守ってほしいもの
メリッサとダークは教会に戻る。
教壇の前でボスコが立っていた。ボスコは胸に片手を当てて、祈りを捧げているようだった。
ダークは教会の扉を施錠した。
この時にメリッサはハッとした。
ボスコは教会を施錠せずに、メリッサとダークの帰りを待っていたのだ。施錠をせずに寝るわけにいかず、ずっと祈りを捧げていたのだろう。
ダークはワールド・スピリットで空間転移ができるが、ダークの負担になると考えたのだろう。
ダークは恭しく礼をする。
「相変わらずお気遣いくださり、深く感謝します」
「構いません。蛍は綺麗でしたか?」
ボスコが微笑むと、ダークは頷いた。
「メリッサが思った以上に喜んでいました。連れて行った甲斐があります」
「本当に綺麗でした。ありがとうございました。あの景色を守る為に苦労なされたと聞いております」
メリッサが深々と礼をすると、ボスコはパタパタと両手を振った。
「そこまで畏まる事はありませんよ。蛍を守ったのは、主にマザーです。偉大な前神官長ですよ」
「そのマザーが、ボスコ様がよく頑張ったとおっしゃっていました。俺からも改めて感謝します」
「スカイ君まで、僕を褒めすぎていますよ」
ボスコが照れ笑いを浮かべると、ダークは口の端を上げた。
「ボスコ様は敬われる事に慣れてください。現在の神官長なのですから」
「そのセリフはそっくりそのまま、お返しします。あなたは立派な神官ですから」
ダークは苦笑する。
「魔王ですけどね」
「魔王なら、なおさら敬われても良いでしょう」
「俺は大量に人を殺しています。ムカつく連中を皆殺しにするつもりです。恨まれるのが当然でしょう」
ダークの切れ長の瞳に、鋭い眼光が宿る。
ボスコは天井に向けて、溜め息を吐く。
「あなたを憎しみに染めて殺戮に追いやった人々を、僕は許す事はできません。悔い改めてほしいものです」
「あいつらにそんな感情はないでしょう。特にカインに気をつけるべきだと思います。目的の為に手段を選ばないうえに、執念深いので」
「リリーさんを人質にした事もありますね」
ボスコはメリッサに微笑み掛ける。
「あなたは捕まらないように気をつけてくださいね」
「は、はい。気をつけます」
唐突に話を振られて、メリッサはどもった。
リリーは、ダークと親しくなれるという甘言に騙されて捕まってしまった。そんな事情をボスコは知らないはずだが、憐れみのこもった視線を浮かべている。
「リリーさんもメリッサさんも、人を疑う事を知らないでしょう。あなたたちの純粋さに癒されます。その感性を守っていただきたいです」
「ボスコ様も憎しみに染まらないようにしてください」
ダークはあくびをした。
「俺はそろそろ寝ます。明日はメリッサを連れて早めに東部地方に行く予定です」
「分かりました。気をつけて行って来てください。メリッサさんも無理せず、お身体を大切にしてください」
メリッサは礼をした。
「お気遣いくださり感謝します」
「今日はゆっくり休みましょう」
ボスコは穏やかな笑みを浮かべていた。
ダークはオルガンの傍の床をどかして、下り階段を降りていた。
ボスコが続き、メリッサが床を元に戻す。
三人はそれぞれの部屋に戻る。
メリッサが部屋に戻ると、リトスは既に寝ていた。メリッサの分のマットと布団は敷かれていた。
メリッサはリトスを起こさないように、感謝を込めて礼をした。
ふと、リトスが寝返りを打つ。
「……メリッサ、お幸せに〜」
寝言を言っていた。
メリッサの笑顔が静かに綻んだ。




