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PT  作者: 野比野小雪
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臭い物にはフタ

 「ぼくの特技はペッティングです」

 

 面接で、まず第一声にこう言い放ってやった。面接官は50代ぐらいの、鼻がやけに脂ぎった糞ファッキンデブだった。そいつを見た瞬間に、この言葉を浴びせてやりたくなったのだ。


 面接官は唖然とした顔をしたが、何事も無かったように面接を続け、そしておれは面接に受かった。


 ペットボトルのフタ職人。


 なぜこんな仕事に応募したか、その時の気持ちをまったく思い出せなかったが、何でもいいから職人になりたい、そう思っていたことだけは覚えている。というか、職人の字を見ただけで応募することに決めたので、ペットボトルのフタというところは読んでいなかったと思う。とにかくおれは、世界一のペットボトルのフタ職人になることにした。


 その面接で受かったのはおれだけで、職場の先輩というか、社会のゴミどもは、面接官を含めて三人だった。その中でもとてつもなくゴミのようなやつが、石丸だった。石丸は童顔のくせにヒゲが濃く、夕方にはヒゲのそり跡が青々としてきていた。ゴミに生えるコケだった。そして石丸は、一日に平均十回、週に七十回オナニーをしていると言っていた。ぼくの初出勤の日は、家を出る前に三回オナニーをしてきたそうだ。

 しかしそんなファッキン石丸にも唯一長所があった。それは、やつの作るペットボトルのフタは、デザイン、機能性、独創性どれをとっても他の誰が作るものよりも優れているということだ。おれは世界一のペットボトルのフタ職人になることに決めたので、このファッキン石丸を師と仰ぐことにした。

 それにしても石丸のペットボトルのフタ(この業界ではペットボトルのフタを“PT”と呼ぶが)、その石丸のPTには目を見張るものがある。全く同じ物を作ろうと思えば瞬時に、いくらでも作ることができるし、芸術作品のようなPTを作ろうと思えば、誰にも想像することができないPTを作ることができた。おれはまず、この石丸のPTの模倣をすることから始めた。

 しかしそれはなかなかうまくいかなかった。こいつには天性の才能があるのか、陰で努力をしているのかわからなかったが、おれが同じ物を作ろうとしてもまったくうまくいかなかったのだ。理由は検討もつかなかったが、しかしこれは仕事場の石丸だけでなく、プライベートの石丸も観察する必要があると感じた。

 おれが石丸と仲良くなるにはそれほどの時間を要しなかった。やつには大好物のエロ本やエロビデオをちらつかせておけば簡単になつく。初めて話すようになってから二週間ぐらいで、ついにおれは石丸の一人暮らしをしているアパートへ呼ばれることになった。

 ふたりで酒を飲み、PTの話で盛り上がったあと、夜も更けたところで、石丸はふいに便所へたった。

 「うんこしたいんで絶対見ないでくださいよ、絶対ですよ」


 おれはすぐに気づいた。こいつ、おれがやったエロ本でオナニーをする気だ。ここだ。この瞬間にあのPTを作る秘密が隠されているに違いない。おれは、石丸のオナニーを覗くことにした。石丸が便所に入ってすぐ、石丸の吐息が漏れ始めた。やっぱりこいつやってやがる。さらに吐息が大きくなった直後、おれは便所のドアを勢いをつけて開けた。

 「石丸、破れたり!」


 おれは愕然とした。やつは、やつは、人間ではない。おれが見た物は、やつのファッキンペニスから飛び散る、緑色と黄色の混じったような色の精液だったのだ。

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