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予想外の騒動

 朝食の時間が終わる。腹が満たされて眠くなる人がいる一方で、メリッサは張り切っていた。やる気に満ちた表情でリトスに尋ねる。

「お皿やフォークなどは、例の井戸水で洗えば良いのですか?」

「そうだよ! メリッサはすぐに仕事を覚えてすごいな。あたしだったらみんなに押し付ける事を考えるよ」

 リトスはニヤついていた。


「ダークにいい所を見せたいのかな?」


「そ、そういうわけではないのですけど……ただ、少しでもお役に立ちたいのです」


 メリッサはしどろもどろになりながら答えていた。

 リトスはうんうんと何度も頷いた。

「そういう事にしておくよ」

「それでは行ってきます」

 メリッサは手順よく皿とフォークをまとめて、歩き出していた。

 リトスは慌ててついていく。


「教会の扉を開けるから、ちょっと待って!」


 リトスは急いで施錠を解いて、門を開ける。

 その先には、驚くべき光景があった。

 大勢の人々が教会の前に立っていたのだ。性別も年齢層もまちまちである。リトスが門を開けると同時に、一斉に押しかけてきた。


「朝の教会は新鮮ね!」


「やはり美しい。ありがたいものじゃのぅ」


 口々に誉めているが、修道士や修道女は唖然とするしかなかった。リトスも門の傍で呆然としている。

 ボスコもおろおろしていた。


「まだお祈りの準備が整っていません。出直していただけませんか?」


 ボスコがお願いするが、押しかけた人たちの間で何故か笑いが起きた。

「いいってことよ、あたしらの事は気にしないで!」

「さてさて新入りの修道女さんは誰かのぅ?」


 人々は辺りをキョロキョロしていた。


 メリッサはおずおずと声を掛ける。


「新入りの修道女といえば、私の事ですが……」

「おお! なんと綺麗な女性じゃ! 儂がもっと若ければラブレターを送るのじゃがのぅ……」

「かーわーいーいー! きゅんきゅんしちゃう!」

 まじまじと見られたり抱き着かれたりして、メリッサは戸惑った。人々の猛烈な勢いに逆らえない。皿やフォークを落とさないようにするのが精いっぱいである。

 何故かいろんな人がメリッサの頭をなでたり、長い髪に触れたりする。

「ありがたやーありがたやー」

「魔王が見初めた女性だけの事はあるわね~」

 メリッサは苦笑した。されるがままだった。

 そんな時に、恐ろしく冷たい声が響き渡る。


「てめぇら今すぐに教会から出ていけ。俺たちの迷惑を考えない奴らに祈る時間なんてねぇよ」


 ダークの切れ長の瞳がギラついていた。

 人々はヒッと小さく悲鳴をあげて、慌ててメリッサから離れた。気まずそうに互いの顔を見合わせているが、誰もダークに反論できない。

 ダークはこれ見よがしに溜め息を吐いた。


「神官長も言っていただろ、出直してほしいと。教会に入るなら一定の秩序を守れよ」


 人々は黙りこくった。ダークの剣幕に言葉が出なくなったのだ。

 メリッサは恐る恐る口を開く。

「あの……念のために確認をしたいのですが、ここにいらした皆様はお祈りの時間が楽しみで、時間前にいらしたのですよね?」

 メリッサが問いかけると、人々は俯いた。

「お祈りの時間というより、新入りの修道女を見たかったの。とっても綺麗だと聞いていたから」

「罰当たりかもしれぬが、魔王の恋人をこの目で確かめたかったのじゃ」

 メリッサは両目をパチクリさせた。

「魔王の恋人とは?」

「真に受けなくていいぜ。どうせただの噂だろ」

 ダークが呆れ顔になっていた。

 リトスは大笑いをしていた。

「すごい噂が広がっているね!」

 人々が騒ぎだす。

「噂の真相はどうなの!?」

「この場で儂の首を切ってもいい、教えてくれ!」

 ダークは口の端を引くつくせた。


「いったん地獄に送るしかねぇようだな」


「まあまあスカイ君、皆さんが気にするのは分かります。ここはいったん落ち着きましょう」


 ボスコがダークの前に立ち、両手を下向きにパタパタと振る。

「朝食を片づけるグループと、お祈りの時間を行うグループに分かれましょう。僕はリトスさんを連れて片づけに行ってきます」

「ええー!? あたしは残りたいよ。絶対に面白いから!」

「リトスさん、メリッサさんが抱えているものを預かってあげてください」

 ボスコの言葉に、リトスは察するものがあった。

 メリッサの抱える皿やフォークを手早く受け取って、笑顔になる。

「あたしやっぱり片づけをやりたくなっちゃった。メリッサはお祈りの時間を手伝ってあげてね」

「え? 具体的に何をすれば良いのでしょうか?」

「ダークに聞けばいいよ。それじゃあ互いに頑張ろう!」


 リトスは意気揚々と歩き去る。


 他の修道士や修道女も、微笑みながら教会を出ていく。


 あとにはメリッサとダーク、そして押しかけてきた人々が取り残された。

 ダークは片手で髪をかきむしる。

「あいつら、何を考えてんだか!」

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