第9話 前橋市の戦闘
群馬県前橋市。14時32分。
市西部、利根川沿いにある前橋ゴルフ場には第33普通科連隊第2中隊が展開していた。
三重県津市に駐屯する同部隊は、増援のため、群馬県に移動し、第12旅団指揮下で行動していた。
ゴルフ場は塹壕が掘られている。
中隊長の熊崎一尉は指揮所の壕から北の方を見つめていた。
ゴルフ場の森林の向こうに土煙が見える。
味方の砲撃と、敵の進撃のせいだろう。
ヘットセットで総員に通信。
「各員、敵が接近。迫撃砲、攻撃用意。射撃用意」
各員から返事が聞こえる。
連隊にとってこれが初戦だった。
熊崎中隊長は畜生、と思った。
初戦があんま化け物だったなんて思いもしなかった。人か、せいぜい夢見てゴジラかと思っていた。
(夢を見すぎたかな)
そんなことをぼやくと、彼は不意に目がかゆくて目を腕でこすった。
せいぜい夢ならこれで起きてほしいと思ったが、それこそ夢物語だった。覚めない。これは現実だ。
普通科連隊の重迫撃砲部隊が攻撃を開始した。
中隊陣地の後方から射撃し、中隊前方の敵に目掛けて着弾する。
密集した敵に直接、或いは間接的に損害を与えていく。
砲弾の直撃を受けてバラバラになるもの、至近弾を受け、破片が胴体にいくつも当たり動けなくなるもの。
もちろん、損害を受けても動けるものは動き続けた。
「各小隊、状況に応じて射撃を開始せよ。なお、先頭にいるものは装甲が厚いらしい。対戦車火器を使用せよ」
熊崎中隊長が指示を出す。
突如、連射音。誰かが焦って撃ったらしい。そのあとはしばらく射撃の音がしなかった。
『第2小隊、対戦車攻撃開始!』
無線越しに声が聞こえた。無反動砲の射撃音。着弾。
『第2小隊、撃ち方はじめ! 撃ち方はじめ!』
第2小隊長、えらい興奮してるな。熊崎中隊長がそう思うと同時に、複数の連射音。
それに続けて、命令が下る。
『第3小隊、対戦車攻撃! 小銃も撃ち方はじめ!』
『第1小隊、撃ち方はじめ!』
『第4小隊、対戦車攻撃開始! その後すぐに小銃撃ち方はじめ!』
敵も光線のようなものを撃っている。
中隊長は中隊指揮所の壕から外を見て思う。
前進する大勢の敵。阻止する味方。しかし森という立地のせいか、状況がわからない。
もしかして自分は大きな過ちを犯そうとしているのではないか。
ただ大群の敵の前に味方を立たせ、いたずらに味方の損害を増やしているのではないかという……
「各小隊、損害を報告せよ」
中隊長は20式小銃を手に取り、外に向けながら言った。
内心で思う。頼む、誰か返事してくれ。
少しの静粛。しかし熊崎中隊長には永遠に感じた。
「第2小隊、静野二曹です。小隊長戦死。生存者12名。前線を突破されました」
「第1小隊、青野小隊長。生存者約20名」
「第3小隊、武野三曹です。小隊長戦死、生存者8名。前線を突破されています」
「第4小隊 大塚小隊長、生存者15名。前線を突破されました」
なんてこった…熊崎中隊長は思った。このわずかな時間でこれだけの損害が出たのだ。
作戦継続に必要なのは部隊の7割が限度と言われている。小隊は40名程度で構成されるので、これではよくて5割回ってる程度ではないか。
熊崎中隊長は本能的に命じた。
「各小隊、後方のスタジアムまで後退せよ。繰り返す、後方のスタジアムまで後退せよ」
中隊長は正田醤油スタジアム群馬にいる連隊本部に通信をした。
連隊長、我の損耗があまりにも激しすぎました、スタジアムまで後退します。
「前線は突破されました。当中隊は大規模な損害を受け、現状を維持することが困難となりました。私も後退します」
連隊長は何か言いたげだったが、了解、と返答をした。
その時、中隊指揮所に3メートルの、灰色の半円をした甲殻類が乗り上げた。
熊崎中隊長や他の中隊要因も20式小銃を構え、射撃を行う。
怪物の命はとったようだが、その横に、新たな怪物が、正面右に細長いものを彼らに向けていた。
その細長いものから光線が放たれ、中隊指揮所は爆発した。




