恐るべき異能
リトスは真剣な面持ちで、メリッサを見つめていた。
「こっそり小鳥が運んできた手紙を見た事があるんだけど、本当に恐ろしかったよ。ワールド・スピリットというのはダークも使う異能なんだけどね……」
「ワールド・スピリット……」
メリッサは曖昧な口調で呟いた。
「サンライト王国でも使う人がいましたが……確か世界の源をエネルギーにした異能の事ですよね」
「詳しいな。あんたすごいよ」
「あ、ありがとうございます。司祭からの受け売りです」
メリッサは唐突に褒められて動揺したが、お礼を言った。
リトスは笑う。
「そんなに固くならないでよ! あたしがイジメているみたいじゃん」
「そ、そんなイジメなんて……ワールド・スピリットについて教えてくださっているだけですのに」
「あたしはまだロクに情報を出してないよ。ワールド・スピリットはただの異能じゃないんだ」
リトスは一呼吸置く。
「死んだ魂の集合体を利用しているらしいんだ。手紙には、もしも苦戦する事があったら味方を殺すのも有効な手段になるはずだと書かれていたよ」
「え……?」
メリッサの脳内は真っ白になった。
たった今聞いた言葉が受け入れられない。あまりにも衝撃的で、現実離れしていると感じていた。
リトスはうんうんと頷く。
「そんな反応になるよね。あたしだって震えが止まらなかったよ」
「あの……いったいどういう事ですか? 死んだ魂の集合体の利用なんて……味方を殺すなんて……」
「あたしも詳しい事は分からないけど、世界の源は死んだ魂の集合体らしいんだ。その力を利用したのがワールド・スピリットなんだってさ。ダークはワールド・スピリットを利用できるからね。人が死ぬほどに、ダークは強くなるんだって」
メリッサは両腕で自らの身体を抱え込んだ。心臓の鼓動が激しくなるのに、芯から寒くなるのを感じていた。
リトスはメリッサの背中をなでる。
「いきなりショッキングな話をして悪かったね。教会に届く手紙はそれだけ恐ろしく重要な内容なんだ。見ないのが一番さ」
「そうですね……内容は見ないようにします。ですが、小鳥をずっと外で待たせるのはかわいそうですね」
「大丈夫だよ。あの小鳥は寒さに強いから」
リトスはメリッサに微笑み掛ける。
「もっと気楽に考えていいと思うよ」
「はい……ありがとうございます」
メリッサは深呼吸をして、自らを落ち着かせた。もう少しで心臓の鼓動は元に戻るだろう。
そんな時に、つんざくような高笑いが聞こえた。
「あらあらあらあら修道女たちはおさぼりかしらん。ダークさんがなんて言うかしらねん」
グレゴリーだ。教会の入口に立ち、頭上でうるさいほどに両手を叩き、全身の宝飾品をじゃらじゃら鳴らしていた。
リトスは心底不愉快そうに舌打ちをした。
「ダークなら何も言わないよ。今日のお留守番はあたしなんだから」
「あらあらそっちのエセ聖女ちゃんはどうなのん? まさかダークさんに散々迷惑を掛けたのに、な~んにもしてないなんて、ありえないわよねん?」
嫌みをたっぷり込められたが、メリッサは頷いた。
「そうですね。お役に立たないといけませんね」
「言われないと分からない事かしらん? これだから余所者の軟弱女は好かないのよねん」
グレゴリーはこれ見よがし溜め息を吐いて、大げさに首を横に振った。
「役立たずのくせにいい気にならないでねん」
「メリッサは役立たずじゃねぇよ。余計な事をしないように言ったのは俺だ。不満があるなら俺に直接言えよ」
グレゴリーの後ろから、ガラの悪い声が聞こえた。
グレゴリーはヒッと小さな悲鳴をあげて、恐る恐る振り向いた。
そこには切れ長の瞳をぎらつかせるダークがいた。




