王城
闇の眷属の集落には、王城と呼ばれる堅牢な建物がある。他の建物と比べ物にならないほど広大で、威厳がある。聖堂や宮殿のような細やかな装飾はないが、頑強な造りなのが分かる。
闇の眷属にとってシンボルである。皇帝が許可した人間しか入れない。
門の傍で二人の番人が目を光らせている。
メリッサとダークは、そんな王城に呼ばれたのだ。今は門が開けられていて、ダークは平然と歩いていく。
メリッサは緊張した面持ちでダークに続く。
王城の中にも光る蔦が蔓延っていて、内部を静かに照らしている。幾つものドアを通り過ぎる。
廊下は広く、軍隊が通れそうだ。ドアが開いていきなり襲い掛かられたら、一たまりもないだろう。
前を歩くダークは、振り向かずに口を開く。
「もう少しで階段が見えてくる。階段を上るとすぐに謁見の間があるぜ。ルドルフ皇帝とローズベル様が待っていると思うが、緊張しなくていい」
「そ、そうですか……」
メリッサは曖昧に頷いた。
ダークが苦笑する。
「一度緊張すると、簡単にほぐれるもんじゃねぇよな。注意するべき事は敬語を使った方がいいってくらいだ。メリッサなら大丈夫だ。心配はいらねぇよ」
「あ、ありがとうございます」
メリッサは上ずった声でお礼を言った。ダークなりに緊張をほぐそうとしているが、怖いものは怖い。
もしもルドルフやローズベルを怒らせれば、祖国サンライト王国を攻め込む口実を与えるだろう。それだけは避けなければならない。
奥まった所にある階段をのぼり、さらに奥に行くとだだっ広い部屋がある。謁見の間にたどり着いたのだ。そこも光る蔦に照らされている。
部屋の奥に、浅く広い階段が二段ある。
階段の先には玉座がある。玉座には大柄な男が座り、玉座の傍に華奢な女が立っていた。
男は黒い短髪で、黒い鎧を身に着けている。玉座に大剣を立て掛けて、威風堂々と腰かけている。
この男こそルドルフであると一目で分かる。リベリオン帝国の創始者であり、皇帝である。
華奢な女はローズベルだ。眼光が鋭い。
「遅かったわね、ダーク・スカイ。何かあったのかしら?」
ダークは浅い階段の手前で足を止めて、恭しく礼をした。
「お祈りの時間後になかなか帰らない人が大勢いらしたので、対応しておりました」
「変な扱いは受けなかったかしら? あなたに関する気になる噂があるの」
「どういった噂でしょうか?」
ダークが尋ねると、ローズベルはメリッサに視線を移す。
メリッサは緊張したまま、ダークの後ろで立っていた。
ダークはメリッサをチラリと見て、苦笑する。
「リベリオン帝国中央部担当者が女に現を抜かしているという噂ですか?」
「そうね。魔王もただの男だという噂が流れているわね」
ローズベルはキッパリと答えていた。
二人の会話を聞きながら、メリッサは申し訳ない気持ちになった。
「ダークにそのような気持ちはないと思うのですが……」
恐る恐る口にする。
沈黙がよぎる。ダークもローズベルも唖然としていた。
メリッサは焦った。自分の発言のせいで、変な雰囲気になった。しかし沈黙する二人の心理が分からず、何を言えばいいのか分からない。
そんな時に、豪快な笑い声が響き渡る。ルドルフが腹を抱えて笑っていた。
「ダーク、いきなりフラれるなんて残念だったな!」
「残念とは思いませんよ」
「本当か? メリッサは美人なのに。せっかく修道女になってくれたのに、勿体ない」
ルドルフはメリッサの事を知っているようだ。
メリッサは深々と礼をする。
「ダークにはいつもご迷惑をお掛けしております」
「畏まらなくていいぞ。ダークに頼られる人間なんてそんなにいない。俺だって迷惑を掛けっぱなしだからな」
ルドルフがダークに視線を寄越すと、ダークは溜め息を吐いた。
「俺たちの宗教をリベリオン教にさせてくれないのは、やはり筋違いだと考えます」
「リベリオン帝国に国教なんて作る気はないからな。パクるな」
「リベリオンという名称は俺から提案したものです。パクったのはてめぇです」
ダークは口の端を引くつかせている。
ルドルフはしれっと答える。
「おまえはダーク・キングダムの対案を出しただけだろ? 闇の眷属を守る国名として最高だと思ったのにな」
リベリオン帝国は本来ならダーク・キングダムという名称になっていたようだ。
ダークは露骨に舌打ちをする。
「いい加減嫌がらせ行為を卒業してください」
「俺は本当の事を言っているだけだ」
メリッサはおろおろした。二人の視線の間に火花が散った気がした。
ローズベルが溜め息を吐く。
「二人とも仲が良いのは分かりますが、本題に入りましょう」
「そうだな、ローズベルの言う通りだ。おまえとメリッサを呼んだ理由から話すぞ」
ルドルフは威厳のある顔付きになった。
「リベリオン帝国の方針を決める大事な話だ。質問には噓偽りなく答えるようにしてくれ」




