薔薇の意味
リリーは歩きながらハキハキと語りだす。
「ここの薔薇は私たちが敬愛すべきルドルフ皇帝とローズベル様、そしてローズ・マリオネットを象徴しています」
「ローズ・マリオネットはローズベル様直属の方々でしたよね」
メリッサが確認すると、リリーは両目を輝かせた。
「そうです! 本当にすごい人たちです! ローズ・マリオネットのおかげで大勢の闇の眷属が救われました!」
「買いかぶりすぎだぜ。俺なんて大して働いてねぇよ」
ダークが口を挟むと、リリーはぶんぶんと首を横に振った。
「ローズ・マリオネットの中でも中央部担当者の働きは神です! 魔王と呼ばれていますが神です!」
「神に怒られるぜ」
ダークは呆れ顔になっていた。
リリーは黒い薔薇を見てうっとりしていた。
「ダーク様の為に怒られるなら何でもいいです」
「訳の分からない事を言ってないで、薔薇の紹介をしてくれねぇか?」
「は、はい、そうでしたね。薔薇園の中央部は赤と黒でそろえられています。それぞれ品種が異なります。鮮やかな赤色のクイーン・ローズ、深い黒色のイービル・キング、そして暗赤色のエンペラーとなります。それぞれローズベル様、ダーク様、ルドルフ皇帝を象徴するものです」
リリーが早口で語ると、ダークは苦笑した。
「どれもいつか枯れるけどな」
「花は枯れますが、また咲きます。気を落とさないでください」
「気を落としちゃいねぇよ。他の品種もあるよな?」
ダークが薔薇の解説を促すと、リリーは元気よく両手を上げた。
「そうです! 紫色のデビル・パープル、黄色のポイズン・プリンセス、青色と白色を混合したデス・ゴッド、どれも美しく咲き誇っています!」
「どれも不吉な名前がついているよな。ローズ・マリオネットを象徴しているから仕方ねぇが」
ダークは口の端を上げた。
「説明してもらえて助かったぜ。メリッサも理解できたか?」
「はい……どれも綺麗ですね。花もお世話する人も頑張ったのですね」
メリッサが呆けていると、リリーの顔面が真っ赤になった。
「わ、私の事まで褒めてくださるのですか?」
「本当にすごいです」
「そ、そんな……ダーク様の側近に褒められるなんて、もう死んでもいいです!」
リリーは突然にメリッサに詰め寄った。
「夢じゃないですよね、私の頬をつねってもらえますか!?」
「大丈夫ですよ、現実ですよ」
「ああ! なんと優しく現実を諭してくださるのでしょう!」
リリーは片手を胸に当てて、天を仰ぐ。
メリッサはリリーのペースについていけず、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
ダークも苦笑していた。
「ついでだ。ローズ・マリオネットの面子を教えておくか。俺を含めて五人いるぜ。南部地方のエリック・バイオレット、東部地方のシルバー・レイン、北西部地方のグレイ・ウィンドとナイト・ブルー、中央部の俺だ。それぞれの地域の守護を担当しているぜ」
「五人でリベリオン帝国を守っているのですか!?」
メリッサは驚嘆した。
メリッサの祖国であるサンライト王国は南部地方に位置するが、広大である。一日掛けても回りきれるものではない。他の地方も同様だろう。
ダークは続ける。
「みんな移動に便利なワールド・スピリットを使えるからな。軍隊の手に負えない敵が出たら、すぐに駆けつけるようにしているぜ」
「いつ呼ばれるのか分からないのですね……私なら耐えられません」
軍隊の手に負えないとなると、かなり強い敵だろう。ダークを含めるローズ・マリオネットたちは、そんな強敵と戦わされるのだ。
その労力は、メリッサには想像もできない。
ダークは黒い薔薇にそっと触れて、笑っていた。
「敵を恐れさせ、従わせるのが俺たちローズ・マリオネットの責務だからな。やりがいはあるし、日頃好き勝手できるから俺に不満はないぜ」
「無理はしないでください、たまにはゆっくりしてください」
メリッサが真剣な眼差しで訴えると、ダークは急に真顔になった。
「同じ言葉をそっくりそのまま返すぜ」
「あの、あの、お二人とも喧嘩はやめてください。せっかくの仲良しが台無しになるなんて嫌です」
リリーがあたふたしていた。
メリッサは微笑む。
「大丈夫ですよ、ダークの心は広いので」
「俺の心は広くねぇよ。ん?」
ダークは薔薇から手を放し、襟元に触れる。そこには小刻みに振動する黒い薔薇のブローチがあった。
ダークがブローチに触れた途端に、少女のキンキン声が響き渡る。
「ねぇダーク・スカイ、お時間はよろしくて?」
「シルバーか。どうした?」
シルバーとは、リベリオン帝国東部地方担当者だろう。ブローチを通じて会話をしているようだ。
メリッサは驚愕した。地方担当者はダークと同世代だと思っていた。しかし、声の主は明らかに若い。
シルバーは話を続ける。
「お屋敷まで襲撃されそうですの。エリックも交戦中ですぐには来れません。力を貸してくださらない?」
「いいぜ。報酬は高くつくぜ」
ダークは残忍な笑みを浮かべた。
シルバーの高笑いが聞こえる。
「よろしくてよ! 魔王にふさわしい贄を用意しておきますわ」
「とびきり美味いもんを食わせろよ」
魔王の贄とは、高級な食糧を指すようだ。
メリッサは複雑な表情になる。
「また戦うのですか?」
「当たり前だ、そのためのローズ・マリオネットだからな。落ち着いたらてめぇも地方に連れていくから、そのつもりでいろ。リリーはメリッサと一緒にいてくれ。コズミック・ディール、テレポート」
ダークは一瞬にして姿を消した。空間転移が行われたようだ。
メリッサは溜め息を吐いた。
「また殺戮をしてしまうのですね……」
「ああ、ダーク様から直々にご命令が、ああ死んでしまいそうです」
リリーはメリッサと違う感情で溜め息を吐いていた。
メリッサは曖昧に笑うしかなかった。




