幕間~リベリオン帝国の南部地方~
リベリオン帝国の南部地方は、気候が比較的穏やかだ。朝は強い光に照らされ、昼は青空が広がり、夜は心地よい風が吹く。
穏やかな気候のおかげで、様々な作物が比較的収穫しやすい。豊かな資源に恵まれている。
しかし、作物の豊富さと生活の良し悪しは別物だ。
南部地方には広大な森がある。食料や木材や薬草など、植物由来の資源を幅広く得られる。
そこで、数多くの人間が絶望的な生活を強いられていた。彼らは昼夜問わず、晴雨構わず働かされている。資源の採取や掘削作業をやらされている。
彼らは奴隷にされていた。その多くがサンライト王国の住民だった。逆らったり逃げようとすれば鞭を打たれる。これまで何人も殺されてきた。
悲惨な生活を送っている。
見張りは数人いる。いずれも屈強な男性たちだ。
人数だけなら、奴隷たちの方が圧倒している。軍人気質のサンライト王国の住民たちは、最初は数で押せば勝てると思っていた。
その希望は、一人の少年を前にして、打ち砕かれた。
くせっけのある銀髪を生やす少年で、紫色の瞳は常に獲物を狙っている。名前はエリック・バイオレットという。黒い長そでと長ズボンを身に着けている。
リベリオン帝国の南部地方担当者だ。鋼鉄を操るワールド・スピリットで、何人もの戦士や英雄を切り刻んできた。物静かな印象を与える整った顔立ちとは裏腹に、悪魔と称されて恐れられている。
奴隷にされた人々は、絶望を吐露する。
「今日は誰が死ぬのかな……」
「畜生……サンライト王家が下手に闇の眷属に逆らわなければ良かったんだ」
サンライト王国は悲惨な有り様だ。王城は中身がむき出しになり、城下町は瓦礫の山と化した。指導的立場の人間のほとんどが命を落とし、王家は全滅した。
容赦のない侵略が行われたのだ。ダークとエリックがその中心人物だった。
王家を中心に闇の眷属を倒すワールド・スピリットを、聖女たちがサンライト王国を守護するワールド・スピリットを使ったが、いずれも破られてしまった。
数多くの人間が敵討ちを考えた。一矢を報いたいと考えた。しかし、ダークとエリックの圧倒的なワールド・スピリットを前に、散っていった。
残されたのは、戦う力も意思も奪われた住民たちだ。
エリックの紫色の瞳は、冷徹な光を放っていた。
「余計な発言はいらない」
淡々とした口調だった。いつでもためらいなく、狩りを開始できるだろう。
屈強な男たちが鞭を振るう。
「おまえらはキリキリ働け! エリック様の命令で働けるのを感謝しろ!」
振るわれた鞭は、いくらか地面を削る。鞭打たれた人間はひとたまりもないだろう。
人々は恐れおののきながら、身体を動かす。絶望と疲労は溜まる一方だ。
エリックは当然のように眺めていた。
そんな時に、空間の歪みが生まれる。
エリックが溜め息を吐いた。ダークが空間転移をしてくる前兆だ。
案の定、黒い神官服を身にまとうダークが出現した。その隣には、茶髪を腰まで伸ばし、修道服を着る女性が立っていた。
エリックが酷薄な笑みを浮かべる。
「あんたがメリッサか」
メリッサは緊張した面持ちで恭しく礼をした。
「初めまして。ダークのお手伝いさんとして、様々な事を学んでいきたいです」
「ここで学べる事なんて無いと思うけどな」
「ご安心ください。私が勝手にやりたいだけです」
メリッサは微笑んだ。
皮肉を言ったつもりのエリックは、唖然としていた。




