教会を守るために
メリッサとダークが教会に入ると、どことなく暗い雰囲気になっていた。修道士や修道女が神妙な顔つきで立っている。ボスコも申し訳なさそうな表情をしている。
ダークは両目を白黒させた。
「随分と辛気くせぇな。どうした?」
「お祈りの時間の事ですよ。みんなで話し合ったのですが、本当にご迷惑をお掛けしましたね」
ボスコは力なく微笑んでいた。
「あの時は軽く考えてみましたが、思い返すほどに酷い事をしたと思います」
「気にしないでください。次に集まった人々が気持ちよく帰れるようにしましょう」
「その事で話し合った事があります。教会を常に警護する自警団を作ろうかという話が出ています」
唐突な話が出て、ダークは両目を見開いた。
「自警団なんて必要か? 留守番で充分でしょう」
「メリッサさんが襲われました。留守番だけで対応できるとは思えません」
ボスコは、グレゴリーがメリッサを襲った事件を気にしているようだ。
ダークは頭をかいていた。
「警戒するに越したことはありませんが、自警団に任せきりにできるものでもないでしょう。襲撃者との戦闘なんて、修道士や修道女がいきなり覚えられるものではありません」
「では、襲撃者やルールを違反する方がいた時に、ぜんぶスカイ君に任せるのですか? リベリオン帝国中央部担当者のローズ・マリオネットとして任務があるのに、一人でやりきれるのですか?」
珍しく、ボスコの表情が険しい。
ダークは気まずそうに視線をそらす。
「てめぇらが戦わずにすむように計らうのも、俺の責務なんですけどね」
「何もかも一人で背負い込まないでください。このままでは、あなたばかりが傷ついてしまいます」
「俺の傷なんて大した事ありませんよ。数日あれば治ります」
ダークは片手を振って軽く言うが、ボスコの顔に笑みはない。
「とにかく今の体制はスカイ君の負担が大きすぎます。僕たちがどこまでできるのか分かりませんが、護身術以上の戦い方を覚えるべきでしょう」
ボスコの語調が強い。
ダークは目線を泳がせていた。ボスコたちの戦闘訓練を止めたいのだが、反論が思いつかないのだろう。
メリッサは恐る恐る口を開く。
「あの……私からよろしいでしょうか?」
「いいですよ、今のうちに意見を交わしましょう」
ボスコが穏やかに促す。
メリッサはしどろもどろになりながら、言葉を紡ぐ。
「教会を守る時にダークの負担を減らしたいという、ボスコ様のお気持ちはよく分かりますが……私は自警団を作る必要はないと思います」
「どうしてでしょうか?」
ボスコの口調が厳しくなる。明らかに余裕を失っている。
メリッサは気圧されそうになりながら、ボスコをまっすぐに見つめる。
「自警団は治安を維持するための部隊が、治安維持の増強の為に作るべきだと思います。聖職者の業務ではないと思いますし、自警団が務まるように訓練できる人手はあるのでしょうか?」
「……てめぇらを鍛えるのは、たぶん俺の業務になるだろうな。軍部が引き受けるとは思えねぇぜ」
ダークが口添えすると、ボスコはあっと言って口元を押さえた。軍部にとって教会の優先順位が高いとは考えづらい。
メリッサは頷く。
「ダークの負担はかえって増えます。負担が増えるのに、教会を守る目的につながるのか不透明です。訓練をしている時間があるのなら、聖職者として業務をこなし、教会を見守ろうという大衆の意識を育てる方が有効だと思います」
「いざって時は逃げてもいいぜ。今の所は教会が一番安全だと思うが、これからどうなるか分からねぇ。そんな時に中途半端に戦われるよりは逃げてくれた方が安心できるんだ」
メリッサとダークの言葉を聞いて、ボスコは沈黙する。瞳が揺れている。
やがて長い溜め息を吐いた。
「……お二人がそこまでおっしゃるのなら、分かりました。中途半端はよくありませんね」
「てめぇらが今更軍人になる必要もありませんからね。俺は今のままが一番です」
ダークの眼差しは真剣だ。
ボスコは穏やかに微笑む。
「神官長を全うします」
「よろしく頼みます。さて、腹が減ったし飯の支度にしましょう」
ダークが提案すると、それまで黙っていたリトスが大笑いをした。
「食い意地は一人前だね!」
「悪い事じゃねぇだろ。天の恵み地の恵み、そして人の恵みをありがたく享受しようぜ」
ボスコは頷いた。
「そうですね、夕飯にしましょう」
修道士や修道女が動き出す。みんなどこかホッとしたような表情だ。
メリッサも胸をなでおろした。




