幕間〜複雑な想い〜
リベリオン帝国の東部地方にメリッサたちがいる頃に、エリックがサンライト王国の跡地に立っていた。
青空のもとで、瓦礫の山が広がる光景を見つめる。
「相変わらず酷い有り様だな」
淡々と呟いて、瓦礫の合間を歩く。
彼の目的は、想い人であるバイオレットの弔いだ。
小さな塚の前で足を止める。土で作られた塚だ。空洞は浅く、手形がくっきりと残っている。お世辞にも作りが良いとは言えない。
そんな塚を、エリックは真剣に見つめる。
「シルバーが一生懸命に作っていたな」
胸に片手を当てて、両目を閉じる。
様々な事が思い出される。
バイオレットは多くの楽しい思い出をくれた。いつも笑顔を浮かべていた。元気の出る歌を教えてくれた。辛い日々もバイオレットのおかげで耐える事ができた。
バイオレットがサンライト王国軍に無残に殺された時は、全てを呪った。
「あの時、俺がもっと強かったなら……」
そう口にして、首を横に振る。
彼女の存在はエリックの心に生き続けている。エリックが戦えなかったせいで死んだとは言いたくない。
バイオレットが残したものは尊く、バイオレットがやりたかった事を引き継ぎたい。その一つが闇の眷属の守護だ。
「シルバーにもだいぶ迷惑を掛けたな」
エリックは両目を開けて王城を見つめる。
ダークのワールド・スピリットのせいで半壊し、中身が剝き出しになっている。
自分たちの行いが正しいとは思わない。
しかし、正しい行いをする人が報われるように願ってしまう。
「何が正しいかなんて分からないのに」
エリックは自嘲した。
シルバーには、とにかく自信を持ってほしいと伝えた事がある。彼女はエリックの言う事に忠実に従った。
「東部地方のローズ・マリオネットの他に、できる事、やりたい事はあったはずなのに……」
エリックは、シルバーが育つまではリベリオン帝国の南東部を担当していた。守りきれない闇の眷属もいた。シルバーが東部地方担当者としてローズベルから認められた時には、安堵したものだ。
今の彼女がどうしているのか、自分の力不足のせいでどれほどの重荷を背負っているのか。
南部地方が安定したら確認するべきだろう。
エリックは再び作業場に戻ろうとする。早めに状況を落ち着けるつもりだ。
その時に、数人の女性が近づいてきた。全員緑色のローブを身に着けている。心配そうな表情をしている。
「あの……迷子ですか?」
思いがけない質問に、エリックは瞬きをする。
「いや」
「迷子ではないのですね。誰かと待ち合わせをしているのですか?」
「それも違う。あんたらは何者だ?」
エリックが問いかけると、女性たちは礼をした。
「私たちはサンライト王国の修道女です。サンライト王国の瓦礫を片づけています」
「そうか」
エリックはそっけなく答えた。
彼女たちはサンライト王国の跡地を片づけている。エリックが望む行いではない。
しかし、彼女たちを邪魔するのは忍びない。見ず知らずの子供であるエリックを心配して声を掛けたのだ。罪のない善良な人たちである。
エリックは溜め息を吐く。
「少し手伝う。インビンシブル・スチール、フォレスト」
地面が揺れ、亀裂が走る。亀裂から木の根状の鋼鉄が出現し、無造作に広がる。
修道女たちは驚き悲鳴をあげるが、エリックが構う気はない。
鋼鉄は瓦礫の山を一気に絡めとる。瓦礫の山は王城の前にまとめられる。
城下町と同等の広いスペースが出来上がっていた。
エリックは再び溜め息を吐いた。
このワールド・スピリットを使うのは、自分が何者か名乗っているも同然だ。リベリオン帝国の南部担当者として敵対視されるだろう。
しかし修道女たちは拍手をしていた。
「すごいです!」
「瓦礫が一気に片付きましたね!」
エリックはポカンと口を開けた。
修道女たちは何故か張り切っている。
「次は王城の修復ですね!」
「もともとの形が分からないときついですが、きっとどこかに設計図がありますね」
エリックは複雑な気持ちになった。
バイオレットを奪ったサンライト王国は憎い。しかし、修道女たちを憎む気になれない。
エリックは静かにこの場を去ろうと、踵を返す。
そんな時に、修道女たちから声を掛けられる。
「私たちに希望をくださり、ありがとうございました!」
「またどこかでお会いしたら、ちゃんとお礼をさせてくださいね」
エリックは振り向かずに、ワールド・スピリットを放つ。
「インビンシブル・スチール、スライス・ウィング」
背中から一対の薄い翼を生やす。
走って風に乗り、そのまま飛んでいく。
修道女たちは不思議そうな顔付きで見守った。
「あの子は何者だったのでしょうか?」
「妖精さんなのかもしれませんね」




