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ミネルバの炎

 白い集団の多くが気を失った。ダークのワールド・スピリットを前になす術がない。

 しかし、ごく一部の人間は違った。

 赤い瞳の女性もそうだ。恐るべき重力に逆らうように両手を掲げ、闘志を燃やして、自らを鼓舞するように口ずさむ。


「私はミネルバ。悪に決して屈しない。エンジェル・フレア、バースト」


 ミネルバはワールド・スピリットを使った。彼女の両手から、巨大な火炎球が放たれた。

 火炎球は明らかにダークがいない方向に向かっている。ダーク以外の闇の眷属を狙っているのだろう。

 ダークは溜め息を吐いた。


「相手を悪だと決めつけると楽だよな。コズミック・ディール、リバース・グラビティ」


 火炎球が向かう先の大地がせり上がり、轟音を立てて天へ飛ばされる。強力な反重力が働いているのだ。火炎球は反重力に巻き込まれて、大幅に勢いがそがれる。

 しかし、火炎球がそのまま消えるとは考えられない。案の定、爆発して炎をまき散らす。

 炎は四散して、逃げ惑う人々に振りかかろうとしていた。メリッサは人々を庇うように炎に向かって両手を広げ、腰を抜かしているグランディールは鼻水や涙を垂らして絶叫していた。

 ダークは爆発を見越して、続けざまにワールド・スピリットを放っていた。


「コズミック・ディール、ゼロ・オキシジェン」


 周囲の酸素を奪うものだ。炎は酸素を失い、急速に消えていく。

 ダークは苦笑した。

「戦闘ができない人間を狙うなんざ、俺と同等以上の外道だぜ」

「黙れ。私はダーク・スカイを狙った。たまたま阻まれたが、今度はそうはいかない」

 ミネルバは重力に沈んだまま人差し指を立てて、微かに横に動かす。

「エンジェル・フレア、アロー」

 ミネルバの指から、数本の炎の矢が飛び出す。

 ダークを狙っている割には大幅に外している。炎の矢はグランディールに向かっていた。

「ひいいぃぃいい! おーたーすーけー!」

「コズミック・ディール、ゼロ・オキシジェン」

 ダークは再び酸素を奪う。炎の矢は空中で勢いを失い、消えた。

 ミネルバは苦々しい表情を浮かべる。


「おのれ……伏兵が強すぎる」

「さっきから俺以外の人間を狙っているが、何のつもりだ?」

「私はダーク・スカイを狙っている。金髪アフロの……男女問わずハーレムにしている性悪だ」


 ミネルバは歯噛みした。凶悪な重力を前に限界が来ていた。意識を保つのも至難の業だ。

 ダークは口の端を引くつかせた。


「てめぇらが狙っているダーク・スカイは、金髪アフロじゃねぇ。性悪は認めるが、断じてハーレムなんて作らねぇよ」

「バカな……!? 本物のダーク・スカイはどこに……?」


 ミネルバは愕然としていた。

 ダークは呆れ顔になる。


「俺だ」

「おのれ……私たちを噂で惑わすなど、卑劣だ」

「俺が流したものじゃねぇよ」

「ああ……祖国奪還の夢が……」


 ミネルバは完全に地面に伏せた。気を失ったのだ。白い集団に意識を保っている人間はいなくなっていた。

 ダークは凶悪な重力を解除して、頭をぽりぽりとかいた。

「どう後始末するかな」

「なぁ、あんた。そのねーちゃんと知り合いなのか?」

 グランディールがミネルバを指さす。

「きっと美人だよな。俺様の彼女にしてくれよ」

「俺に命令する事じゃねぇだろ。知り合いですらねぇし」

「そこをなんとか」

「メリッサ、ちょっと目を閉じて耳を塞いでろ」

 ダークが両袖からナイフを取り出している。ミネルバたちを殺すつもりなのだろう。

 メリッサは首を横に振る。


「ミネルバさんは祖国奪還の夢があるようです。悪い人ではないと思います。お話してみたいです」

「時間の無駄だと思うぜ」

「それでも、やれる事はやってみたいのです」


 メリッサは気を失っているミネルバに歩み寄る。

 ダークは溜め息を吐いた。

「そいつがまた攻撃してきたら、今度こそ仕留めるぜ」

「分かりました」

 メリッサはしゃがんで、ミネルバの呼吸が正常である事を確認していた。

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