幕間~地方担当者たちの動向~
リベリオン帝国の南部地方は、もとはサンライト王国の領土であった。
サンライト王国はかつて軍事国家として名高かったが、闇の眷属を虐待していた。リベリオン帝国南部地方担当者のエリック・バイオレットも、虐待されていた人間の一人だ。
そんな彼が、サンライト王国の瓦礫の処理や城下町の復興を手伝っている。
きっかけは、とある修道女の優しさに触れたからだ。その修道女は、エリックの想い人の友人であった。
想い人は、サンライト王国軍にむごたらしく殺された。エリックをかばって、何度も刃で切られた。その瞬間を思い出すと、悔しさと絶望で身体が震える。
瓦礫をどかす手を止めて、溜め息を吐く。
そんな様子を見て、赤髪の女性が声を掛ける。通気性の良い白い服を身にまとう赤い瞳の女性で、クレシェンド王国の貴族だったという。名前をミネルバという。
「大丈夫か? 辛いのか?」
ミネルバが心配そうにエリックを覗き込む。
エリックは首を横に振った。
「大丈夫だ」
「無理をしない方がいいだろう。私たちに任せてほしい。ここに住まわせてもらう恩を返したい」
ミネルバの眼差しは決意に満ちている。
クレシェンド王国は、現在はリベリオン帝国東部地方担当者であるシルバー・レインに乗っ取られている。祖国を諦める決断を迫られた時の、ミネルバの絶望は計り知れない。
彼女たちは住処を求めて、比較的気候が安定している南部地方に移動した。未来を勝ち取るために大きな決断をしたのだった。
エリックはミネルバに同情していない。しかし、嫌悪もなかったため、ミネルバたちの移住を受け入れたのだった。
エリックは静かに青空を見上げる。想い人の事を思い出そうとしていた。
そんな時に、奇声を上げながらリュートをかき鳴らす男性がいる。金髪アフロを生やし、顔からV字のサングラスがはみ出ている。グランディールだ。
「世は金、時は金! 俺様の歌を聞けば辛い事なんか吹っ飛ぶぜ!」
「おまえは歌ってないで働け」
ミネルバに冷たくあしらわれるが、グランディールはめげない。
「あんたの冷たい視線も好きだぜ」
「働け。嫌なら私のワールド・スピリットで燃やす」
ミネルバの口調は冷淡だった。
グランディールはしぶしぶ小石を拾い始める。
そんな様子を見て、サンライト王国の修道女たちは微笑んでいた。
「人手が増えて助かりますね」
「私たちも頑張らないといけませんね!」
サンライト王国の城下町の復興が着々と進む頃に。
リベリオン帝国東部地方担当者のシルバー・レインはソファーで寝転がっていた。
「暇ですわね」
落ち着いたクリーム色の壁際に、技巧を凝らした調度品が飾られている。花のお香がたかれ、部屋に華やかな匂いが広がっている。
シルバーは贅沢な生活を送っている。
しかし、満足に程遠かった。
「やはり、刺激がほしいのですわ。クリス、面白い話はあります?」
ソファーの傍に立つ執事服のクリスが、両腕を組んでうめく。
「僕から面白い話を絞り出すのは難しいので、ダーク様に聞いてみるのはいかがでしょうか?」
どういった理屈か分からないが、クリスは困った時に、よくダークに助けを求める。
シルバーは両目を輝かせている。
「メリッサと関係が進んだのか、聞いてみましょう!」
胸の真ん中付近に着けている黄色い薔薇のブローチに触れる。
ブローチは淡く光る。
「ねぇ、ダーク。メリッサと結婚できましたの?」
「いきなりなんて事を聞くんだか。そもそも、てめぇ誰だ?」
ガラの悪い低い声が返ってくる。
シルバーは両目をパチクリさせた。
「誰って……私の事を忘れましたの?」
「ちょっとした事故で記憶を失ったんだ。名乗ってもらえねぇか?」
シルバーは怪しげに笑う。悪だくみを思いついていた。
「私はリベリオン帝国東部地方担当者のシルバー・レインですわ。あなたの上司ですの」
「俺の上司?」
「その通りですわ。私の命令は絶対ですのよ。さあ、ダーク。あなたの恋愛観を暴露しなさい。メリッサに告白しなさい」
「正気か? 俺はてめぇから何の仕事を任されていたんだ?」
ダークが明らかに戸惑っている。
シルバーはニヤつきが止まらない。
「私を楽しませる仕事を任されていましたわ。さっさとメリッサに告白しなさい!」
シルバーは愉快でたまらない。
ダークがメリッサからフラれたら、一生笑い話にするつもりだ。仮に告白に成功しても、シルバーにダメージはない。単にダークに対する興味が薄れるだけだ。
ダークの舌打ちが聞こえる。
「てめぇを楽しませるために告白だと? 怪しすぎるぜ。ローズベル様に確認するか」
シルバーの顔面が青ざめた。
ローズベルは軍部の司令塔であり、リベリオン帝国のナンバー2だ。確認されれば、シルバーの嘘はすぐにバレる。
「お、お待ちなさい。勝手な事はおやめなさい」
「その様子だと、嘘だったんだな」
「そ、そんな事は……」
「他人に迷惑をかける嘘は許しておけねぇよ」
ダークの声が一段と低い。
シルバーは涙声になる。
「あなたが私を楽しませていたのは本当ですわ」
「反省の色が全くないな」
「謝りますわ、ローズベル様に報告するのはおやめなさい!」
シルバーは必死だった。
ダークの露骨な溜め息が聞こえる。
「二度と嘘を言うんじゃねぇよ」
「当然ですわ、誓いますわ!」
シルバーは相手が見えないにも関わらず、何度も頷いた。
ダークの声がいくらか和らぐ。
「疲れてるから、これくらいにするぜ。じゃあな」
「ええ、また今度」
ブローチの光が消える。
シルバーは起き上がり、クリスに向き直る。
「すぐに準備しなさい」
「なんの準備でしょうか?」
「私の発言が本物になるように、支度しなさい。私がダークの本物の上司になれば、文句がないはずですわ。ローズベル様に報告される前に、急ぎなさい! リベリオン帝国東部地方の勢力を広げるのですわ!」
「はぁ……はい……」
クリスは気のない返事をするのが精いっぱいだった。
シルバーが領土拡大を決意した頃に。
リベリオン帝国西部の街道で叫ぶ男性がいた。紺色の服を着る大柄な男性が、走っていた。グレゴリーだ。
「もういいでしょん、あたしは自由よん!」
「ダメですよ、あなたは罪人ですから。フリーダム・トワイン、バインド」
灰色を肩で切りそろえた白い貴公子が、笑顔でワールド・スピリットを繰り出す。彼の名前はグレイ・ウィンド、リベリオン帝国北西部担当者だ。無数の糸がグレゴリーに絡みつき、縛り上げる。
身動きの取れないグレゴリーは、ぎゃんぎゃん騒ぐ。
「戦いだって頑張ったでしょん!? 無罪放免よん!」
「中央部担当者の補佐を殺そうとしておいて、無罪はありえません。そう思いますよね、ナイトさん」
グレイの左腕を抱きしめる、青いドレスを身に着ける少女が溜め息を吐く。名前をナイト・ブルー、グレイと同じくリベリオン帝国北西部担当者だ。
青と黒のオッドアイは軽蔑を隠していない。
「グレゴリーは有罪。以上」
「理不尽にもほどがあるわん! せめてダークさんと話をさせて!」
グレゴリーは号泣した。
グレイは微笑む。
「うるさいですね。物理的に黙らせますよ?」
「うう……」
グレゴリーはしゃくりあげた。
ナイトは淡々と尋ねる。
「グレゴリーをなんで生かしているの?」
「ゴミもなんとかも使いようですよ、ナイトさん」
グレイの返答に、グレゴリーはむせび泣く。
「早く無罪放免になって、ダークさんに会いたいわん」




