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祈りを乗せて

 ダークがオルガンに両手を置く。

 人々は固唾を呑んで見守る。修道士たちや修道女たちは、野菜を長机に置いて耳をそばだてる。

 オルガンの伴奏がゆったりと始まる。

 穏やかな音色が教会内に響く。神聖な空気に満たされる。

 初めて聞く伴奏なのに、メリッサにとって懐かしい音色に感じた。メリッサの感覚に馴染んでいるのだ。


 メリッサはそっと口を開く。歌い出しは簡単にできた。


 人々の明るい笑顔が見渡せる。歌声は自然と伸びやかになる。高音で少し音を外しても、伴奏がメロディーラインを弾いてカバーしてくれる。

 夢のような時間だ。時折ダークの表情を確認すると、ダークが穏やかな笑みを返す。

 メリッサは晴れやかな気分で歌う。

 少しでも人々が幸せになれるように、祈りを乗せていく。両手を合わせて天井を見上げる。

 光る蔦がいつもより明るく辺りを照らす。

 最後のロングトーンまで、歌声は伸びやかだ。

 終曲のタイミングもうまく重なった。


 拍手と喝采が沸く。


 メリッサは深々とお辞儀をする。ダークも安堵の表情を浮かべていた。

 もっとも、ダークは人々に背中を向けているため、メリッサしか表情を確認できない。ダークの表情を独り占めしているようで、メリッサは照れ笑いを浮かべてしまう。

 男の子の拍手が一段と激しくなる。

「すごい、すごいよ! もう一曲!」

「アンコールはお断りだぜ。一曲だけという約束だ」

 ダークは立ち上がった。

 男の子はぶーたれる。

「ケチ!」

「よほど気に入ってくださったのですね」

 メリッサは微笑む。

 男の子は何度も頷いた。


「本当にすごいよ、良かったよ!」


「今日はお帰りいただいて、お祈りの時間がある日にもう一度いらしていただけますか? オルガンに触れさせるわけにはいきませんが、今度は一緒に歌うのも良いでしょう」


 お祈りの時間では、教会に一般の人々を招き入れる。以前にダークが担当していた。

 男の子の笑顔が輝いた。

「うん! 絶対に行く!」

「いいものが見れたのぅ」

「また聞きたいわ」

 人々は満足そうな表情で帰っていく。

 メリッサは安堵の溜め息を吐いた。人前で一人で歌うのは初めてであった。


「成功したようで本当に良かったです」


「いい歌声だったぜ。一番近くで聞けて良かった」


 ダークの表情がいつもより穏やかだ。

 メリッサの両頬が赤らむ。

「あ、ありがとうございます。良かったと言われて良かったです」

「伴奏がもう少しうまく合わせられれば、もっと良かったけどよ」

「いえいえ、私は高音を外しました」

 二人で反省点を述べ合う。

 ボスコは笑った。


「お二人ともすごく良かったですよ。また今度お願いしますね」


「俺が生きていたら、ですね」


 ダークは苦笑した。

 教会の窓に小鳥が止まる。足に小さな紙が結わえられている。

 ダークが窓を開けて小鳥に餌をやり、手紙を広げる。険しい表情で読み進めて、羽ペンで返事を書いて、再び小鳥の足に結わえる。

 小鳥を見送りながら、ボスコは溜め息を吐いた。

「不穏な動きがあるのですね」

「大きな戦争が起こるかもしれません」

 ダークは窓を閉めて歩きだす。


「ルドルフ皇帝とローズベル様に報告に行きます。念のためにメリッサも来てくれるか?」


「私が行ってよければついていきます」


 メリッサの両目に決意がこもる。役に立つ事があれば、何でもやりたい。

 ダークは頷いた。


「てめぇを北西部担当のローズ・マリオネットたちと会わせるべきか、戦争を見越して俺だけで行くか判断を仰ぐんだ。てめぇに関わる事柄だ」


「分かりました。行きます」


 メリッサはダークの後をついていく。

 ボスコやリトスを初め、その場にいる修道士たちや修道女たちは胸に片手を置いた。二人が不運にさらされないように祈っていた。

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