出陣の決意
メリッサとダークは王城に来た。門番が以前よりも険しい表情をしている。
メリッサとダークが近づいた途端に、両脇の門番が前方を塞ぐように槍を交差させる。
「名乗れ」
「リベリオン帝国中央部担当者ダーク・スカイだぜ。ルドルフ皇帝とローズベル様に報告があるんだ」
「そちらの女は?」
威圧的な態度で睨みつけられて、メリッサは両肩をブルッと震わせた。
ダークは苦笑する。
「そんなに緊張しなくていいぜ。名乗ってほしいだけだ」
「は、はい。メリッサと申します。リベリオン帝国中央部担当者の補佐です」
メリッサが震えながら言うと、門番たちは槍を手元に戻した。
「通れ」
「あ、ありがとうございます」
メリッサは礼をする。ダークは当然のごとく通過するが、メリッサは生きた心地がしなかった。
幅広い廊下を進み、奥にある階段をのぼる。いつもより足早に歩いたため、謁見の間まであっという間だ。
謁見の間には玉座がある。その傍で、ルドルフが大剣を振っていた。悪鬼の如く険しい眼差しで素振りをしている。
二人が来た事に気づくと、ルドルフは急に笑顔になった。素振りをやめて、大剣を背中の鞘に納めた。
「来たか、ダーク・スカイ! メリッサも!」
「不穏な動向はお察しのようですね」
ダークが確認すると、ルドルフは朗らかに笑う。
「当然だ! ルルワが夜逃げしたらしいからな。きっと今頃カインと合流しているぞ。ローズベルは指令を出すのに忙しいはずだ!」
「あの……ルルワとは?」
メリッサが恐る恐る尋ねると、ダークが溜め息を吐いた。
「カインの妹だ。俺たちに大人しく従うと誓っていたが、誓いを破ったようだぜ」
「俺たちに逆らっても問題ないと判断するような、反抗勢力が育ったんだろうな」
ルドルフが添えた言葉に対して、メリッサは身震いした。
「戦争になるのですね」
ダークは頷いた。
「ローズ・マリオネットはもちろん、軍隊を動かす必要があるだろうな」
「そうなのですね……」
メリッサの顔面は真っ青になった。
軍隊が動けば、多くの人間が犠牲になると予想される。
「少しでも犠牲を減らせれば良いのですが……」
「反抗勢力を素早く鎮圧できるかに掛かっているぜ」
ダークの切れ長の瞳に、鋭い光が宿る。
ふと、謁見の間の入口から甲高い足音が聞こえだす。振り向けば、ローズベルが歩いてきていた。
「出撃の準備は整いました。なんなりとご命令を」
「ご苦労。すぐに行くぞ。まずは北だ」
ルドルフが手短に命令を出すと、ローズベルは深々とお辞儀をした。
「畏まりました。そういえばダーク、メリッサはどうするの?」
「北西部担当者のローズ・マリオネットたちと早急に会わせるべきか、ご判断いただきたいです」
ダークの返答に、ローズベルは妖しく笑う。
「リベリオン帝国中央部担当者の補佐の事なら、あなたたちで決めるべきでしょう?」
「そうですね……」
ダークはメリッサに視線を向ける。
「てめぇはどうしたい?」
「皆様のお役に立てるなら、何でもやりたいと思います」
「ありがてぇ言葉だが……」
ダークは感謝を述べているが、複雑な表情を浮かべている。
ローズベルはクスクス笑う。
「私から説明した方がいいのかしら?」
「いえ、俺が言います」
ダークは真剣な表情になる。
メリッサは固唾を呑んだ。どんな言葉も受け入れるつもりだ。
ダークは一呼吸置く。
「ハッキリ言うが、戦いになったら何が起こるのか分からない。てめぇの命を守れないかもしれないんだ」
「それどころか、ダークのワールド・スピリットを強力にするために、あなたを犠牲にする可能性だってあるわね」
ローズベルが補足していた。
メリッサの額に汗がにじむ。
ワールド・スピリットは世界の源をエネルギーにした異能の総称だ。死んだ魂の集合体を利用したもので、敵を倒せない場合は味方を殺す手段も考えられると、リトスから聞いた事がある。
メリッサは深々と頷いた。
「そうですね……私が犠牲になる可能性はありますよね。ですが、私はできるだけ多くの方々を助けるために最後まであがきたいです」
「そりゃそうだろうな……」
ダークの表情に苦渋が滲む。
ルドルフは両腕を組んだ。
「積極的に死にたい人間はそんなにいないだろうな。だが、誰も戦わずにすむ状況じゃないし、みんなが助かるなんて甘い考えは捨てた方がいいだろう」
「ダーク、戦場の指揮はあなたに任せるわ。くれぐれもたった一人を助けるために軍隊が全滅するような判断をしないようにね。迷った時に、私に判断を仰ぐという選択肢も忘れないように」
ローズベルの指令に、ダークの表情が変わった。
切れ長の瞳は決意に満ち、闘志にあふれていた。
「分かっております。俺はリベリオン帝国中央部担当者のローズ・マリオネットです。ローズベル様の指令のもとで、戦い続けるマリオネットです」
「よろしくね」
ローズベルが微笑み掛けると、ダークは胸に片手を当てた。おそらく、祈りを捧げている。
ルドルフは朗らかに笑う。
「いざという時は、おまえの空間転移でメリッサを逃がせばいいだろう。お互いに頑張ろう」
「激励のお言葉を賜り光栄です。まずは北西部担当者のローズ・マリオネットたちと連絡を取り、状況を詳しく確認します。メリッサを連れていくかどうか、その後で考えます」
「俺はいいぞ。ローズベルはどうだ?」
ルドルフに話を振られて、ローズベルは頷く。
「私も構いません」
「おし、決まりだ! 俺もさっさと出陣の準備を整えるぞ!」
ルドルフは両手をパンッと鳴らした。
ダークは謁見の間を出る方に歩き出す。メリッサもついて行くのだった。




