エリックの冷笑
ダークはめんどくさそうに溜め息を吐いた。
「真っ先に行きたいのはどこだ?」
「サンライト王国です」
メリッサは迷いなく答えた。サンライト王国は彼女の故郷だ。
ダークは頷いた。
「そう言うと思ったぜ。南部地方になるな。担当者はエリック・バイオレットだ。真面目で仲間想いだが、てめぇと反りが合うか分からないぜ」
「そうなの? 真面目な人ならメリッサを好きになると思うよ」
リトスが口を挟んだ。
「恋のライバルが増えそうで心配なのかな?」
ダークは呆れ顔になった。
「恋のライバルなんてどうでもいい。メリッサはサンライト王国を大切に想っているが、エリックは真逆だぜ。憎しみを抱いて積極的に迫害している」
迫害。
この言葉を聞いた時に、メリッサの顔面から血の気が引いた。
「どうしてですか……?」
「詳しい事は聞いてねぇが、あいつがサンライト王国を憎んでいるのは確かだ。仲間想いのあいつの事だから、大事な人が殺されたんだと思うけどよ」
ダークは投げやりな口調で言っていた。
「憶測でいろいろ言うのは難だからな。かと言って、無理やり聞き出すのも野暮だ。あまり深い会話をしない方がいいと思うぜ」
「……分かりました」
メリッサは頭の中が真っ白なまま頷いた。
リトスはメリッサを肘で軽く小突く。
「元気出してよ。誰とでも仲良くなれるわけがないんだから」
「そうなのですが……南部地方の担当者がサンライト王国の皆様を迫害している事は、ショックです。他に担当者になれる人がいなかったという事でしょうか?」
メリッサが絞り出すように尋ねると、ダークは頷いた。
「南部地方を知る闇の眷属は少ないからな。エリックはリベリオン帝国が勢力を広めるのに最適だ。ルドルフ皇帝やローズベル様も、エリックが適任だと判断したぜ。改めて聞くが、本当に南部地方に行くか?」
「はい、今のサンライト王国の皆様がどんな暮らしをしているのか確かめたいです」
メリッサの視線は真っ直ぐだ。真剣な表情を浮かべている。本気なのである。
ダーク襟元の黒い薔薇のブローチに触れる。
「エリックにいつ会うか相談するぜ」
ブローチが淡く光る。
同時に、淡々とした少年の声が聞こえ始める。この場にいない人間の声だ。
「誰だ?」
「俺だ。突然だがローズベル様からメリッサを地方担当者に合わせるように言われた。まずはてめぇの所に行くつもりだが、いいか?」
「構わない。今は落ち着いている」
エリックの淡々とした声と、悲鳴が重なる。エリックの傍で、誰かが悲痛な叫びをあげているのだろう。
メリッサは恐る恐る尋ねる。
「あの……悲鳴が聞こえるのですが……?」
「これくらい普通だ。闇の眷属が怪我をしているわけじゃない」
「サンライト王国の人は大丈夫でしょうか?」
沈黙が流れる。
メリッサは大粒の唾を飲み込んだ。おかしな質問はしていないはずだが、妙な時間が流れている。
やがてブローチから溜め息が聞こえる。
「まるでサンライト王国の人間を心配するような口ぶりだな。あんたがメリッサか?」
「はい、メリッサです。名乗り遅れてすみません」
「リベリオン帝国南部地方担当者のエリック・バイオレット。ローズ・マリオネットの一員だ。あんたの噂は耳にしている。偽りの聖女だな」
メリッサの胸にチクりと来る。
「騙そうとした事は申し訳なく思います」
「気にしていない。ダークを相手によくやると思っただけだ。俺はあんたに良い想いをさせる気はない。それでも南部地方に来るのか?」
「サンライト王国の皆様の様子を見たいのです。私の気分を良くしようという配慮は無くても大丈夫です」
エリックの冷笑が響く。
「分かった。あんたがどんな気持ちになっても俺は関与しない。覚悟しておけ」
「……サンライト王国の皆様は、そんなに酷い目に遭っているのですか?」
「気になるなら、確かめに来るといい」
ブローチの光が消えた。それっきり、エリックの声は聞こえなくなった。
ダークは舌打ちをした。
「あいつ、勝手に連絡を切りやがったぜ」
「ねぇメリッサ、本当に行くの? エリックって性格悪そうだよ」
リトスが心配そうに尋ねた。
メリッサは両肩を震わせたが、頷いた。
「エリック様にはきっと事情があるはずですし、私はサンライト王国の様子をこの目で確かめたいです。ダーク、南部地方に行くために力を貸していただけますか?」
「いいぜ。もともとそのつもりだった。墓地掃除を済ませたら出発しようぜ」
「ありがとうございます」
メリッサは深々と礼をして、掃除を再開した。心なしか手つきがより素早くなっている。
墓地の周囲には、冷たい風が吹いていた。




