サンライト王国の跡地
サンライト王国の城下町は悲惨な有り様だ。
瓦礫の山と化し、王城の中身がむき出しになっている。かつて人が住んでいたのだが、その面影はない。
そんな惨状を目の当たりにして、メリッサは震えが止まらなくなった。
「話には聞いていましたが……本当に酷いですね」
「そうだな。俺たちがやった事だ」
ダークは事もなげに答えた。
メリッサはしゃがんで、瓦礫に手を伸ばす。
「ここには普通に暮らす人がいて、普通の生活があって、笑顔も涙もあって……その全てが消え失せたのですね」
「恨むなら俺だけにしろよ。俺が事実上の指揮官だったからな」
瓦礫は冷たく、その場にあるだけだ。土にまみれ、所々に血も付いている。
人々は逃げ回り、抵抗し、その挙句に死んでいったのだ。
メリッサの両目が潤む。
「どうして、こんな戦争を?」
「闇の眷属が生き残るためだぜ。てめぇは知らねぇかもしれないが、戦わなければ、俺たちが殺されていた」
メリッサは嗚咽を漏らす。
「……バイオレットの事ですね」
「それだけじゃねぇよ。闇の眷属は世界中に恨まれていたからな」
ダークは青空を見上げた。
「ルドルフ皇帝が生き返った時に、世界中の人間が犠牲になったからな。俺たちが恨まれるのは仕方ねぇよ」
「そんな事があったのですか!?」
メリッサの両目は丸くなった。
「ルドルフ皇帝は死んでいたのですか!?」
ダークは気まずそうに視線をそらす。
「……国家機密だ」
「教えてください、私はあなたの補佐です。知る権利があるはずです!」
メリッサはダークの両肩を掴む。
「戦争の発端となる出来事を理解すれば、良い解決法を思いつくかもしれません!」
「てめぇにそこまでの重圧を掛けるつもりはねぇよ。ルドルフ皇帝から許可を得ずに、話すわけにはいかねぇしな」
「ブローチで連絡を取る事はできませんか!?」
メリッサは、額に汗を滲ませるダークを、食い入るように見つめていた。
ダークは溜め息を吐いて、襟元の黒い薔薇のブローチに触れる。
「期待はするなよ」
ブローチが淡く光る。連絡がついたようだ。
「ルドルフ皇帝、お時間よろしいでしょうか?」
「おお、ダークか。おまえから連絡してくるなんて珍しいな。どうした?」
「てめぇが生き返った経緯を、メリッサに言ってもいいですか?」
「いいぞ、隠す事でもないしな」
あまりに軽い口調に、メリッサは呆然とした。
ダークは頷いた。
「分かりました。迅速な回答に感謝します」
「メリッサとはうまくやれよ。じゃあな」
ブローチの光は消えた。
ダークは頭をポリポリとかいた。
メリッサは慌ててダークから離れる。
「出過ぎたマネを失礼しました」
「謝る事じゃねぇが……今後俺に触れる時には、声を掛けてもらっていいか? 戦闘時の癖で、急に近づいてくる人間は蹴り飛ばしたくなるんだ。背中に触れてきたら、ナイフで切り刻む危険があるぜ」
ダークは片手で胸を押さえて、意識的に深呼吸を繰り返している。驚きを和らげようとしているのだろう。
メリッサは両耳まで赤くなった。
「すみません、本当にすみませんでした!」
何度も頭を下げる。
ダークは片手をパタパタと振る。
「気にすんな、もう大丈夫だ。さて、ルドルフ皇帝の事だったな。端的に言えば、雪崩に巻き込まれた子供を助けようとして死んだんだ。ルドルフ皇帝のご両親のワールド・スピリットで生き返ったが、暴走したんだろうな。世界中の人間の命が奪われる結果となったぜ」
ダークは遠い目になっていた。
「その後、闇の眷属はどんな謝罪をしても、受けいれられなかった。殺されるか迫害されるか、そんな選択しかなかったな。闇の眷属が扱うすべての資源と知識を要求されて、それは無理だとルドルフ皇帝が地面に頭をつけて泣きながら謝ったら、何本もの矢が飛んできたな」
「そんな……謝っている人間に矢を飛ばすなんて……」
メリッサは両手で口を覆った。吐き気をこらえるのに必死だった。
ダークは苦笑した。
「一度足元を見られたら、とことん見られるってもんだ。俺がルドルフ皇帝を無理やり引っ張っていかなかったら、ルドルフ皇帝はたぶんまた死んでいたな」
ダークは低い声で呟く。
「ルドルフ皇帝を助けようとして、俺の仲間は何人も死んだぜ」
「酷いですね……」
「本当に酷かったのは、その後だったぜ。語るつもりはねぇけどよ」
ダークの瞳が揺れる。
メリッサは深々と礼をした。
「辛い事を話してくださり、ありがとうございました。闇の眷属も世界も、争わない方法を模索してみます」
「途方もない話だな。無理するなよ」
「お気遣いくださり感謝します。私は、もう少しこの周辺を見回りたいです」
「いいぜ。好きにしろよ。俺は王城を眺めてるぜ」
メリッサは歩き出す。辛い現実を心に刻むためだ。
ほどなくして、人影が見えた。腰は曲がり、頼りない足取りだ。よく見れば、年老いた司祭であった。
メリッサに、偽りの聖女となるように告げた司祭であった。




