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黒い神官服を着る理由

 ダークにお姫様抱っこをされてから、メリッサの顔面は耳まで赤く、心臓はバクバクしっぱなしだ。周囲の気温は低いが、メリッサの体温は高くなってきた。

 メリッサは恐る恐る口を開く。

「あの……もう歩けますので降ろしてください」

「まだダメだぜ。身体の表面が温かくても、芯が冷えているだろ。すぐに歩けなくなるぜ」

 ダークの切れ長の瞳に睨まれて、メリッサは曖昧に頷くしかなかった。


 身体がある程度温まった事で、いくらか感覚が戻る。


 震え上がるほど冷たい風は澄んでいて、心地よい。ダークの体温が直に伝わってきて、クラクラするほど頭が火照(ほて)る。爽やかな男性の匂いを感じていた。

 一方で違和感がある。

 爽やかな匂いに交じって、血の臭いを感じる。周囲を見渡しても、墓地があるが戦闘の気配はない。人と人が斬り合っている現場はない。

 ダークの胸元や肩などをジッと見て、メリッサは気づいてしまった。襟元に黒い薔薇のブローチが付けられている。見事な細工である。

 しかし、ブローチより気になる事柄があった。


 ダークの黒い神官服に、血が付着している。


 一か所ではない。血の付いた部分がメリッサに触れないように気を付けているようだが、臭いまでは隠しようがなかったのだろう。

 メリッサは両手を合わせた。

「怪我をしているのに、私を抱えてくれているのですね」

「これくらい日常茶飯事だぜ。気にするな」

「いけません! 傷口が開いたらどうするのですか!?」

 メリッサの口調は、自分でも信じられないくらい荒くなっていた。

 メリッサは両手で自らの口を覆い、俯いた。

「声を荒げてしまいすみません」

「気にしてないぜ。それよりよく気づいたな。神官服をこの色にしてから、俺の怪我や返り血に気づく人間が激減したのに」

 ダークに褒められて、メリッサは唖然とした。

 ダークは続ける。


「俺たちの宗教は、神官は原則白い神官服を着るけどよ、怪我が目立って敵が勢いづくからな。俺だけ黒い神官服を特別に作ってもらったんだ。神官と軍部が兼任しやすくて助かるぜ」


「……神官なのに、戦場に出続けるのですか?」


 メリッサの声は震えていた。

 ダークは口の端を上げた。

「ムカつく連中を殺す快感はたまんねぇよ」

「せめて戦場と教会で服装を変えましょうよ」

「着替える時間が勿体ないぜ」

「めんどくさる所ではないと思います」

 メリッサはピシャリと言い放つ。

「せめてきちんと洗ってください。替えの服も用意しましょう」

「洗える日があればな」

「分かりました。私が洗います」

 メリッサが言うと、ダークは両目を白黒させた。

「めちゃくちゃめんどくさいのに」

「構いません。それくらいはやらせてください」

 サンライト王国の修道院で洗い物の経験はある。服を洗うのは大変であるが、できない事はないだろう。

「水を流せる場所と使用できる道具を教えていただければ、大丈夫です」

「本当にいいのか? 大変になったらいつでもやめろよ」

 ダークはぶっきらぼうな口調で気遣っている。視線を泳がせているが、悪い気はしていないようだ。

 メリッサは微笑む。

「早くここの寒さに慣れて、お役に立ちたいです」

「無茶はやめとけよ。敵じゃねぇ人間の犠牲は減らしてやりたいからな」

 ダークの口調が心なしか暗くなる。


「戦場だけじゃなく、雪山のせいで命を落とした人間だっているんだ。気を付けてほしいもんだぜ」


「そうですね。気を付けます」


 メリッサはしっかりと頷いた。

 墓地を過ぎると広大な広場が見えてきた。その奥に雪を被る山の連なりが見える。

 美しいが、人間にとって危険なものだろう。

「無理はしません」

 メリッサは自分に言い聞かせるように呟いた。

 ダークは無言で頷いた。

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