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チャマンカ人の地球征服は順調かと思いきや、なかなかそうはいきません

 数日後相田一佐は私服姿で、都内にある一軒のアパートを訪れた。昭和の頃から建ってたんじゃないかと見紛うような、古い雰囲気がある。外壁はひび割れ、ツタがまるで蛇のように建築物全体を埋めつくしていた。

 相田は目的の部屋まで行くと、呼び鈴を鳴らす。室内で呼び鈴の音がするのが聞こえるが何度鳴らしても出ないので、相田はドアのノブを回した。施錠されてなかったので扉は開く。

 中に入ると六畳一間の室内に敷かれた敷布団の上に、男が1人パンツ一丁で寝転がっている。

 半裸の男は見事な筋肉質の体型で、白いペンキをぶっかければ、古代ギリシャの彫像にでもなりそうだ。

 平日の午後1時。普通の人間は寝ている時間じゃないはずだ。男の枕元に何本もの吸殻が入った灰皿がある。

 他には缶チューハイの空き缶がいくつも転がっていた。

「無用心だな瀬戸口(せとぐち)。もっともお前さんならゴジラが侵入してきても倒せるだろうが」

「勘弁してください」

 寝転がったまま、瀬戸口と呼ばれた男がこっちを見ながら笑みを返す。

「今は、何をしてるんだ」

「ニートです。何もしてません」

「宇宙人共が無職の者をスペース・コロニーに連れてって、仕事を世話しているようだが」

「自衛官時代上官のパワハラでPTSDになったと説明したら、労役を免除されました」

 思わず相田は笑ってしまった。

「ならむしろ好都合だ。君が本当は自衛官を辞めなくても良かったのは、私も重々承知してる。そして君が優秀なのも知っている。どうだい。ここはお国のために、いや地球人のため人肌脱いでくれないか。作戦が成功したら君を再び自衛官として採用するし、成功不成功に関わらず多額の報酬を約束する。もちろん成功したら成功報酬も払う。女手1つで君を育てた闘病中のお母さんにも、お金が必要じゃないのかな」

「さすが、何でもご存知ですね」

 笑みの消えた目が、相田を見た。

「お袋の病気が、チャマンカ共の医学でも治せないのも知ってるんですね」

 相田はうなずくと、口を開いた。

「そもそもやつらの考えでは人は高齢で重い病気になれば尊厳死を選ぶべきというものだからな。最初から治す気がないのさ」

「尊厳死を認めてくれるから、今までの日本よりいいなんてほざく奴も多いけど、おれには理解できないです。お袋も同じ意見でね」

 不機嫌そうな顔で、瀬戸口が口を開いた。

「日本人が主体的に投票で尊厳死を選ぶっていうならわかるけど、結局クマ野郎共の言いなりになってるだけでしょう」

「よくぞ言った」

 相田は思わず大声をあげた。瀬戸口に期待した自分は間違ってなかったのだ。

相田は胸に喜びが湧き水のようにあふれるのを感じていた。

「なら、お国のために力を貸してくれるか」

 瀬戸口は、うなずいた。

「ちょうど体がなまってて、ひと暴れしたかったところです」

 その目はまるで太陽のように輝いている。相田は瀬戸口のまなざしに日の丸を見た気持になった。


                   

 チャマンカ人が地球に来てから毎週1度は世界のどこかでパレードをやりはじめた。その土地の楽団とチャマンカの楽団が一緒になって音楽を奏で、2つの惑星の『友好』を演出するのだ。

 そこには必ず地球方面軍最高司令官ガシャンテ大将が現れる。全身を茶色い毛で覆われたクマのような容姿の彼はフルフェイスのヘルメットと一体化したセキュリティ・スーツで全身を包む。

 将軍の母星の重力は地球の単位で0.7G。重力が小さいのでセキュリティ・スーツなしでは地球での移動が困難だ。

 チャマンカ星が銀河の他の知的生命体に先がけて恒星間航行を実現したのは、この重力の小ささもあったかもしれないと、帝国の科学者は論じている。

 重力が小さいため大気圏を脱出するのに似たようなロケットを飛ばすにしても、それだけ地球のような高重力の惑星より燃料を減らすのが可能だからだ。

 また見かけからわかるように、チャマンカ人は地球のクマに似た生物から進化している。

 チャマンカ人の先祖も冬眠するため、ワープ航法発明前の冷凍睡眠による恒星間航行も、冬眠の習慣がない種族より違和感なく受けとめられた。ちなみに今回のパレードは人口順に開催中だ。

1番多いインドから始まり中国、アメリカ、インドネシア、パキスタン、ブラジル、ナイジェリア、バングラデシュ、ロシア、そして国別で10番目に人口の多い日本の東京でも、ついにそれが開催された。

 ガシャンテ将軍にとって、最高の日々が続いている。地球の統治が大きな混乱もなく進み、住民の多くが嬉々としてそれを受け入れてるのがありがたい。

 パレードの終了後大勢の日本人を前にして、彼は演説を開始した。

「本日は、お集まりいただき真に感謝しています」

彼の言葉は瞬時に日本語で訳され、スピーカーから流れ出る。

「皆さんとの素晴らしい出会いに、心から感謝を述べたい。チャマンカ人による地球の解放が皆さんに理解され、本当に喜んでいます。もうこの星には政治家の汚職も戦争も過労死も冤罪もありません。今まで以上にこの美しく青い惑星のみなさんは、幸福な生活を享受できるでしょう」

チャマンカ人だけでなく、日本人の聴衆からも歓声や拍手が起こった。

 世界各国で開催されたパレード同様この国でもパレードは成功したと、ガシャンテは天にも昇る気持ちである。

 演説が終了した。多くの日本人が大将のそばに寄り、花やプレゼントの入った箱を差しだしたのだ。

「ガシャンテ将軍」

 1人の日本人男性が、声をかけてきた。もちろん日本語だが、セキュリティ・スーツに装着された翻訳機が、チャマンカ語に訳した。

 元々チャマンカ星は地球のように地域によって言語がバラバラだったが、7000年にわたる歴史の結果1つの言語で意思疎通をはかれるようになったのだ。

「私からも花束を」

 男性は立派な花束を持っていた。何十本もの地球の花を束ねたもので、チャマンカ星の花よりも小さく、茎は太く短かったが、美しい。

 ガシャンテは花束を受けとろうとしたが、突然それは地面に落ちた。代わりにそれを持っていた男の素手が現れる。

 その右手にはプラズマ・ナイフが握られていた。

柄の部分が金属でできており、そこから青いプラズマの刃が地球の単位で30センチ程伸びている。

 チャマンカ人特有の武器で、地球人が本来なら持ってはいないものである。

その刃が、ガシャンテのかぶったヘルメットのそばまで接近した。

 プラズマ・ナイフの切っ先ならばヘルメットを貫いて、ガシャンテの頭部を爆発した果物のような肉塊に変えるだろう。

 ガシャンテの軍勢は、ここに来た時地球上にあった兵器は一瞬にして原子レベルまで分解したが、地球にないはずの物まで標的には入れてない。

 ガシャンテにとって一生の不覚である。

「こんな真似をして、何になる。周囲はわしの部下達だ。貴様を捕らえるのなぞ、たやすいわ」

 ガシャンテはどなった。

「貴様ら1歩でも近づいてみろ」

 日本人の男はそれに答えずに、周囲の者を威嚇した。

「首ごと切って大将には、死んでもらう」

「私が巻き添えになっても構わん。この男を殺せ」

 ガシャンテは命じたが、兵達は躊躇していた。無理もない。

 以前別の宙域で似たような事件があり、人質の将軍もろとも兵が誘拐犯を殺したが、軍法会議で殺した兵が有罪になり処刑されたのを多くの者が知っていた。その時だ。突如上空に巨大な宇宙戦艦が実体化した。

 周囲のチャマンカ兵は手にしたレーザーライフルを船に向かって撃ちまくったがシールドで守られているらしく、かえるの面にションベンだ。


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