表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/42

お手伝いさんの初仕事

 メリッサとリトスは隠し階段を降りる。

 隠し階段の先は廊下があり、教会と同様に、光る蔦が辺りを静かに照らしている。

 メリッサは両目を輝かせた。

「すごいですね。カビがありません」

「あたしたちの住処だからね。定期的に掃除をしているから綺麗なんだよ」

 隣を歩くリトスは得意げに言っていた。


「ここからちょっと歩けば倉庫や水飲み場があるんだ。お湯に浸かる事だってできるよ」


「地下でそこまでできるのですか!?」


 メリッサの声は裏返った。

 倉庫は想定内であったが、水飲み場と風呂は驚くべき事だった。

 当たり前であるが、飲み水は清潔でなければならない。清潔な水を地下に引くために、どれほどの労力が必要なのか、メリッサには想像もつかない。湯を沸かす仕組みを作るのは、神業だろう。

 リトスは両手をパタパタと振った。

「神官どもはすごく感謝しているけど、あたしは当たり前の生活をさせてもらっているだけだと思うよ」

「闇の眷属の大工さんはすごいですよ。サンライト王国では、お風呂なんてごく一握りの人が利用できるものです。贅沢品でした」

「そうなの!? そっちの方が驚きだよ! じゃあメリッサはサンライト王国の王様並に偉いんだ!」

 リトスがおどけた口調になるが、メリッサの両肩はガクガク震えた。

「やめてください! 恐れ多いです!」

「ごめんごめん、そんなに気にするとは思わなかったよ」

 リトスは片手をあげて笑顔を浮かべた。

 少し歩くと、リトスは歩みを止めた。

「ここがあたしの部屋だよ。なんにもないけど」

 ドアを開ける。部屋の壁にも光る蔦が蔓延って、辺りを静かに照らしている。

 ふわふわの大きなマットと掛け布団、四角い木のテーブルとイス、そして大きな木箱が二つ並べられている。

 リトスは木箱から黒い修道服を取り出した。

「サイズが合うといいんだけどね」

「着てみます。聖女の服はどこに置けば良いのでしょうか?」

「テーブルの上に広げておいて。勉強なんてしないから気にしないでね」

 リトスなりの気遣かったのだろう。

 メリッサは微笑んだ。

「ありがとうございます……本来なら身も心もあなたたちの宗教に捧げるべきですのに、それができなくてすみません」

「いーっていーって! あんたがどこの宗教にいようと、服を借りるくらい大丈夫だよ!」

 リトスの軽い口調に、メリッサは笑った。

「ついでにこの部屋の掃除をしましょうか?」

「いらないよ! それより早く戻ろう。遅くなってダークに怒られたらいやだから」

「それもそうですね」

 メリッサは手早く着替えを済ませて、聖女の服を折りたたみ、リトスと共に教会へ戻る。


 ダークは暖炉の火の管理をしていた。


「思ったより早かったな」

「メリッサが素早く着替えたおかげだよ」

 リトスはメリッサにウィンクをした。

 メリッサは頷いた。

「さっそく仕事をやらせてください」

「いいぜ。みんなが来たら飯にするから、そんなに時間はないと思うけどな」

「はい!」

 メリッサは元気よく返事をして、白い布でオルガンの鍵盤を拭く。もともと汚れていなかったが、拭くほどにより綺麗になっていく。


「いい布ですね」


「拭き方が上手なんだよ。きっと黒い神官様も感謝しているよ」


 リトスがダークに視線を寄越す。

 ダークは溜め息を吐いた。

「リトスと違って安心して任せられるぜ」

「あたしと違ってなんて言わなくていいだろ!? ほら、感謝でも愛の告白でもちゃんと本音を伝えなくちゃ!」

「メリッサ、布は遠慮なく使えよ。替えは木箱に入っているぜ」

 リトスが騒ぐが、ダークが気に留める様子はない。

 メリッサはクスクス笑う。

「お二人とも仲が良いのですね。言いたい事を言っていて」

「喧嘩ばかりしているのに!?」

 リトスは両目を丸くしていた。

 ダークは呆れ顔になっていた。

「メリッサ、見当違いは時に寿命を縮めるぜ」

「お二人の会話を邪魔してしまいましたか? すみません」

「いや、そうでもねぇが……まあ、おいおい理解してもらうぜ」

 ダークは諦めたように溜め息を吐いた。

 メリッサは不思議そうに首を傾げたが、とりあえずオルガン掃除をするのだった。

 オルガン掃除は捗った。拭くほどに綺麗になるから、ますます頑張れた。

 リトスは歓声をあげた。

「すごいよ、こんなにピカピカになるもんなんだ!」

「そ、そんなにすごくないです。拭いただけですよ」

 メリッサは照れながら頑張るのだった。


 しばらくすると、複数の足音が聞こえだした。


 白い神官服を身にまとう中肉中背の男性を先頭に、修道服を着た数人の男女が教会に入ってくる。白い神官服の男性は茶髪を生やし、穏やかな笑みを浮かべている。修道服の男女は年齢層がまちまちで、みんな多かれ少なかれ野菜や卵を抱えている。

 白い神官服の男性が愉快そうに両目を細める。

「見慣れない女性がいますね。僕たちと同じ聖職者のようですが」

 メリッサはオルガンを拭く手を止めて、深々と礼をした。

「メリッサと申します。ダーク・スカイ様のお手伝いを希望します」

「こんなに美しい方がお手伝いなんて、スカイ君も隅におけませんね。僕はボスコ。神官長という肩書きがあります」

「神官長ですか!?」

 メリッサの声は裏返った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ