似たもの同士
メリッサはスープを飲み終えると、心身共に温かくなった。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「口に合ったなら良かったよ! 渡した甲斐があったね」
リトスが得意げに胸を張る。
メリッサは深々と礼をした。
「本当にありがとうございます。幸せな気分です」
「そんなに固くならないでよ! あたしたちは友達なんだから」
リトスがパタパタと両手を振る。
ボスコはクスクス笑う。
「メリッサさんが心を許すのは、当分先のようですね」
「そ、そんな……心を許していないわけではないのですが……」
メリッサは申し訳ない気持ちになった。気を遣わせているのが明らかだ。
「小さい頃から礼儀正しく振る舞うように言われて、近しい相手にもつい堅苦しく振る舞ってしまっているのかもしれません。皆さまの事は大好きですし、気を許していないわけではありません」
「そうなのですね。どこかで聞いたような話ですね、スカイ君」
ボスコがダークに向けてウィンクをする。
ダークは視線をそらすが、口を開く。
「俺は軍部の常識を教えられただけですよ」
「そうですね。軍部では敬語を使うべき相手はルドルフ皇帝とローズベル様ぐらいですからね。あなたの素の態度は、なかなか受け入れてもらえませんでしたね」
「まあそうですね。グレゴリーが教えてくれなかったら、たぶん今も浮いていました」
ダークはもともとは敬語を使う人間だったようだ。
リトスがニヤつく。
「メリッサと同じだね」
「その表現はやめろ。メリッサが傷つくだろ」
「えー、そうかな? ねぇメリッサ、どう思う?」
リトスに話をふられて、メリッサは耳まで真っ赤になった。
「ど、どうって……その……」
「リトスてめぇ、死にてぇようだな」
ダークが切れ長の瞳をギラつかせる。殺意を抱いているようだ。
リトスは悲鳴をあげてメリッサの後ろに隠れた。
「メリッサ、お願い! 魔王からあたしを守って!」
「ええ!? えっと……ダーク様、どうすれば怒りが収まりますか?」
メリッサが真摯に尋ねると、ダークは口の端を引くつかせた。
「てめぇに語る気はねぇよ」
「あなたの怒りを収めないとリトスさんが安らぎません」
「リトスなんてほっとけ。あと、俺の事はダークでいい」
ダークは溜め息を吐いた。
「疲れたから寝る。片付けはリトスを中心にやっておけ」
そう言ってダークは、オルガンの前でしゃがむ。床に両手を伸ばし、持ち上げる。下り階段が姿を現した。
ダークはめんどくさそうに言い放つ。
「部屋が足りなかったら、メリッサはリトスの部屋を使え。あと、俺の服を洗うのは後にしてくれ。じゃあな」
「え? あんたの部屋じゃなくていいの? 服を洗うって何の話?」
リトスの質問に答えずに、ダークは下り階段を降りていた。中側から床の位置を戻す。
メリッサは不思議そうに首を傾げていた。
「ダークの怒りは収まったのですかね……神官服の事は、私から洗うと申し上げたのです」
「いつの間にそんな話をしていらしたのですね。メリッサさん、ちょっとお喋りに付き合っていただけますか?」
ボスコは微笑み掛ける。
「私で良ければ構いません」
メリッサが頷くと、ボスコは穏やかに笑う。
「あなたでなければいけません。率直に聞きますが、ここで暮らしていけそうですか?」
「はい! おかげさまで幸せです。皆さまに恩返しをしたいです!」
メリッサが元気よく即答すると、ボスコは満足そうに頷いた。
「それは良かったです。スカイ君も喜ぶと思います」
「……ダークにはご迷惑ばかりお掛けしておりますので、なんとか役に立ちたいです」
メリッサは俯く。ダークを呼び捨てにするのもためらいがある。他でもないダークから、呼び捨てにするように言われたのだが。
ボスコは穏やかに微笑む。
「メリッサさんは充分に頑張っています。スカイ君にはいろいろ頼ってください。メリッサさんがありのままでいた方が安心するでしょう」
「そ、そうですか……?」
メリッサは両目をパチクリさせた。
「ありのままの私ですか……」
「難しく考えなくて良いのです。やりたいようにやってください」
「分かりました、まずは鍋や食器の片付けを手伝います! リトスさん、どこで洗えばいいですか?」
メリッサが尋ねると、リトスは複雑そうな表情でうめいていた。
「もう少し愛の決め手がほしいよな……」
「何の事でしょうか?」
「ううん、似たもの同士だなと思って」
リトスの言葉に、メリッサは首を傾げた。
「どなたと似ているのでしょうか?」
「あたしから言っていいのかなぁ……」
「教えてください、友達ですよね?」
メリッサがジッと見つめると、リトスは鍋に食器を敷き詰めつつ投げやりに答える。
「ダーク・スカイとだよ! 意味は自分で考えて」
「ええ!? ズルいです!」
「ズルくてもなんでも、あたしが言えるのはここまでだよ。あと、あたしの事はリトスでいいよ。さぁ、洗い物だ!」
リトスがズンズン歩く。
メリッサは考え込みながらついていった。