと思い出す。


「ほら、この茎、結構太いでしょ。見ててね」


 祖母は収穫が終わったらしい野菜の茎を左手に持ってしゃがんでいた。右手には例の鎌を持っている。

 祖母が鎌を軽く引くと、茎は手ごたえもなく簡単に切れた。


「見てるだけじゃわからないかもしれないから、今日は梨花ちゃんも鎌使っていいよ」


 こっちのホームセンターで買った鎌ね、と使い込まれた鎌を渡してくる。そういえばハサミとスコップくらいしか、使ったことなかったな。


「鎌は引くように切るんだよ。力任せに刃を茎にぶつけて切ろうとするんじゃなくて、手首を使って軽く手前に引く感じ」


 祖母は、今度は雑草を数本束ねて刈った。それを見よう見まねでやってみる。あれ? 意外と力いるな…引くように手首を使って……。


「そうそう、そんな感じ。振って叩き切るんじゃなくて、こう手前に引くの。そしたらそんなに力使わなくても切れるわよ」


 無心になって雑草を刈っていた時だった。

 馬のように猛スピードで駆けてきたミクが、丸めた私の背中に飛び乗ってきた。

 そこでけたたましくニャアニャア鳴きだす。


「ちょっとなにごと!?」


 体を強張らせて背中にいるミクを見ようと首をひねると、飛び降りたミクが、今度は数メートル先でまた激しく鳴く。


「これは、ついて来いって言ってる気がする」


 鎌を片手に立ち上がった祖母が、神妙な面持ちで呟いた。


「しかも、結構切羽詰まった、嫌な予感がする」

「え…なんでそんな不安を煽るようなこと言うの?」


 戸惑う私を置いて、祖母は足早にあぜ道に戻り、置いていた手提げをひっつかんでこちらに振り返った。


「行くよ梨花ちゃん。裏山には熊もイノシシもいないけど、用心のために鎌は持ったままでね」

「ええっ! ちょっと待っておばあちゃん!」

「行かなくちゃいけない気がする」


 私の静止など聞く耳持たず、ミクを追いかけて、祖母が高齢者とは思えない速度で走りだす。元気すぎるでしょ!


「ここから山道に入るよ」


 一声かけながら、祖母が関係者以外には木々の切れ間にしか見えないだろう道を進んでいく。私、祖母とはぐれたら遭難するかもしれない。

 履きなれない長靴で必死についていくと、祖母の話に出てきた、トンネルを作るように曲がった…傾いているんじゃなくて弧を描くように曲がっている木々が正面に見えてきた。


「あれ、さっきの隣町の話に出てきたトンネルの木?」

「そう…あれ。一人で探した時は、みつからなかったのに」

「なにそれ不穏なんですけど」


 やっぱり信じられないけど、猫の案内で異世界に迷い込んだんじゃないの? 

 そう言おうとしたが、祖母の足は止まらず、どんどん進んでいく。待って置いてかないで。獣道すぎて帰り道がすでにわかんないから!

 短い木々のトンネルを抜ける瞬間、クラリと一瞬だけ眩暈がした。

 慌てて足を踏ん張って、閉じてしまった目を開く。

 すると、そこには某テーマパークのような中世ヨーロッパ風の町並みが広がっていた。


「うわ~おばあちゃんの言った通りじゃん。でも夜じゃない、明るい」


 それに石造りの建物に不釣り合いな、食虫植物のような形の巨大オブジェがこちらに運ばれてきてるけど、あれ何?

 住人達、オブジェに歓声をあげているというより、悲鳴や怒声に近くない?


「おばあちゃん、あれ何? 気持ち悪いんだけど……えええっちょっとあの食虫植物っぽいのが蔦で人を持ち上げて、あああ…騎士に蔦を斬られて人投げたよ! ホントに怪我してる! あっあぶな…おばあちゃんっ」


 逃げよう、と続けるつもりで祖母を見て、今度は驚きに息が止まる。

 仰々しい鎌、なんででっかくなってんの!?


「おばっ、かま、鎌どうしっ」


 なんか動揺して言葉がうまく出ない。


「それが急に大きくなって…でも軽いから片手でも持てるの。そういえば危機的状況に陥ると、鎌が変化するって職人さんが言ってたような? 空気を読む鎌なんてって笑った記憶が…」


 片手に鎌を持った祖母が、反対の手を頬にあて首を傾げている。

 そうこうしているうちに、冒険者や騎士の恰好の男達に攻撃されている巨大植物が、こちらに向かってきていた。

 茎の直径は3mくらいありそうで、3階建ビルくらい高い。あんなの、生身の人間じゃどうしようもないって。


「おばあちゃん、とにかく逃げよう!」


 祖母の手を掴んで振り向くと、石造りの町並みのその先に、高い塀と扉が見える。


「あれ? 木のトンネルどこいった?」


 祖母の手を握ったまま、辺りを見回すが、木々どころか山すら見えない。

 情けない顔であたふたしていると、祖母に手を振り払われて背中を押された。


「梨花ちゃんは逃げて。私はミクちゃんを……ミクちゃん!」


 祖母が、死神の鎌サイズの鎌を片手に巨大植物のほうへと駆け出す。

 目を凝らして巨大植物の足元を見ると、毛を逆立てた猫が、ステップをきざみながら爪で攻撃をしかけている。茎に傷はついているみたいだけど、小さすぎて効き目はなさそう。


「あーもうどうしたら…」


 泣きそうになりながら祖母を追いかけようとした私は、違和感におもわず足を止めた。


 祖母の持つ鎌、どんどん大きくなってません?


「うちの子に何するのー!!」


 巨大植物の蔦がミクに届きそうになった時だ。

 祖母の声と共に振るわれた鎌は、刃渡り5mへと成長していた。

 蔦はうねるが、動きの鈍い茎の部分に刃が近づいた瞬間。

 まるで引いて刈るように、柄の部分がシュッと短くなった。

 そう、短くなった。

 祖母がバックステップを決めたわけではない。

 鎌が空気を読んで、祖母はみごと巨大植物を真っ二つに刈り取った。

 茎を刈られた巨大食虫植物が、ズシーンッと家屋を巻き込みながら横倒しになる。

 そこからは、剣を持った男達の総攻撃。

 数分後、戦いが終わったようで、敵の周囲が歓声に包まれた。


「光の魔法使い様! ありがとうございます!」


 誰かがそう声高に叫んだ。それを皮切りに祖母の周りにワッと人が集まる。


「光の魔法使い様ありがとうございます!」

「光の魔法使い様バンザイ!!」


 薄紫色の農作業用帽子を被った祖母を崇めるように、町の人々が騒いでいる。

 そんな彼らが身にまとっているのは簡素なシャツとズボン、質素なワンピース、中世の甲冑に剣? ローブに杖……革鎧に背負う大剣に弓矢に斧。

 空を見上げれば、太陽の他に知らない惑星が2つ浮かんでいる。


 あー…おばあちゃんは隣町だって言ってたけど、ここ、日本どころか地球でもないよね。

 動揺を通り越して呆然とした私は、異世界という言葉を脳裏に浮かべながら、鮮やかな青い空を静かに眺めた。


 紫の服で全身を覆い、光り輝く鎌を掲げた祖母は、確かに魔法使いのおばあさんに見えた。

 そんな祖母がハッと気づいたように、こちらに振り向く。

 ねえ梨花ちゃん、と深刻そうな顔で、内緒話をするように声を潜めてきた。


「あんな大きい食虫植物だなんて、もしかしてここ――」


 さすがのおばあちゃんも、ここが現代日本じゃないって気づいた?

 身構えた私に、祖母は告げた。


「ここ、変な外来種が増殖してるんじゃない? ほら、外国から持ち込まれたやつ。保健所に報告した方がいいんじゃないかしら」 


 おばあちゃん、外国にもあんな大きい動き回る食虫植物はいません。


「その必要はないよ、おばあちゃん」


 私はフッと笑って小さく首を横に振った。


 だってここ、日本の北欧風の隣町じゃないもん。

 絶対ここ、異世界だもん!!



 END


ポイント、ブクマ、リアクションをいただけると、とっても嬉しいです!

次も書こうという励みになりますので、よろしくお願いいたします。



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