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魔王の独り言

 メリッサは困惑した。

 ダーク・スカイは闇の眷属の中で最も恐れられている人物だ。そんな人物が凍えるメリッサを温めようとしているのだ。噂からは考えられないような行動だ。


 しかし、現にメリッサを助けようとしている。


 ありのままを受け入れて、感謝するべきだろう。

「ありがとうございます。優しいのですね」

 メリッサの両頬は心なしか紅潮していた。

 ダークは舌打ちをする。

「サンライト王国の聖堂に残された記録書を読んだからな。表立って俺に逆らう気のない人間なら、殺す必要はないと考えるようになったぜ」

 サンライト王国の聖堂には、大切な記録書がある。内容は聖女を含めてごく一握りしか知らない。サンライト王国の大きな行事の他に、聖人や聖女に関する重大な事柄が書かれている。

 ダークの考え方に影響を与えたようだ。


「てめぇを温める人間は女が良かっただろうが、今回の軍隊にいなかったからな。我慢しろよ」


 ダークの整った顔立ちが近い。真剣な眼差しで、メリッサを見ている。


 メリッサは頭がクラクラした。心臓の鼓動が早まる。

「あなたは大変ですね。考えるだけで目眩がします」

「何を言ってやがる?」

「おそらく大陸全土の人間のほとんどが、あなたを魔王と呼んで恐れています。表立って逆らう人間はごく一握りでしょう。大陸の大多数の人間に、こんなに優しくするのは大変だと思います」

 ダークは虚をつかれたのか、両目を白黒させた。

 しかしすぐに呆れ顔になる。

「俺の事より、てめぇ自身の心配をしろよ」

「あなたの身体の方が心配です。休めていますか?」

「つべこべ言わずに、これでも飲んでおけ。味が好みじゃないとか言っても知らねぇからな」

 ダークは茶色い球を取り出した。指先に乗るような小さな球だ。

「少しは身体が温まるはずだぜ」

「私のために薬をくださるのですか?」

「いいから飲め。待つのは嫌いだぜ」

 怒気を含んだ声で催促されたため、メリッサは慌てて茶色い球を手に取って飲み込んだ。

 不思議な味わいだ。いくつものハーブが組み合わされているのだろう。ほどなくして身体の芯から温まる。

 メリッサの表情に血の気が戻るのを確認して、ダークは離れていた。立ち上がって、ゆっくりと歩いている。


「これは独り言だけどよ、一本道だったし危険な獣はいねぇから、女一人でも帰れるだろ。姿をくらます事もできるぜ。崖に落ちないようにな」


 ぶっきらぼうな口調だが、気遣っているのだ。

 メリッサの心の内はくすぐったくなる。笑いが込み上げる。立ち上がって走る。雪のせいで少しだけ足を滑らせたが、ダークの隣まで追いつく。

「これは独り言ですが、魔王と呼ばれた神官様に恩返しをしたいです」

「……てめぇらの国の聖女を殺しているのに?」

「その事は許せませんが、あなたの優しさを否定できません」

 メリッサがハッキリと言うが、ダークは首を横に振る。

「感謝なら神官長のボスコ様にしろよ。ハーブ玉を作ったのはそいつだぜ」

「ハーブ玉というのですね。教えてくださりありがとうございます」

 メリッサが軽く礼をする。

 ダークは呆れ顔になっていた。

「逃げるチャンスを棒に振るなんてな。何があっても知らねぇぜ」

「祖国が闇の眷属に屈服した証として、私はここにいます。逃げるわけにはいきません」

 メリッサが決意に満ちた視線を向けると、ダークは溜め息を吐いた。


「てめぇのせいでムカつく連中を気軽に殺せなくなったんだ。責任は取ってもらうぜ」


「分かりました。どのような命令でも承ります」


 ダークは分厚い雲を見上げた。

「てめぇは損をするタイプの典型例だな」

「あなたのために頑張れるなら、ぜひやらせてください」

「何をそんなにやる気になっているのか知らねぇが、余計な事をするなよ」

 メリッサは深々と頷いた。

「できるだけ、あなたの意に沿います。まずは何をすれば良いのでしょうか?」

「集落まで歩け。無理そうならすぐに言え」

 集落とは、闇の眷属の住処の事だろう。

 メリッサは元気よく腕を振りながら歩くのだった。

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