バイオレットの好きなもの
メリッサとダークは、空間転移で教会の前にたどり着いた。
教会の中では、夕飯の準備が整っていた。香ばしい匂いがする。
ボスコたちがメリッサたちに気づいて、一斉に振り向く。みんなホッとしたような表情を浮かべている。
リトスが元気よくメリッサに駆け寄る。
「おかえり! エリックは性格が悪そうだったけど、大丈夫だった!?」
「大丈夫でした。真面目で仲間想いな良い子でした」
メリッサが微笑むと、リトスは胸をなでおろした。
「よかったぁ、ずっと心配だったよ。そういえば、ダークと進展はあった?」
「進展ですか……?」
メリッサは首を傾げた。
両腕を組んでしばらく考え込んで、ああっと頷いた。
「補佐としてまだまだです。これからもっと頑張ります」
「そっちの話だと思うのかぁ……こりゃまだまだ」
リトスは、あちゃぁと言って額に片手を当てた。
ダークは口の端を引くつかせる。
「無駄に首を突っ込むんじゃねぇ」
「だって誰も何もしなかったら進展しないよね。あたしなりに気遣っているんだよ」
「訳の分からない事を言ってないで、夕飯にしようぜ」
ダークはづかづかと教会に入る。
メリッサは不思議そうな顔付きでついていく。
そんなメリッサに、リトスは耳打ちする。
「蛍を見に行く話はどうなりそう?」
「忘れていました!」
メリッサは思いがけずに、声が大きくなった。
ダークが振り返る。
「何か忘れ物か?」
「あ、いえ、その……」
メリッサはしどろもどろになる。
リトスはメリッサをじっと見つめている。ダークにお願いするなら、メリッサ自ら言おうと思っていた。
リトスは、メリッサを信じて待っているのだ。
「その……蛍を見に行きたいと思いまして」
メリッサは、耳まで真っ赤になった。
蛍は綺麗だと聞いている。リトスからもバイオレットからも。
「ダークに連れて行ってほしいと思いまして……ずうずうしいお願いですよね、すみません」
「謝らなくていいぜ。俺も見に行きたいと思っていた所だ」
ダークが遠い目をする。
「ずっと前に、バイオレットも蛍が好きだと言っていたぜ」
「ダークもバイオレットとお話した時があるのですね」
「リベリオン帝国の建国、そして世界との戦争を考えていると伝えた事はあるぜ。いつかみんなに分かってもらえるはずだから、戦争はやめるように言われたけどよ。無理にでもサンライト王国から逃がしていたら、バイオレットもエリックも、運命が変わっていたかもな」
ダークは遠い目をして溜め息を吐く。
バイオレットは奴隷として働かされた挙句に、理不尽に殺された。エリックは彼女の死を悼み、復讐するために人生を捧げていた。
メリッサは両目を潤ませる。
「あなたのせいではありません。気を落とさないでくださいね」
「分かっているぜ。そんな事で落ち込む事はねぇよ」
ダークは口の端を上げる。
「とにかく飯にしようぜ。その後で蛍観賞だ」
「はい!」
メリッサは笑顔をほころばせた。
今日の夕飯は鶏肉のソテーであった。塩とハーブで味付けされた柔らかい肉は、絶品であった。




