アステロイドの歓待
アステロイドは特徴的な街だ。
円状の広大な防壁に囲まれている。中心街を四分円の弧の部分を組み合わせたような形状の水路で囲まれている。水路には跳ね橋が架けられている。
水路は人工的な運河であり、物資輸送や敵襲に備える機能がある。戦時には跳ね橋を引き上げる事でそれぞれの地区が攻められにくくなる機能もある。
街全体が星の瞬きのような形を描いている。リベリオン帝国の北西部担当者たちの管轄だ。
そんな街の正門に、メリッサとダークが現れた。
メリッサは大きく息を吸い込んだ。
「良い香りが広がっていますね。何の匂いでしょうか?」
「磯の香りだぜ。水路は海の水を引いているんだ」
ダークは苦笑する。
「リベリオン帝国の管轄になる前から利用されていた。敵から奪い取ったものだぜ」
「そうですか……いつか返せると良いですね」
「返す気はねぇよ。俺たちも散々搾取されたからな。さて、グレナイに会いに行くか」
ダークは歩き出す。メリッサも続く。
正門から入ると、白い街並みが広がっている。建物の素材は分からないが、美しい街並みだ。
水路には小舟が行き交っている。荷物を運んでいるようだ。
耳をすますと、軽快の歌声が聞こえる。街頭で演奏をしているようだ。
メリッサは両目を輝かせた。
「御伽話に出てきそうな街ですね」
「確かにな。アステロイドは夢のような街だぜ」
ダークは口の端を上げる。
「治安維持のため、グレナイは随分と頑張ってるな」
「いたぞ! あっちだ!」
唐突に怒号が響く。
黒い軍服を着た集団が走っている。
メリッサは両目を丸くした。
「事件があったのでしょうか?」
「ダーク様と、おそらくメリッサ様だ! 囲め!」
メリッサは両目をパチクリさせた。
ダークは呆れ顔になった。
軍服の集団はあっという間にメリッサとダークを囲い、敬礼をしている。
「偉大なるリベリオン帝国中央部担当者ダーク・スカイ様、中央部担当者補佐メリッサ様、アステロイドにようこそ!」
「ああ、はい……ありがとうございます」
メリッサは曖昧に返事をして礼をした。
ダークは舌打ちをする。
「派手なもてなしはいらねぇと言ったのにな」
「吹奏隊、続け!」
いつの間にか吹奏隊が駆けつけていたようだ。ラッパが高らかに鳴らされ、小太鼓が軽快にリズムを刻む。甲高い笛の音やシンバルが加わり、演奏はより華やかになる。
軍服の集団は一糸乱れぬ動きで二列になる。
互いに向き合い、剣を頭上で重ね合わせ、アーチ状にしている。
ダークは溜め息を吐いた。
「行くぜ」
「え、あ、はい」
ダークは剣のアーチの下を歩く。メリッサは状況を飲み込めていないが、とりあえずダークに続く。
ダークとメリッサが通り終えると、剣は鞘に納められる。軍服の集団は敬礼をする。
アーチをくぐり抜けた先に、白い貴公子の服装に身を包んだ少年と、青いドレスを身にまとう少女が立っていた。
少年は灰色の髪を肩で切り揃え、微笑みを浮かべて手拍子をしている。右の脇に白いステッキを挟んでいる。ステッキの先端には青い宝石が付いている。
少女は黒髪を肩で切り揃え、無表情で少年の左腕を抱き締めていた。青と黒のオッドアイが印象的だ。
リベリオン帝国北西部担当者たちだ。少年はグレイ・ウィンド、少女はナイト・ブルーだ。
ダークは疲れ切った表情を浮かべる。
「グレナイ、こりゃどーゆー事だ? 派手なもてなしはいらねぇと言っただろ」
「何をおっしゃるのですか? 随分と地味にしましたよ。花火やサーカスの演出を省いたので」
グレイは悪びれる様子がない。
ナイトはぼそりと呟く。
「グレイ、楽しんでる」
「そんな事はありませんよ! 僕が楽しいのはナイトさんと愛を語らう時ですから」
「うん、それは分かっている」
グレイは深々と頷いた。
「さすがは優秀なナイトさんです。さて、そろそろ中央部担当者さんから訓示をいただきましょう」
グレイは手拍子をやめて、ステッキを上下に振るう。
それが演奏をやめる合図のようだ。ラッパと笛の長音と、小太鼓の小刻みな打音が重なり、シンバルが打ち鳴らされて、終音となった。
ダークはぽりぽりと頭をかいた。
「何も考えてねぇよ」
「皆様に戦の心得を教えてください。魂が沸き立つように」
グレイは穏やかに言うが、ダークの表情は苦々しい。
「無茶を言いやがって」
「ダークさんに難しいなら、補佐に任せるのはいかがでしょうか?」
「もっと無茶だろ」
ダークは溜め息を吐いて、集団に向き直る。
「てめぇら、分かっているだろうがこの頃変な動きがある。気を緩めずに警戒し、敵に遭遇したらローズ・マリオネットを中心に戦え。俺からは以上だ」
「敵の動きをくまなく察し、生き延びたければ死ぬ気で戦えという事です。皆様、魔王に命を捧げるつもりで頑張りましょう」
グレイが勝手な言葉を足していた。集団が雄叫びを上げる。
ダークは両目を白黒させるが、なんとか平静を保っていた。
メリッサは曖昧に笑うしかなかった。
そんな時に、泣き叫びながら走ってくる男がいる。薄汚れた濃紺の服を着た、大柄な男だ。
「ダークさぁぁあああん! 会いたかったわあぁぁあん!」
宝石は身につけていないが、グレゴリーで間違いなかった。




