幕間~ローズベルの思惑~
サンライト王国の跡地が夕暮れに染まる頃。
闇の眷属の集落は相変わらず暗かった。極寒の地に慣れないと暮らせない。
そんな場所でも植物や動物が育つ。
薔薇園で咲き誇る花々もそうだ。リリーを中心にした管理体制を敷いて、何かしら花が咲いている状態を保っている。
ローズベルにとって、お気に入りの場所だ。
ローズベルは時折花々に触れては、うっとりしていた。
「いつも綺麗ね。さすがリリー」
「お、お褒めに預かり光栄です」
リリーは全身をこわばらせながら答えていた。ローズベルはリベリオン帝国において、皇帝に次ぐ権限を持つ。闇の眷属で逆らう人間はいない。
ローズベルは口元に片手を当てて、上品に笑う。
「そんなに緊張しなくていいのに」
「お、お気遣いくださり感謝いたします」
リリーは固くなっていた。ちゃんと話せているのか、当人は不安になるほどに。
「わわ、私の言葉が聞き苦しかったらすみません」
「謝らなくていいわ。そうそう、ここにダークとメリッサが来たと思うけど、どうだったかしら?」
「ダ、ダーク様とメリッサ様……!」
リリーの顔は耳まで赤くなる。左頬の火傷の跡が、目立たなくなる。顔を両手で覆って、しゃがみこむ。
「す、すみません。ダーク様は相変わらずカッコよくて、メリッサ様はお優しいです。どちらも素晴らしい御方です」
「あら、二人ともそんなに素晴らしかったの?」
ローズベルが微笑み掛けると、リリーは両目を潤ませた。
「ダーク様は、私の過去の大失敗を許してくれました。メリッサ様は、私を優しく励ましてくれました」
「そう、二人とも良くしてくれたのね」
「はい! 本当にありがたくて、生きるのは素晴らしいと感じました……!」
リリーは顔を上げた。ダークとメリッサを、もっと褒め称えるつもりでいた。
しかし、ローズベルの微笑みが妙に怖い。口の端は上げているのに、目が笑っていない。怒っているのか、蔑んでいるのか分からない。
「ダークとメリッサは釣り合うと感じたかしら?」
「えっと……」
リリーは口ごもる。
ローズベルの瞳に鋭い眼光が宿っている。望む回答をしなければ殺されると感じる。しかし、彼女がどんな回答を望んでいるのか分からない。
リリーが考え込んでいると、ローズベルは冷徹に言い放つ。
「早く答えなさい。私が忙しいのは知っているでしょう?」
「は、はい……すみません」
「謝る暇があるのなら、早くしなさい。メリッサはダークにふさわしいの?」
回答を急かされて、リリーは立ち上がり、深々と頷いた。
ローズベルに何を言えばいいのか分からないが、腹をくくる。
「メリッサ様は、ダーク様にふさわしいと思います」
「どうして? ダークの補佐は特別有能な人物が良いと思うのだけど」
リリーは悟った。
ローズベルは、メリッサが何もできないという報告を受けたいのだ。ダークの補佐として不適格だと言わせたいのだ。
ローズベルにとって、メリッサはダークの足を引っ張っているように見えているのかもしれない。
おそらくローズベルの意に沿って報告を出せば、リリーに危害が及ぶ事はないだろう。
しかし、リリーは自分の心に嘘をつきたくなかった。
「メリッサ様はダーク様とは違った能力があると思います」
「そうかしら? グレゴリーに襲われた時に自分で自分の身を守れなかったし、ダークに頼り切りだと思うわ」
ローズベルの視線が重い。圧力を感じる。
しかし、リリーは真剣な眼差しを返す。
「たしかにメリッサ様に戦う力はないと思います。しかし、ダーク様の事をよく理解して、補佐する事はできると思います」
「ダークの事を理解ね……」
ローズベルは悩まし気に小首を傾げた。
「あの人と私は、考え方が違う時があるわね」
「私の答えは以上です。もしも、その……変な事を申し上げていたらすみません」
リリーは俯く。
ローズベルは溜め息を吐いた。
「あなたの答えだけで判断できないけど、メリッサの事はもう少し考えておくわ」
「は、はい」
ローズベルが何を考えるのか、リリーは分からなかったが、深く突っ込まない事にした。
ローズベルは穏やかに微笑み、歩き出す。
「今日はこのへんにするわ。それじゃあまたね」
「は、はい!」
リリーは何度も礼をして、ローズベルを見送った。




