リベリオン帝国南部地方担当者の生き方
エリックの表情が変わっている。救いを求める迷い人のように、瞳を潤ませていた。
「あんたはなんで、俺の大切な人が殺されたと分かった?」
「不幸な事件で人質にされたリリーを、あなたが救い出したという話を聞いていましたので。そして、あなたのお話を聞いていると、サンライト王国を恨んでいるのが分かります」
メリッサは一呼吸置く。
「あなたが憎しみを抱くのはきっと、仲間に対する愛情の裏返しだと思いました。闇の眷属はサンライト王国軍の奴隷にされていたと聞いています。何人か謎の死を遂げています。仲間を殺されて辛かったでしょう」
ここまで話して、メリッサは自分の口元を両手でふさぐ。
「私はエリック様と話してはいけませんでしたね。これは独り言だという事にしてもよろしいでしょうか?」
「俺から話しかけるのはいい」
エリックの口調はわずかに震えていた。
「闇の眷属が奴隷にされていたと語ったのは誰だ?」
「バイオレットです。私は何度も元気をもらいましたが……亡くなられました。どうして死んでしまったのか聞いていません」
「バイオレット……」
エリックは唇を噛んだ。
両手を握りしめ、全身を震わせている。空を見上げて溜め息を吐いた。
「あいつが今の俺を見たら、怒るだろうな。ローズ・マリオネットをやめるつもりはないが」
ひどく悲しそうであった。
メリッサは微笑み掛ける。
「今からでも、あなたの優しさや愛情と向き合いませんか?」
「俺に優しさや愛なんてない。そんなものあっても仕方ない」
エリックはメリッサに視線を向ける。紫色の瞳は鋭い眼光を宿す。
「守りたいものを守れない力なんていらない」
「本当に大切な人だったのですね」
メリッサは深々と頷いた。
エリックは俯いた。
「片思いだっただろうが……俺にとってかけがえのない人だった」
「バイオレットは素晴らしい人でした。いつか世界中の困っている子供たちを救いたいと言っていました。死んでしまって、本当に残念です」
「バイオレットは俺をかばって殺された。何度も刃に貫かれて」
エリックの口調は淡々としていた。冷徹に獲物を狙う目つきになっている。
「俺は小さかった頃に、何枚もの重い皿を一度に運べなくて叩かれた。軍人に蹴飛ばされた事は何度もあった。バイオレットがいなかったら、俺は殺されていただろう」
エリックは吐き捨てるように言っていた。
「バイオレットが俺をかばい、軍人の部屋に連れ込まれて、めちゃくちゃにされて……俺が軍人を殴ってバイオレットを連れ出そうとしたら、囲まれた。バイオレットは最期まで俺に覆いかぶさっていた。俺を軍人の刃から守るために」
エリックは一歩、メリッサに向けて足を踏み出す。
ダークはエリックの様子を窺いながら、黙っていた。
メリッサは両目を潤ませた。
「辛かったですね……」
「辛い……そうだな。バイオレットは痛くて辛かっただろう。それなのに、絶命するまでずっと俺に、大丈夫だというように笑顔を向けていた」
エリックの表情は、精巧な人形のように感情が窺えない。
メリッサは心底恐ろしさを感じていた。本能は逃げろと告げている。
しかし、微笑む。目の前の少年を放っておけない。
「あなたはよく助かりましたね」
「ローズベル様に救い出された。そして誓った。あの方には一生を捧げる」
エリックは両袖からナイフを取り出した。
「ローズベル様は俺らしく生きる方法を教えてくれた。バイオレットを殺された痛みに理解を示してくれた。サンライト王国に復讐する権利と義務が俺にある」
ナイフが鈍く光る。
「俺はリベリオン帝国南部地方担当者、ローズ・マリオネットの一員。敵に恐れられ、従わせるのが責務だ。従わない人間は殺す」
エリックが地を蹴る。ナイフを構えて、一気にメリッサと距離を詰める。
メリッサは動けなかった。事態を理解できなかった。
そんな時に、鋭い金属音が響いた。
エリックのナイフを、ダークのナイフが受け止めていた。
「メリッサは敵じゃねぇ。俺の補佐だと言っただろ」
「南部地方の支配に口出しをしてきた。排除するべき対象だ」
「語るだけ語っておいて、そりゃないぜ」
「殺すつもりだから語った。邪魔をするなら、あんたでも容赦しない」
エリックは後方に跳び、距離を取った。
「俺のワールド・スピリットで切り刻んでやる。インビンシブル・スチール、クルーエルティ・フォレスト」




