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リベリオン帝国の方針

 メリッサは大粒の唾を飲み込んだ。

 ルドルフが威厳のある表情に変わってから、場の雰囲気がより緊迫した。ローズベルもダークも、緊張した面持ちになっている。

 ルドルフがゆっくりと口を開く。

「メリッサ、おまえは偽りの聖女として連れてこられたと聞いた。本当はサンライト王国の修道女だったな」

「はい、間違いありません」

 メリッサは俯いた。

「騙そうとした事は申し訳なく思います」

「顔を上げてくれ。グレゴリーの要求が無茶だった事も聞いている。聖女が全滅しているサンライト王国が、聖女を用意できるはずはなかった」

 ルドルフの表情は険しい。


「おまえは攫われたも同然だ。リベリオン帝国に逆らわないと誓うなら、サンライト王国に帰す事もできる。どうしたい?」


 メリッサは恐る恐る顔を上げた。

 サンライト王国が恋しくないと言えば嘘になる。しかし、今すぐにリベリオン帝国の中央部から離れたいとは思わない。


「ダークのお手伝いさんとして、まだ頑張りたいと思います」


「そうか。ダークはそれでいいのか?」


 ルドルフが問いかけると、ダークは曖昧に頷いた。

「俺は構いませんが……」

「お待ちください。彼女が私たちの意図を理解できているとは思えません」

 ローズベルが口を挟んだ。冷徹な視線をメリッサに向けている。

「ルドルフ皇帝、私からもよろしいでしょうか?」

「いいぞ。おまえの方が状況を的確に理解しているだろう」

 ルドルフが穏やかに頷いたのを確認して、ローズベルは語り始める。


「単刀直入に言うけど、あなたの存在がリベリオン帝国を脅かす可能性があるの。あなたがダークと深い仲であるという噂が流れているのは知っているかしら?」


「ええ!?」


 メリッサの声は裏返った。

 ダークは両目を見開く。

「俺も初耳です」

「噂を知らないのは、あなたたちだけよ。子供を授かるのはいつだろうと話している人たちもいるわ」

 ローズベルの口調はトゲトゲしい。

 メリッサは耳まで赤くなる。

 ダークの口の端は引くつく。

「そいつらの妄想はひどいですね。頭を砕いておきましょう」

「噂にいちいち反応していたら時間がいくらあっても足りなくなるわ。捨ておきなさい。でも、対応を考える必要はあるわ」

 ローズベルが一呼吸置く。


「リベリオン帝国中央部担当者が侮られる事があれば、大勢の闇の眷属が命を落とす事態になるわ」


「俺が魔王と呼ばれる事で、委縮する敵もいるようですからね」


 ダークが溜め息を吐く。

「女と恋仲になっているなんて噂されれば、俺もただの人間、倒せる敵と認識されてしまいますね」 

「そうね。理解が早くて助かるわ」

 ローズベルは微笑むが、目元が笑っていない。


「あなたが恐れられる事で救われる命があるの。忘れないようにね」


「俺は構わないと思うけどな。要するに、ダークが侮られなければいいんだろ? メリッサがリベリオン帝国中央部担当者の補佐として、みんなが認めるような実績をあげればいいんじゃないのか?」


 ルドルフの言葉に、ダークが両目を見開いた。

「メリッサが俺の補佐に?」

「鍛え方次第ではできると思うぞ。大変だろうけどな」

 ルドルフはメリッサに穏やかな視線を向ける。

「できそうか?」

「ダークの仕事内容があまりよく分かっていないので、何とも言えませんが……できる事があればやらせてほしいと思います」

 メリッサが素直に答えると、ルドルフは満足そうに頷いた。

「今はそれくらいの気持ちでいいだろう。ダークを手伝ってやってほしい」

「お言葉ですが、異国の女性に私たちの機密を漏らすのは反対します」

 ローズベルが冷徹に言うが、ルドルフは豪快に笑った。

「そこらへんはダークがうまくやるだろう! 頼んだぞ!」

「指令が曖昧なのは相変わらずですね。怒りを通り越して呆れました」

 ダークのこめかみに四つ角が浮かんでいる。

 ルドルフはケラケラ笑う。

「まあ、頑張ってくれ。おまえならできる!」

「ご期待にそえるように計らいます、と申し上げておきます。メリッサは本当にいいのか? サンライト王国の人間を敵に回すぜ」

 ダークの指摘を受けて、メリッサは胸が詰まる想いをした。

 リベリオン帝国はサンライト王国を壊滅に追い込んだ。サンライト王国の人々が何も感じないはずはないだろう。


「そうですね……サンライト王国は大切な祖国です。祖国を守りたくて、偽りの聖女を演じるつもりでした」


 メリッサの口調はか細い。


「ですが、ここに住む人たちも同等に大切です。私が何かできるわけではありませんが、両国の立場が守られるように頑張りたいと思います」


「今の所サンライト王国は俺たちに服従しているからな。猶予はあるだろ」


 ルドルフがニヤつく。

「リベリオン帝国中央部担当者の腕の見せ所だな」

「皇帝が威厳を示してください。俺の力なんて微々たるものですよ」

 ダークは呆れ顔になっていた。

「メリッサにリベリオン帝国を学んでもらい、地方担当者たちにメリッサを知ってもらう必要がありそうですね」

「そうだな。頑張れよ」

「結局俺の仕事にされるのですか」

 ダークは露骨に舌打ちをした。

 ルドルフは両手をパンと鳴らした。


「方針は決まったな。リベリオン帝国の国民が守られるよう、今後も鋭意尽くしていこう!」


 ローズベルとダークは頷いた。

 メリッサも自分の胸に手を当てて、心の中で、両方の国のために頑張りますと呟いた。

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