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グレゴリーの嘆き

 グレゴリーの絶叫を耳にして、ダークは苦笑した。

「あの野郎、生きてやがったのか」

「聞いてよダークさん! あたし散々だったのよん!」

 グレゴリーは涙目で走ってくる。

 そんなグレゴリーを、軍服の集団があっという間に取り押さえる。グレゴリーはあっけなく地面に組み伏せられていた。

 あまりに鮮やかな押さえつけに、グレゴリーは呆然とするしかなかった。

 グレイはクスクス笑う。

「リベリオン帝国中央部を永久追放された男ですよね? ダークさん、どうしますか?」

「話だけは聞いてやるぜ」

 ダークは溜め息を吐いて、グレゴリーに歩み寄る。

 グレゴリーは押さえつけられたまま、ダークを見上げる。


「ダークさん、あたしは頑張ってきたわん。あんたにふさわしいのは、このあたしよん」

「訳が分からねぇが、てめぇが相変わらずなのは理解できたぜ。メリッサを傷つけようとした事を反省していねぇようだな」

「あたしが反省する必要なんてあるのん!? 軟弱横取り女はさっさと仕留めるべきよん!」


 グレゴリーは金切り声をあげて暴れ出すが、軍服の集団の押さえつけを逃れる事ができない。

 メリッサは困惑した。


「あの……軟弱なのは認めますが、横取りとはどういう事でしょうか?」

「とぼけないでよん! あんたがダークさんの貞操を奪ったのは知っているんだからん!」

「ええ!?」


 メリッサは両目を丸くした。両肩をふるわせてのけぞる。


「そ、それは恐れおおいです」

「まだとぼけるなんて卑怯よん!」


 グレゴリーの顔面は怒りで真っ赤になっていた。

 グレイは声を出して笑う。

「無理やりでなく、ちゃんとした夫婦になっていたら良かったのですかね?」

「ふざけないでよん! ダークさんはあたしのものにすると誓っているんだからん!」

 騒ぎ立てるグレゴリーに、ダークは冷ややかな眼差しを送っていた。

「俺が誰かのものになるなんて発想がありえねぇよ」

「そんな事は言わないものよん!? あたしが一番あんたを愛しているんだからん!」

「わりぃが他を当たってくれ」

「せめて少しは迷ってん!」

 グレゴリーは暴れながら泣き出した。


「こんな風に大恥をかかされるなんて、ひどいわん!」

「……確かに辛いですよね」


 メリッサは頷いた。


「ダークに惚れる気持ちは理解できるつもりです」


 私よりも長い間愛してきているのですよね?

 という言葉は飲み込んだ。メリッサ自身の気持ちまで吐露する必要はないと思っている。

 グレゴリーは頬を濡らしたまま呆然とする。

「なんであんたが理解を示すのん?」

「詳しく申し上げる事はできませんが、人が人を愛するのに理由なんていらないと思います。たとえ想いが伝わらなくても、愛は簡単に消えるものではないと思います」

 水路が波立つ音だけが、辺りに響く。

 この場にいる全員が何も語らず、メリッサに視線を向けている。

 メリッサは注目されるのが苦手である。しかし、言うべき事は言うつもりだ。

「一筋に愛する事は簡単に否定していいものではないと思います。しかし、相手にその気がないのなら、互いにとって重荷となってしまいます。捨て去るのは勇気がいると思いますが、グレゴリーさんにとって本当に幸せになる方法があるのを祈ります」

「あたしの幸せ……」


 グレゴリーは嗚咽を漏らした。


「世界中の美しいものに囲まれて毎食高級品を食べて好きな時に一方的に他人を痛める付ける事かしらねん」

「清々しいまでの欲の塊だな。てめぇに同情するのは間違いだと確信できたぜ」


 ダークは呆れ顔になっていた。

 グレイとナイトは軽蔑の視線を浮かべている。

「何の努力もせずにその境地を口にするとは……」

「クズ」

 グレゴリーは号泣した。

「あたしの幸せはあたしが決めるものよん!」

「語るのは自由です。実行に移さなければ」

 メリッサが曖昧に頷くと、グレゴリーは歯ぎしりした。

 ダークは舌打ちをした。

「実行に移すつもりだな」

「ダークさん、グレゴリーさんは目障りなので仕留めましょうよ」

 グレイが微笑んで提案すると、ダークは両腕を組んだ。

「いちおう軍部の先輩だったからな」

「老害は駆除するべきですよ。おや?」


 グレイの襟元で、白い薔薇のブローチが小刻みに震えている。グレイが触れると、緊迫した声が返ってくる。


「襲撃です! ホープ街でワールド・スピリットの使い手と交戦中です!」

「どのようなワールド・スピリットでしょうか?」

「雷を自在に操っています! 敵軍の数は多数で、使い手を探し出せておりません!」

「分かりました。すぐに行きます」


 グレイはブローチから手を離し、不敵に微笑んだ。

「主力が西部にいっているようですね。仕留めるのが楽しみです」

「殺す。それだけ」

 ナイトが抑揚のない声で言っていた。

 ダークはニヤついた。


「さっさと行くか。グレゴリーも来るよな?」

「あたしは安全な場所にいるわん」

「メリッサの傍に置いておくわけにいかねぇよ。メリッサ、必要があったらブローチで俺を呼べ。コズミック・ディール、テレポート」


 グレゴリーが悲鳴をあげるが、グレイとナイトと共に空間転移で連れていかれた。

 メリッサは両手を合わせた。

「どうか皆様ご無事に」

 祈るメリッサを、建物の陰から怪しい目つきで見ている男がいたが、まだ誰も気づいていなかった。

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