バイオレットを想って
メリッサは、ダークたちに駆け寄る。
「お二人ともお怪我はありませんか!?」
必死な表情で、ダークとエリックを交互に見る。
ダークは苦笑した。
「二人とも怪我はねぇよ」
「それなら良かったです」
メリッサは胸をなでおろした。
エリックは不思議そうにメリッサを見つめた。
「いいのか? 辺りは悲惨な事になっているのに」
エリックの言う通り、辺りは悲惨だった。
大地はいくらかえぐられ、森の一部はなぎ倒されていた。強力なワールド・スピリットがぶつかった結果だ。
普通の人間なら恐れおののくだろう。
しかし、メリッサは微笑んでいた。
「人が生きていれば、きっと大丈夫です」
「……あんた、時々わけがわからないと言われるだろ」
エリックの指摘に、メリッサはうぐっと喉を詰まらせた。
「確かに、サンライト王国の修道院にいた頃から言われています」
「森の一部が崩壊してようと、人が生きていれば育てる事ができる。いつか復活するって考えだろ」
ダークがフォローすると、メリッサは何度も頷いた。
「私が言いたかった事を、ダークが言ってくれました……あ!」
メリッサは両手で口を覆った。
「エリック様と話してはいけないという決まりでしたね」
「それはもういい。あんたがどんな人間か見誤った俺に落ち度がある。あと、俺の事はエリックと呼んで欲しい」
エリックは頭を下げた。
「あんたに罪は無かった。できればバイオレットの事を教えてほしい」
「顔を上げてください。話して良くなったのなら、語り合いましょう」
メリッサの笑顔は輝いていた。
「バイオレットは元気で明るくて、いつも私を励ましてくれました。お互いの苦労を分かち合えたし、知り合えて本当に良かったです」
「バイオレットもあんたに感謝していると思う。あの歌は、あんたが教えたものだろう?」
エリックは頭を上げた。紫色の瞳は揺れていた。
メリッサは首を傾げた。
「歌とは……もしかして、先ほど私が歌ったものでしょうか? 確かに教えました。バイオレットの物覚えが早くてびっくりしました」
「バイオレットは何度も俺に聞かせてくれた。お気に入りだったようだ」
エリックは懐かしむように、青空を見上げた。
「しっかり仕事をしても怒鳴られ、余計な手順を踏むと蹴飛ばされ、何をやっても傷つけられた。そんな時に前向きになれると嬉しがっていた」
「理不尽ですね。サンライト王国出身の人間として、心から謝罪します」
メリッサは深々と頭を下げた。
エリックは首を横に振った。
「顔を上げてほしい。サンライト王国が謝ってほしかったが、あんたじゃなくていい。サンライト王国は俺たちが壊滅させた。それでいい」
「……あなたの傷は癒えないままではありませんか?」
メリッサが恐る恐る顔を上げる。
エリックは胸に片手を当てた。
「俺の傷は癒えないし、俺の中でバイオレットが死ぬ事はない。あんたのおかげで少し余裕ができた。名前を共有しようと言っていたバイオレットの笑顔を思い出せるくらいに」
「私は何もしていませんが……」
「バイオレットの事を共有できた。それだけで救われる」
エリックは微かに微笑む。
「リベリオン帝国の生産性も考えようと思う」
「それは助かるぜ。南部地方は資源が豊富だからな」
ダークが口の端を上げる。
「森の復活も頼むぜ」
「分かっている。まずは労働者たちを適切に扱う事だな」
エリックは、呆けた表情の部下たちに視線を移す。
「たまには休憩を取らせる。飲食も許してやれ」
「エリック様がそういうなら……」
部下たちは大声を発する。
「エリック様から寛大なお言葉だ、しばらく休め! 飲み食いも許可する!」
「逃げたら皆殺しだ!」
奴隷にされていた人々は、疲労をためた表情で座り込んだ。地面に寝そべる人間もいた。
メリッサは複雑な気分だった。
「休めない状況は改善されましたが、脅迫しなくても良いと思います」
「ここには、ここの事情があるんだ。俺たちが口出しする事じゃねぇよ」
ダークにたしなめられて、メリッサは曖昧に頷いた。
「私は結局、何もできませんね」
「そんな事ねぇよ。リベリオン帝国の生産性は格段に上がると思うぜ。ところで、サンライト王国を見に行くか? エリックから許可は取ってあるぜ」
メリッサは遠い南の空を見た。その方向に、サンライト王国がある。
「行きたいです。距離があるので、時間が掛かると思いますが」
「距離なら問題ねぇよ、空間転移を使うから。コズミック・ディール、テレポート」
ダークとメリッサが、その場から消えた。
人々はひそかに感謝して、両手を合わせていた。
「生きる希望が湧いた。本当にありがとう」




