黒い人型機体
不定期な更新にはなると思います。
人が宇宙出てから、いい加減に時は過ぎた。どうなったか、と言われると、時代が一巡したのだった。というのも、宇宙に出ると、無限の体積はゲット出来たから、欲も無限に宙へ投げ出せた。レアメタルの星もあってくれたので、猶更だった。だから、宇宙基地は星の数ほどできて、人の生活はとことん楽になった。そうなると、マイナスの感情がわかなくなると、人は我慢することなく交尾はするから、とことん子供は生まれて、それは、星の数を優に超えた。そのとき、宇宙の膨張速度より、人類の欲の増加スピードが上回ったのだ。
となると、宇宙は人類を賄えないので、宇宙に依存した人々はとことん瘦せた。天然ガスの星は空洞の星へ。空洞の星は温暖化ガスの宝庫へ。レアメタルの星は岩だけに。
要は天然資源というのは枯渇して、機械パーツの生産は停止。壊れたマシンはままに。マシンがなければ、食べ物はなくなる。楽な生活は崩れるのだ。
そんな貧困化の中で、一部の、怠惰さを否定してくれた人は、オーガニックな生活をした。美味しい人工肉から不味い羊肉へ。栄養たっぷりのジュースから、ただのろ過水や動物のミルクを。生活水準は、自然とともにやるしかなくなったのだ。
そんな中でも、教育というのは残るし、出来のいいマシンは残り続けてくれた。
まとめれば、はるか昔の、牧歌的な生活と、近代的な、マシーンに頼った暮らしが、バランスをとるようになったのだ。
これはそういう時代の過渡期の、ほんの小さなお話にはなるはずだ。
湿地がある。沼があって、葉が浮いている。葉の上には、カエルがいた。喉を鳴らしながら見る屋敷には、人影は見えた。影の前、カーテン。その奥には、一人の女がいた。
そういう女の肌は、ちゃんと白かった。身体もやはりエロティックなものなので、すらりとしている。でも、胸はないから、欲情よりは感嘆を出す、セクシーであった。
「おはようございます」
「おはよう」
女の名前は、ロロンドと言う。彼女のあいさつに返事をしたのが、父親である。
「今日は?」
「日帰りにはなります」
父親の、男の問いに、ロロンドは喉を開けて答える。
答えれば、男は、ミルクでのどを潤す。そのあと、少し眉を下げる。ロロンドも同様にするが、不味いとは思はなかった。
その後、朝食、着替え、化粧を済ませれば、屋敷の外に出る。
そこには、いたって普通に、ワースタがある。ワースタとは、四足歩行の機械であるから、人口の馬とは言えた。
それが、マシンらしい音を立てて、走りだせば、またがったロロンドも運ぶ。ぬかるんだ、湿った地面をセンサは感知するから、沈むなんてことはない。木々が増えて、スピードは落として、無造作の根っこを避けていく。
地面の感触が変わり、そこは平原。なので、人はいた。
「おはようございます。どうですか」
「ロロンドさま。ま、見ての通りとはいえますが。とて順調です」
「では、過去の遺産は使えていますね」
「ええ。おかげで、耕すのは楽です」
その人、タガヤースンは、畑の管理者だ。
「一応、見せてはもらいますね」
「ええ」
タガヤースンの案内を受け、ロロンドは、草原ある畑を見ていた。そこには、禿げた草原がある。そして、マンマシーン、人型の機械がある。それの名称は、ワーカードールであるから、働くための機械ではあった。
人型なのは、中の人間の脳で動かすから、マンマシーン、人型のほうが良いのだ。
一応、大型な、十数メートルだから、耕している畑もたいそうなサイズになる。
ワーカードールは、手のひらで、地面を掘っては、中の石を砕いていた。
「使えているのですかー」
メガホンの機能は、振動を作るから、内部の人間にも揺れは届いた。ので、人差し指と親指の丸は見せられた。
「なのなら、いいですが」
ロロンドのワースタは、機械らしい音を立てて動く。それが、馬らしい動きをするのは、操り手が人だからだ。脳波を読み取り、第二の肉体となるから、フォルムは生命ではなければならない。
それは、ワーカードールも、おなじこと。巨大なロボットを動かすというのは、世界のスケールを縮めて、利便性をもたらす。だから、少し前の、ロロンドの一世代前の人類は、広大な宇宙に基地を建設できたのだ。
ただ、そういう時代は昨日の今日に終わったことなので、ワーカードールというのは、この星を耕すぐらいのことには使えた。
ロロンドは、手持ちのガラパゴス携帯で、ワーカードールを録画すれば、次の目的地へ、ワースタを動かし始めた。
ほんの数年前に、人類は繁栄したが、ツケはたまっていたので、それを清算する時代が今なのだ。
ロロンドの父は、技術衰退の前に、ワーカードールを貸し出す会社の社長であった。で、現在、宇宙船がオーパーツなのだから、他の星から食料は来ない。でも、ちょっと前までは輸入していた。だから、早急に畑は作る必要があって、そのためのワーカードール。ロロンドの父は、この星の貴族、統治者足る権利の獲得。
現在は、ロロンドが、女王となって、星の開発をしていた。
ワースタったって、機械。馬のフォルムだけど、馬の歩行ができるけど、それだけだと不便だから、ホバーの移動はできる。
四足の足から、爪から、反重力で浮遊する。それで、瓦礫だらけの、でこぼこは移動できた。
「元気ですか」
「姫様。その代わりゆっくりですよ」
「気長にやるのが時代でしょ」
「はい。で、まあ、やっぱり、肥沃地でした」
「じゃあ、宇宙エレベーターは邪魔ですね」
巨大なカプセルに、長いワイヤ。天まで届く糸を伝い、反重力装置で上昇するのが、宇宙エレベーターであった。宇宙に出るためのエレベーターは、隕石で壊れて、直すパーツもないから、瓦礫のごみとして放置されていた。
ロロンドを見上げる、おじいさまは、ロロンドの言葉にどもる。
「サークコウさん」
「はい」
「生きてきたのだから、エレベーターへの思いやりは理解します」
「はい」
「しかし、女王として言うのなら、行き先のない宇宙エレベーターなどゴミです。撤去はしてください」
「はい」
ある程度は、時代が回って、西洋の牧歌的にはなったけど、SFの名残はあった。
「噂っての、本当ですか」
「本当に、宇宙にあるんですよ、ほら」
ロロンドが見せられたモニタには、確かに噂のワーカードールがあった。
「働くマシンに、武装があれば、名称はワーカードールとは違いますよね」
「闘争本能を引き出すマシンですから、アニマドールですね」
アニマドール。アニマドールかあ。そう、ロロンドは小さく声を出した。
真っ暗な宇宙で、二機のアニマドールがぶつかっていた。衛星のカメラに映るそれらは、出力をオーバーした溶接機、レーザーガンを振り回していた。
「これ、落ちますよ」
片方が、片方を打つ。背中のバックパックが割れて、体制を失い、星に引かれる。
「落ちてくる場所は、出してください」
「姫様」
「私は向かいますから」
「やめ、聞いてない」
からり、からり。
馬を、模した足は、からり、と音を出し、ロロンドを前に。
乾いた、川の跡を下る。そこにはアニマドールがあるから、声をかけた。
「人の星で戦うの、迷惑ですよ」
「じゃ、そこの中から出してください」
「はい」
メガホンの声に、オープン回線の返事。倒れているアニマドールのほうへ駆け寄り、緊急用のボタンを押す。アニマドールの股間にある、ガラス越しのコックピットには、男がいた。
ボタンは生きていたから、ガラスの壁は上がり、気絶した男を担ぎ出す。
「どうするってんだ」
この男、殺されるのだろうか。
「中に、鍵みたいなのはあるから、出してくださいよ」
アニマドールの、武器の脅しをかけられて、コックピット内を探してみる。
電源の入ってないそこは、太陽光だけで、暗い。クッション素材の内部を捜索すると、いたって人の物はある。水筒、トイレットペーパー、ティッシュ、携帯、財布。
「換気扇のスイッチは、」
電子モニタ、つまり、操作盤を探しているが、らしいものはない。
「収納型かな」
「ピコ」
「ぴこ?う、わ。これ、リモコン」
最中に蹴飛ばした、リモコンには、英語で文字が書いてあった。それで冷房をつけると、換気扇の音が鳴るが、それよりも大きい声がする。
「アニマドールを動かして何やろうってんだ」
男の声がしたほうは、当然コックピットハッチの入り口であり、外の景色はある。それが、地平線とその上のみなのは、変化であった。
リモコンのせいで、アニマドールは勝手に起き上がってしまった。
「リモコンを、蹴とばして、動いてしまったのですよ」
壊れたから落ちてきたのに、なんで動くのか。コックピットから、顔を出して、男に訴える。ついでに外見を見ると、壊れていた部位は治っていた、直っていた。
向けられたレーザーガンが、心臓を殺しそうに。目の前の銃口から出る、レーザーに掠れば、私は溶けるのだ、と。
「敵対心があるのなら、とうにやっています」
「それは、そうか」
「其れよりカギって、鍵の形をしていますか」
「しらん」
「なのなら、探すのは自分でやってくださいよ」
「おろすから、待っていろ」
「はい」
コックピット内へ戻り、エアコンの電源を切る。倒れた、つまり壊れた機械は、動いていた。このアニマドールは壊れたのに、動いている。
「メタルキー?」
小物ばかりの、せいぜい座席しかないコックピット。その座席のケーブル穴に、メタルのアクセサリーがあった。先ほどはなかったから、リモコンの誤操作か。
「まさか、ね」
それをとり、パーカーのポケットへしまう。これが、男の探しているカギだというのなら、騙し持つことにした。形状の特異性が、キーの価値を示していたからだ。
(地球の紋章が彫られていれば、これは人類の栄えた西暦の物だとはわかるし、重さからして、データ保存のできるメディアだともわかる)
「どうぞ」
アニマドールの手のひらへ乗り、おろしてもらう。
「厄介ごとは勘弁してくださいよ」
「はいはい」
「これリモコンです」
一足先に、屋敷へ戻る。あの男はまだ、ロロンドの尻にあるメタルキーを探している。
けが人は、空き部屋のベッドにおいて、使用人にメタルキー渡す。
彼はそれを、パソコンにさすと、ローディングで暇そうに。私もそうなのだから、キッチンでコーヒーは作れた。
「わかりましたか」
「姫様、どうも。USBみたいなもので、なんかのパスワードがあるだけです」
「パスワード一つに、このメディアですか」
自分の分のコーヒーを飲むと、目の前の男も飲む。男が、パソコンを操作して、画面を切り替える。
「容量が、パスワードだけで埋まっている」
「膨大なやつですから、鍵なんでしょう」
「価値はないですね」
「そうですね。地球の紋章なら、地球で使うのが筋ですし、宇宙船もありませんし」
「地球って、滅んでますよね」
「大戦の主戦地でしたからねえ」
「私の運んだ病人、けが人はよろしく。セカシ・キリーシャさん」
「姫様も、ご苦労様です」
立ったアニマドール。空いたハッチ。投げ出される、小物。
落下される小物は、地上に敷かれたクッション素材が受け止めていた。懐中時計、ライト、電子時計、タブレット端末。
「どうですか」
「あんた、とったか」
「これですか」
鍵を、メタルの紋章のキー。金色がきらめくと、地上の、見上げる私に、男は見下ろす。それで、ワイヤの装置で降りてくれば、襲ってくる。
「これ、どういうの」
ひらりとかわし、メガホンで相手の背中を殴れば、男は倒れた。
「った。無限エネルギぐらいはわかるだろ」
「見え透いた嘘」
「モノホンだよ」
「地球なんて、戦争で滅んで、亡くなったはずでは」
「そりゃそうだけどさ」
男は立つ。
「地球が死ぬっての、自然がないってことだろ」
「はあ」
「自然が死んだら人も死ぬから、ないでしょ」
「生きていると。地球で、しぶとく自然は残っているから、人間も地べたをはいずると」
「はい」
それなら、鍵は使えた。自前の糸に鍵を通し、首にかける。
「いいですね。無限エネルギのそれがあるのなら、このカギは使います」
「良いって、こという、生半可じゃ」
「しかしこの宇宙飢餓の時代なら、無限エネルギは安定、作れますし」
民を食わすのが女王の役目ではあるから、そのためのエネルギは欲しかった。
「私はロロンド・マーノ。この星が主で、苦手なことは特にありません」
「グァイド。ニーマン・グァイド」
「グァイドなら、私のガイドなってください」
「だあ、もう」
グァイドという男は、頭をかく。あきれているからだ。
「そういう、楽観的な考えは、やめなさいよ」
男が言うことは、つまり時代を考えろ、ということである。
「女王なのなら、女の性で男をまとめてくださいよ」
「だまらっしゃい。私の星に来た海賊が口を出すなら、力は見せなさいよ」
「そっちの方が海賊の言い口!」
時代が一周したということは、頂点には行けて、教育にレベルはなくなっていた。つまり教育格差なんてのは、ないのであるけれど、そうなると遺伝子がダイレクトに才能で現れてくる。
ロロンドは、スペシャルに好戦的であった。
「私がこの黒い子を使いますよ」
ロロンド・マーノが黒い、メタルキーの機体に乗り込む。電源がついて、コックピット内から全面で外が見えて、グァイドが熊のアニマドールへ乗り込んでいくのが見えた。
全面は、そういうガラスで作られていて、だから外側からは黒く見える。ので、ロロンドのマーメイドスカートが覗かれることは無い。
電子のモニタが作られると、アニマドールはいよいよ動いた。電子のモニタというのは、光のモニタともいえるもので、エネルギを集めて、パソコンのキーボードやディスプレイを再現する技術である。ビームサーベルというのがわかるなら、ビームパソコンとでも、ビームみたいなので作られたパソコンとでも言える。
「これが、ゼーリドルって」
モニタの機体名は、ゼーリドルだった。操作をして、スターターがついて、指示に従い、メタルキーをもとの位置に差し込むと、運転手として認められた。
アニマドールが人型なのは、スケールの大きい宇宙に適応するためである。大きいから、そして人型だから、脳波を読み取り動くシステムが最大限生かせる。それで隕石やスペースデブリの除去、戦争、建築、農業と、幅広く使えるのだ。
で、今回の場合は、闘争である。補助の人工知能もあり、精密機械のアニマドールを、自身の身体のように操る羽目になった。
「ゼーリドルってなにさ」
黒いカラーの、人型機体。アニマなんて言うから、当然、獣を模しているのだけど、ゼーリドルの正体は見えなかった。
ゼーリドルが起動しきった後、目の前には、熊のアニマドールがいた。
「やりますよ!」
体当たり。倒れた私に、蹴り。機械が蹴れば、私は宙に舞う。
「ソードガン!」
腰に二本携帯された、銃剣は、両手に持たれて、ベアードールの、熊のヘッドを狙う。
「ベアードールの両腕の振動波は、並の物ではないぞ!」
「銃弾が弾かれる!?なら!」
蹴とばされたから、落下している。そのまま、銃弾を連射する。ベアードールは、両腕に目立つ小手と爪があって、其れ全体が振動して見せれば、銃弾をはじけるのだ。
ゼーリドルが落下しきり、銃剣の、剣の部分を使う。振動機能は、ソードガンにもあった。振動どうしがぶつかり、大きく弾かれる。
(あの振動に対するには、こちらも振動は必要だけど、合わせ切らなければ)
銃弾にしろ刃物にしろ、相手を殺す力が、振動で弾かれる。なのなら、こちらも振動して、相対振動速度はゼロにすればいいのだ。
「撃つよ!」
地上をホバーしながら、連射。ベアードールはその場で両腕を突き出してきた。
「切るぞ!」
「防いでいた、防がされていた!」
「たたっ切るぞ!」
ベアードールの両腕を、二本のソードガンが貫く。そのまま、上下に切り裂けば、人型はバランスがないので、倒れてくれた。
「貫いて切られたら、叩き切るとはならないだろうに」
グァイドが、コックピットハッチを開いて出てくる。ガラスの壁が開けば、人の肌色が見えるというのは、武器を使ったばかりの人間には、有難かった。
「私は、ゼーリドルが優秀だから、グァイドを殺さないで済んだ」
アニマドールは人ではなくて、ないから、人を殺した感傷はない。だから、グァイドの色がコックピットハッチから出てくれたことは、うれしかったのだ。
ロロンド・マーノの知恵は、自身のスペシャルな戦闘心を否定している。
「やっぱり、知っているだけでは」
こちらに手を振るグァイドを見る。アニマドールが外側から見えないのは、人殺しの自覚を増長させるためなのだと考えた。壊した機械から人が出てこなければ、その人は死んだとわからせるために得るのだろうと、感じた。
(でも、そういう知恵を持った人は絶滅寸前まで気づかなかった)
アニマドールを片膝で立たせ、コックピットから降りる。さっきまで、殺し合いをしていたとは、思えなかった。
「負けたよ」
出された手のひらを握り返せば、握手ということになる。男の腕だとは、わかった。
「その、壊してごめんなさい」
「ん、いいよ。海賊はこっちなんだから」
「それで」
「従うよ。こうなったら、働く必要があるだろ」
倒れた、横になったアニマドールを、人の目で眺めると、股間と足しか見えなかった。このアニマドールは、男性器が付いていないから、女なのだろうか。しかし前まで、性転換が、髪を切る感覚で行われていた時代だから、そしてアニマドールもそういう時代の中で造られた兵器だから、性別という概念がないのだろう。
「私、ニーマン・グァイドを、雇ってくださいな」
「いいですよ」
ロロンド・マーノは、握った手のひらをほどくと、ゼーリドルが元に戻る。
「運びますから、乗ってください」
アニマドールの手のひらに、グァイドを乗せ、ゼーリドルは飛ぶ。新たな出会いを乗せて、飛び立つのだった。