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憔悴した司祭

 メリッサは司祭に駆け寄った。

 司祭は憔悴した表情を浮かべ、ひどく弱々しい。メリッサを見ると、微かに微笑んだ。

「メリッサ……生きていたのか。ダークたちに酷い目に遭わされていなかったか?」

「闇の眷属の集落で大切にされています」

「そうか……それは良かった……神は儂らを見捨てていなかった」


 司祭はその場に両膝をついた。天を見上げて、両手を合わせる。


「ずっと祈っていた。懺悔を繰り返した。そなたを見捨てて逃げた罪は償いようがない……そなたが無事なら思い残す事はない」

「不吉な事をおっしゃらないでください。私は元気に暮らしています。何も悔いる事はありません」

 メリッサは微笑む。

 しかし、司祭は首を横に振る。

「そなたが元気に暮らせるのは、そなたの力だ。儂の罪は消えない……」

「あの時はどうしようもありませんでした」

 メリッサが聖女と名乗ったが、偽りだとバレてダークを怒らせた。

「逃げなければ、殺されていたかもしれません」

「……ありがとう。そなたの優しさには救われる」


 司祭は倒れ込んだ。


 メリッサは慌てて抱き起こす。あまりにも軽い。頰がこけている。飲まず食わずで過ごしたのだろう。

 呼吸はある。眠っているだけのようだ。

「私の事を、こんなにも気に掛けてくださっていたのですね」

 メリッサは両目を潤ませて、司祭を肩に背負う。

「勝手に触れる無礼をお許しください」

 メリッサは呟いて、ゆっくりと足を進める。

 目指すのは司祭館。司祭の住まいだ。

 林を通り抜ければ、すぐにある。


 薄緑色の司祭館を前にして、メリッサは足を止めた。

「私が入っても良いのでしょうか……?」

 司祭館は通常なら修道女が行く場所ではない。緊急の連絡でも、神官を通す決まりだ。

 しかし、眠っている司祭を置いて、この場を離れるのは抵抗がある。

 考え込んだ挙句に、メリッサはしばらく待つ事にした。誰かが通り掛かれば声を掛けるし、司祭が目を覚ませばそれでいいだろう。


 ふと、足音が聞こえだす。


 振り向くと、神官が歩いてきていた。


 散歩なのか見回りなのか分からないが、メリッサは安堵した。司祭を預けてダークのもとに行くつもりだ。

 しかし、神官が血相を変えて走ってくる。

「司祭、いったい何が!? 貴様は何者だ!?」

 司祭が眠っているのを、メリッサが何かしてぐったりしていると勘違いしたのだろう。

 メリッサは慌てて弁明する。


「城下町で倒れたので、連れてきました。申し遅れましたが、私はメリッサです。サンライト王国の修道女です」


「メリッサ!? ああ、メリッサだったのか!」


 神官の表情が明るくなる。

「闇の眷属に(とら)えられたと聞いたが、無事だったのか!」

「はい。おかげさまで元気に暮らしております」

 メリッサの笑顔がほころぶ。

 神官は涙を浮かべていた。


「あなたがダークの穢らわしい性奴隷にされていると聞いていたから、本当に心配で……元気で良かった」


「性奴隷なんてとんでもないです、私は大切にされています!」


 メリッサの口調は思わず強くなった。

 神官は司祭を背負い、何を確信したのかうんうんと頷いた。

「いいんだ。あなたが元気なら、何でもいいんだ。ただ、魔王を倒す機会があればいつでも協力する。あなたを自由にするためなら、何でもする」

 魔王とは、ダーク・スカイの事だ。

 メリッサは苦笑する。


「私なら大丈夫です。ダークは優しい人です」


「魔王が優しく見えるだと!? やはり闇の眷属は邪悪だ」


 ダークの性格が悪いという前提は崩れないようだ。闇の眷属も同様だ。

 メリッサは首を横に振る。

「私が出会った闇の眷属は、優しい人ばかりでした。サンライト王国の修道院にいるような居心地でした」

「そんな……本当か? 信じられない。だが、メリッサが嘘を吐くとは思えない」

 神官は悩みに悩んだ。曖昧に頷く。

「まずは司祭を手当てしよう。メリッサは修道院に行くといい。みんな心配しているから」

「お気遣いくださりありがとうございます。すぐに向かいます」

 メリッサは深々と礼をした。

 神官が司祭を連れて司祭館に入るのを見届けて、修道院まで歩き出す。

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