薔薇の世話人
王城を出て北西の方角にしばらく歩くと、大量のつるに巻かれたアーチが見えてきた。つるには、ピンク色やオレンジ色の小さな薔薇が大量に咲いている。
美しく、可愛らしいお出迎えだ。
メリッサは歓声をあげた。
「すごいです、薔薇のアーチができていますね!」
「中はもっとすごいぜ」
ダークはさっさとアーチをくぐる。
メリッサも続くと、そこには夢のような光景が広がっていた。
色とりどりの薔薇が所狭しと咲き誇っている。大輪の薔薇から小ぶりで可愛らしい薔薇まで、形や大きさも豊富に取り揃えてある。
南に紫色、東の黄色、北と西に青色と白色が混ざり合った薔薇、そして真ん中付近に黒色と赤色の薔薇がそろえられている。
かぐわしい香りが漂う。酔いしれてしまいそうだ。
メリッサには、薔薇の楽園に思えた。
「綺麗です……きっと丁寧に育てられているのですね」
「そうだな。ここはローズベル様のお気に入りで、易々と入れる場所じゃないぜ」
ダークは薔薇の剪定をしている作業着の女性に視線を移す。
「リリー、ちょっといいか?」
「は、はいいいぃいい!?」
リリーと呼ばれた小柄な女性は大げさな悲鳴をあげて、ダークに向き直る。
短い白髪の女性で、左頬に火傷の跡がある。
カチコチに固まって、口元をパクパクさせている。かなり緊張しているようだ。
メリッサは緊張をほぐすために、微笑み掛ける。
「初めまして、メリッサと申します。ダークのお手伝いさんとして学んでいる所です」
「ダ、ダダダーク様の!? ひいいぃいいい生きててすみません!」
リリーはペコペコと何度も礼をしている。
メリッサは首を横に振る。
「怯えているようですが、大丈夫ですよ」
「本当にすみませんでした、悪気は無かったのです!」
リリーは涙目になっていた。
ダークは苦笑した。
「気にすんな、いつまで引きずるんだ?」
「だってだって、よりにもよって黒い薔薇のブローチを渡してしまうなんてぇぇえええ!」
リリーは両手で顔を覆ってしゃがみこむ。
ダークの襟元には黒い薔薇のブローチが付けられている。
メリッサは不思議そうに首を傾げる。
「何か問題があったのですか?」
「ローズベル様直属の部下であるローズ・マリオネットの証として、リリーの作った薔薇のブローチが支給されたんだ。緊急の連絡時に重宝しているが、俺に渡された黒い薔薇の花言葉は憎しみだぜ」
ダークの両目は穏やかだ。
「人生で一番笑ったぜ」
「本当に本当にすみませんでした! 今すぐにでも黒いブローチを壊したいです!」
リリーは立ち上がって、再び何度も礼をしていた。
ダークは腹を抱えて笑っていた。
「壊す必要なんてねぇよ。よくできているしな」
「お詫びに何でもします、いっそ首を切り落としてください!」
「詫びなんていらねぇよ。俺は気に入ってんだ」
「本当に、本当にすみません……」
リリーは涙をボロボロこぼしていた。
ダークはリリーの頭を撫でた。
「泣く事じゃねぇだろ。気を取り直して、メリッサに薔薇園を案内してくれないか?」
「ダーク様の為なら、なんなりと!」
リリーは両目をごしごし拭いた。
メリッサは複雑な気持ちになった。
「あの……どうぞお二人で会話を続けてください」
「大した用事はねぇよ。リリーが泣き止めばな」
ダークはリリーの頭から手を放した。
リリーは俯く。ダークは気づいていないが、残念そうな表情を浮かべている。
メリッサはダークとリリーを交互に見て、恐る恐る尋ねる。
「本当に私がいて大丈夫でしょうか?」
「はい、メリッサ様。がっかりはさせません」
リリーは顔を上げた。決意に満ちた表情になっている。
メリッサは胸をなでおろした。
「ありがとうございます。あと、私の事はメリッサと呼んでください」
「いえ、リベリオン帝国中央部担当者の側近を呼び捨てになどできません。私に呼ばれるのは不愉快かもしれませんが、我慢していただきたいです」
リリーはキッパリと言っていた。
メリッサは苦笑した。
「不愉快なんて思いませんし、私はただのお手伝いさんですよ」
「なんて謙虚な御方! さすがはダーク様に見初められた修道女様です!」
リリーは歓声をあげて、ずんずんと歩き出す。
「気合いを入れてご案内します。楽しんでください」
メリッサは微笑んでリリーについていく。
ダークはぼそりと呟く。
「俺が見初めたってどういう事だ? 下手に尋ねるとめんどくさい事になりそうだが」




