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愛があれば

 メリッサは、修道士や修道女と共に西側へ向かっている。

 リトスが食器の敷き詰められた鍋を運びながら、得意げに語る。

「森の近くに井戸があるんだ。そこで洗い物をするよ。洗うための道具一式も置いてあるから安心して」

「そうなのですね。教えてくださりありがとうございます」

 メリッサがペコリと礼をすると、リトスはケラケラと笑った。

「相変わらず礼儀正しいね。もう慣れたけど、もっと打ち解けたいな」

「す、すみません」

 メリッサは申し訳ない気持ちになって、まぶたを伏せる。

 リトスは首を横に振る。


「顔を上げてよ。試しにあたしにタメ口をきいてくれないかな?」


「タメ口ですか……」


 メリッサは困惑した。

 幼い頃は両親や友達に敬語を使っていなかった。しかし、修道院に入ってからはタメ口は原則として使えなかった。よほど気を許した友人が相手でも、時と場所を選んだ。

 そんな生活が長かったため、今では敬語を使わない事に違和感を覚える。

 何を言おうかメリッサが困っていると、リトスはニヤついた。


「あたしのマネをしてよ。ダーク愛してるよ」


「いきなり何を!?」


 メリッサの顔面が耳まで赤くなった。心臓の鼓動が早まる。

 リトスは大笑いをした。

「例えだよ、そんなに深く考えないで!」

「いけませんよ、そんな……神官様にいきなり愛の告白なんて」

「無理に言わなくていいけど、ぶっちゃけダークの事は好きだろ?」

 リトスに問われて、メリッサは顔面が赤いまま口をパクパクさせた。

 リトスは遠い目をする。

「今のメリッサ、ダークに見せたかったなぁ」

「そ、それはその……素敵な方だと思います。何度もご迷惑をお掛けしたのに、受け流してくださいます」

「ダークは迷惑がっていないと思うよ。ほら、愛があれば何でもいいんだよ」

「愛なんて、そんな……」

 メリッサはしどろもどろになる。


「私はその、お手伝いさんとして頑張るだけです」


「声が小さいよ。聞こえるように言ってほしいな」


「わ、私は! 黒い神官様のお手伝いさんです!」


 メリッサが声を張り上げると、修道士たちが一斉に振り向いた。困惑が見て取れる。

 リトスはこれ見よがしに声を大にした。

「メリッサがただのお手伝いさんだと思う人はいる!?」

「そうは見えなかった」

「え? 恋人じゃなかったの?」

 次々にあがる反応に、メリッサは目眩を覚えた。

「そ、そんな……皆さん誤解しています。私なんか釣り合いません!」

 メリッサが両手をパタパタと振ると、年配の修道士がゆっくりと首を横に振る。

「愛があれば乗り越えられるぞ」

 肉付きの良い中年の男性も頷く。


「安心しろよ、おいらに恋人はいないけど告白の極意なら教えられる」


 数人の女性たちも声を掛けてくる。


「私たちも味方だからね、何でも相談してね!」

「頑張って!」


 メリッサは目を回しそうだ。

 今までこんな経験はなかった。修道女として人と接する事はあっても、あくまで他人の為だった。自分の為で人が集まるなんて考えた事もなかった。

 どうすればいいのか分からない。

 そんなメリッサの裾を、年端もいかない少年が引っ張る。

「黒い神官様を呼んでこようか?」

 リトスは力強く頷いた。

「そうだね、このままじゃ収集がつかないよ」

「ま、待ってください! 食器を洗いましょう! 大事なお仕事です!」

 メリッサが大声を出した。

「これまでずっと迷惑を掛けてきました! 少しは働かせてください!」

「メリッサがそこまで言うならそうするけど、何かあったらすぐに頼ってね」

 リトスがウィンクする。修道士たちは再び歩き出す。

 メリッサは曖昧に頷いた。


 井戸の傍には、大きなタライやたわし状に編まれた草など、充分に道具がそろっていた。洗い物を干すための竿もある。

「石鹸まであるのですね。これなら黒い神官服を洗えそうです」

 メリッサは安堵の溜め息を吐いた。腕まくりをして気合いを入れる。

「まずは食器洗いを頑張ります!」

 リトスはニヤニヤしながら、井戸から水を汲んでいた。

「二人には幸せになってほしいな。面白そうだから」

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