ちゃんと話したいが
ダークは襟元の黒い薔薇のブローチに片手を当てた。ほどなくしてブローチが光る。
「グレイ、今どこにいて、状況はどうだ?」
「アステロイドにいます。今の所落ち着いておりますよ。不気味なほどに」
少年の声だ。中性的で穏やかな口調だが、不穏な言葉が返ってくる。
「嵐の前の静けさだと思います」
「だろうな。これから何も起こらないなんて考えられないぜ」
ダークは口の端を上げた。
「派手なイベントになるだろうな」
「張り切っていますね。好きな人ができたからですか?」
グレイの何気ない問いかけに、ダークは両目を見開いた。
「何を言ってやがる?」
「皆様は恋人や奥様とおっしゃいますが、実際のところは進展がないのですよね? ヤキモキしている方が大勢いますよ」
「おい、二度としゃべれないようにしてやろうか?」
ダークの声音が低くなる。
グレイは朗らかに笑っていた。
「本気にする事ではないでしょう? 大事なのはどうやって生き延びるかだと思いますよ」
「当然戦争に勝つつもりだけどよ、余計な事は言うな」
「はいはい、承りました。ナイトさんも良いですね?」
グレイが確認を求めると、露骨な溜め息が聞こえた。
「変なタイミングで私に振らないで」
抑揚のない少女の声が返ってきた。
グレイは声をあげて笑っていた。
「失礼しました! ダークさん、こちらはいつでも大丈夫なので好きな時にお越しください」
「すぐに行くぜ。派手なもてなしはいらねぇからな」
「分かりました。お待ちしております」
ブローチの光が消えた。
ダークは溜め息を吐いて、メリッサに向き直る。
「変な事を言われたが、気にすんな」
「あの……好きな人がいるのですね?」
メリッサが椅子から立ち上がり、真顔で尋ねると、ダークは言葉を詰まらせた。
いくらか時間が経つ。
ダークは口を開きかけては、言葉を吞み込むのを繰り返している。
メリッサはハッと息を呑んだ。
「すみません、私なんかが尋ねていいものではありませんね」
「私なんかという言い方は好きじゃねぇ。もっと自分に自信を持てよ」
ダークの口調が強い。怒鳴っているわけではないが、ハッキリとしていた。
メリッサは戸惑った。
「変な質問をしたのは事実ですよね?」
「変でもねぇよ。そうだな……構わねぇと言ってやりたいが、なんて言えばいいのか分からねぇ」
ダークは急にしどろもどろになって、頭をぽりぽりとかいていた。視線を泳がしている。
「戦争が終わったらちゃんと話したいが……そんな日が来るのか分からねぇ」
「分かりました。それだけ知る事ができれば大丈夫です」
メリッサは微笑んで、両手を合わせた。
「あなたと、あなたの愛する人が幸せになれるように祈ります」
「そうだな……そうなると本当に嬉しいぜ」
ダークの両頬がわずかに赤らんでいる。
「メリッサ、てめぇはぜってぇ生き延びてくれよ」
「はい、頑張ります」
メリッサは力強く頷いた。
ダークは安堵の溜め息を吐いた。
「じゃあ、グレナイの所に行くぜ。コズミック・ディール、テレポート」
メリッサとダークは、空間転移で部屋から姿を消した。




