直視できない
メリッサとダーク、そしてローズベルが王城から出る方向に歩く。
ローズベルは何故かご機嫌だ。
「無難な方針になって良かったわ」
「まだ分かりませんよ。ルドルフ皇帝の気まぐれは恐ろしいですからね」
ダークの表情が苦々しい。
「最も戦果を挙げたグレナイでなく、俺をリベリオン帝国の中央部担当者に任命するなんて、正気の沙汰ではなかったでしょう」
メリッサは首を傾げた。
「グレナイとは?」
「グレイ・ウィンドとナイト・ブルーの事だぜ。二人とも北西部担当者となったが、物議を醸したもんだ。ローズベル様が俺に誘惑されて、俺が中央部担当者になるようにルドルフ皇帝に上申したんじゃないかと」
「ええ!? ダークにそんな事ができるのですか!?」
メリッサは両目を丸くした。
ダークは呆れ顔で溜め息を吐いた。
「できるわけねぇだろ」
「でも、あなたが誘惑してきたらなんて考えたらちょっと面白いわね」
ローズベルがクスクス笑う。
ダークはローズベルにジト目を向ける。
「面白がっている場合ではないでしょう。あなたが否定しなかったせいで、俺に女たらしの異名がつきましたからね」
「否定するまでもないでしょう? 言わせておきなさい」
ローズベルは艶やかに微笑む。
「いつか私かメリッサか選ぶ日が来るかもしれないわ。考えておきなさい」
「そ、そんな……私なんてそんな……」
メリッサは耳まで真っ赤になり、両手で顔を押さえる。
ダークを直視できない。彼がどんな表情をしているのか、想像したくない。
ローズベルは口元に片手を当てて、上品に笑った。
「本当に可愛いわね。ダークに大事にされるのも分かるわ」
「ローズベル様、新入りをからかうのはそのへんにしてください」
ダークの声がいつにも増して低い。
ローズベルは足を止めた。王城の門にたどり着いた。
「そうね、私も忙しいからこのへんにしておくわ。これからリベリオン帝国を案内するのなら、薔薇園を見ていきなさい。私のお気に入りの場所よ。もちろんメリッサを連れて行きなさい」
「あ、ありがとうございます」
メリッサは恐る恐るダークの表情を見る。特に怒っている様子はない。
ダークは恭しく礼をした。
「見送ってくださり感謝します」
「いいのよ、じゃあね」
ローズベルは軽く片手を振って、王城の奥へ歩き去る。
ダークは溜め息を吐いた。
「本当は農園や鍛冶場とか、リベリオン帝国の根幹を支える場所を先に見てほしかったが、仕方ねぇか。ローズベル様には逆らえねぇぜ」
「薔薇園の後で見に行きましょう」
「薔薇園を見た後じゃ今日の活動は終わっているはずだ」
ダークは再び溜め息を吐いて歩き出す。
「まあ、リベリオン帝国は一日で回れるものじゃねぇな。どうせ時間が掛かる。疲れたらすぐに言えよ」
「分かりました」
メリッサはついていく。相変わらず雪が積もるほど寒いのだが、身体の火照りを冷ますのにちょうどよかった。




