とんでもないデタラメ
メリッサは、ミネルバの右肩をトントンと軽く叩く。
ミネルバはうめいている。
「おのれ……ダーク・スカイ……クレシェンド王国を返せ……」
「その事でお話があります」
メリッサが穏やかに声を掛けると、ミネルバがゆっくりと両目を開けた。
「……おまえは誰だ?」
「私はメリッサと申します。リベリオン帝国中央部担当者の補佐として、様々な事を学んでいる所です」
「リベリオン帝国の……!?」
ミネルバの顔面は見る間に赤くなり、両目をつり上げる。怒りを露わにしている。
「ダーク・スカイの手のものか……!」
ミネルバは吠えて、メリッサに殴りかかろうとする。しかし身体が重く、思うように動かず、震える拳は虚しく宙をかく。
メリッサはミネルバの拳をそっと両手で包み込んだ。
「あなたのすべてを理解できるとは申し上げませんが、お気持ちはいくらか理解できます。私も祖国であるサンライト王国を壊滅に追い込まれました。その事を許すつもりはありません」
「どういう事だ? サンライト王国出身なのに、リベリオン帝国中央部担当者の補佐をしているのか?」
ミネルバは両目を白黒させた。
メリッサは微笑み掛ける。
「詳しい経緯は長くなるので省きますが、私はサンライト王国もリベリオン帝国も守りたいと思っております」
「……理解ができない。敵国を守りたいなど、祖国に対する反逆だろう」
「サンライト王国はもちろん、リベリオン帝国も守るべき人たちがいます。どちらも大切にしたいのです。クレシェンド王国も守られると良いと思います」
「簡単にはいかない」
ミネルバの瞳が揺れる。
「クレシェンド王国はもともと水源が少ない。それでも、リベリオン帝国に攻め込まれるまでは、みんなで協力して暮らしていた。だが、今はそれが許されない」
ミネルバの声は震える。
「私たちは限界だ。なんとしてでも祖国を取り戻さないといけなかった。それなのに、失敗した」
「当然ですわ! 私がいますのに、リベリオン帝国東部地方を奪うなんてできないに決まっておりますわ!」
後ろから甲高い高笑いが聞こえた。
肩越しに見ると、銀髪の縦ロールが特徴的な少女が立っていた。黒を基調にした、白いフリルとレースで装飾されたドレスを身につけている。胸の部分には、大きな黄色いリボンがくっついていた。
「このシルバー・レインを差し置いて話を進めようとするなんて、愚かにもほどがありますわ!」
「まったくその通りでございます。シルバー様に逆らう事は万死に値します」
シルバーの後方に立つ執事が恭しく告げた。中肉中背の、白髪を生やす執事である。
シルバーは得意げに胸を張った。
「クリスの言う通りですわ! 私たちの力を思い知りなさい!」
「……何もしなかったくせに偉そうだな。来るのが遅いし」
ダークは両袖にナイフをしまい、呆れ顔になった。
シルバーは無駄に勢いよくダークを指さす。
「あ、あなたに活躍の場があって良かったですわね。私がいたら、何もできなかったのは、あなたの方ですわ!」
「そーゆー事にしておいてやるか。で? ミネルバはどうするんだ?」
「もちろん処刑ですわ。この私に逆らおうとしましたの。一回死ぬだけですむのなら、軽いですわ!」
シルバーは高笑いをあげる。
メリッサは首を横に振った。
「ミネルバさんの言い分をしっかり聞く必要があると思います」
「あなたに何の権限がありまして?」
「申し遅れましたが、メリッサです。リベリオン帝国中央部担当者の補佐として、様々な事を学んでいる所です」
シルバーは両目を丸くした。
「あら、あなたがメリッサ? お子さんの名前は決まりましたの? 子供の事は早めに決めた方がよろしいかと思いますわ」
「何の話でしょうか?」
「ダークと結婚するのでしょう?」
「え、えええええ!?」
メリッサは耳まで赤くなった。
ダークはシルバーを睨みつける。
「おい、勝手な噂を広めんな」
「事実ではありませんの?」
「とんでもないデタラメだぜ。ミネルバの事より先に話しておくか」
ダークのこめかみは怒張していた。
ミネルバもグランディールも呆然とした。
「……祖国の事を後回しにされるのか」
「俺様も混乱してきたぜ。いい歌の材料になるといいけどな」




