リトスの企み
リトスには企みがあった。
メリッサに起床時間を伝えずに眠りについたのはそのためだ。
闇の眷属の修道士や修道女の朝は早い。リトスは寝ぼけまなこのメリッサに大声で挨拶をして、驚かせるつもりでいた。
そこに深い意味はない。ちょっとしたイタズラのつもりだ。
リトスは静かに起き上がる。
大声で驚かせてやる。
そう思った矢先の事だった。
「おはようございます、リトス。本日もよろしくお願いします」
メリッサが部屋の整頓や乾拭き掃除をしていた。
繰り返すが修道士や修道女の朝は早い。リトスもかなり早く起きた方だ。
「……でもメリッサの方が上手だったかぁ」
リトスは企みが失敗して、うなだれた。
メリッサは首を傾げたが深く突っ込まないようにした。
修道服に着替えて教会内部に行く。まだ誰もいない。
メリッサの両目はキラキラしていた。
「一番乗りですね」
「……そうだね」
リトスは寝ぼけまなこをこすって、あくびをした。
ほどなくして、肉付きのよい中年の修道士が階段を上ってきた。
「リトスがおいらより早いなんて珍しいな」
「メリッサの方が早かったよ」
長机を乾拭きしているメリッサを横目に、リトスは鷹揚に頷いた。
「優秀な後輩ができて誇らしいよ」
「後輩だけ優秀でもなぁ……」
「いいじゃん、あたしは頑張らない主義だから。朝食が運ばれるまでのんびりするよ」
リトスが長椅子に腰かけると、メリッサが微笑み掛ける。
「朝食はここで食べるのですね。お皿を並べても大丈夫でしょうか?」
「いいよ、すごく積極的だね。ダークに言っておくよ」
「そ、そんな……お手伝いさんとして頑張らせていただきたいだけです」
メリッサの両頬は赤らむ。
リトスは内心で、かわいいなぁと思いながらニヤついていた。
メリッサが皿とフォークを並び終えた所で、大きな木箱が二人掛かりで運ばれてきた。長机の隅に置いて、中身を取り出す。
「皿が並べられて助かる!」
「盛るだけだね」
皿の上にチーズやパン、野菜や果物が並べられていく。
メリッサは驚いていた。
「新鮮な野菜や果物を保存する場所が地下にあったのですね」
「地下は水を流す場所があるからね。そこで保存しているよ」
リトスは得意げに説明した。
「あたしはまだ先輩面できそうだね」
「はい、よろしくお願いします!」
メリッサの笑顔は輝いていた。
朝食の支度が出来た頃に、他の修道士や修道女がやってきた。全員が長椅子に座って和やかに雑談をしている。
しばらくすると、ダークとボスコも階段を上ってきた。二人とも疲れを感じさせない表情をしている。
ボスコは教壇に一番近い長椅子に座る。
ダークは険しい表情で教壇に立った。
「今日は俺から知らせがある。雑談をやめて聞いてくれ」
修道士や修道女が驚き、会話を止める。かなり重大なお知らせに違いない。
ダークは続ける。
「昨日メリッサがグレゴリーに襲われた。短剣で切りつけられる所だった。幸い怪我なく済んだが、危なかったぜ。グレゴリーの身柄はローズベル様が預かったが、気を付けろ」
修道士も修道女もざわつく。
困惑や恐怖が広がっていた。
ダークは念を押すような口調になる。
「外に出る時にはぜってぇ一人で行動しないように。以上だ。てめぇらから報告はあるか?」
「はいはいはい!」
リトスが元気よく片手を上げた。
「メリッサが朝から支度を頑張ってて助かったよ!」
「リトス、皆さんの前で言う事ではありませんよ」
メリッサが小声で諭そうとするが、リトスは胸を張っていた。
「指導した先輩として誇らしいなぁ」
「メリッサが優秀なのは分かったぜ。リトスも見習えと言いたいが、言うだけ無駄だな。腹が減ったし、食おうぜ。天の恵み地の恵み、人の恵みに感謝して食うように」
ダークがそっけなく言うと、修道士や修道女の間で笑いが起きた。
リトスは唇をとがらせた。
「ちぇっ! 後輩が褒められるのは嬉しいけど、余計な言葉がイラっと来るよ」
「リトス、本当にありがとうございます。あなたのおかげで場の雰囲気が和みました」
メリッサがお辞儀をすると、リトスから照れ笑いがこぼれる。
「そ、そうかな。あたしのおかげかな」
「はい、尊敬します!」
メリッサの屈託ない微笑みに、リトスはくすぐったい気分になった。
「と、とにかく朝ごはんを食べよう」
「そうですね、いただきます」
リトスはさっさと食べ始めるが、メリッサは両手を合わせてゆっくり礼をしてから食べ始めるのだった。




