攻撃の結果
「ふわっ!?」
飛来する何かを避ける為に、俺は慌てて身を屈めた。
その瞬間、俺の頭上でアンシーが何かを素手で掴む。
「え……何?」
「矢ですね」
矢ぁ!?
こんな薄暗い中で、俺をピンポイントで狙える奴がいるの!?
やべー奴じゃん!!
しかし直後、アンシーの右手人差し指から光線が発射され──、
「ぐあっ!!」
遠くから悲鳴が聞こえてきた。
遅れて──、
「何が起こった!?」
「すぐに治療を!!」
「無理だ……頭を撃ち抜かれて……」
と、ざわめきがカトリ教国軍の中で広がっていく。
アンシーが重要人物を、仕留めてしまったっぽい。
……俺にはよく見えんけど。
義足の力で、常人よりは視力も強化されているはずなんだけどなぁ。
そんな俺よりも、アンシーの方がはるかに上ってことだな。
……それじゃあ、もう邪魔者はいないかな?
俺も攻撃に移るか。
「教国兵の遺体は、どのように処分することになっていますか?」
俺が辺境伯に聞くと、
「後でまとめて焼くくらいだが……」
「そうですか」
これから教国軍は潰走することになると思うが、その際には仲間の遺体を回収していく余裕は無いだろう。
勿論こちらだって、わざわざ遺体を保管して返還するようなことはしない。
1体か2体なら、冷却の魔法や塩漬けにしてどうにか保管できるかもしれないが、それでは大量の遺体を保存するにはコストがかかりすぎるからな。
しかし放っておけばすぐに腐るし、疫病の発生源になりかねないので、まあ無造作に積み上げて火葬するよね……。
で、外壁の下には既に、今アンシーが倒した者以外にも、多くの戦死者の遺体があるだろう。
それを「変換」の材料にする。
後々になって焼かれてしまうくらいなら、今すぐに利用させてもらおう。
「なんだ、死体が光り出して!?」
「消えていく!?」
教国陣営で、騒ぎになっている。
まあ、遺体も遺らないのは、ちょっと可哀想だと思うが、ここに来るまでに辺境伯陣営の怪我人を沢山見てきたから、同情心も薄れてしまった。
そもそも他国に攻め込んできた方が悪い。
それでも遺品になるような物くらいは、遺しておこうか。
それを回収できる余裕があるのかは、さすがに分からないが……。
戦争である以上、人道的配慮を行うにも限度があるからな……。
そして作り出すのは──、
「なんだ……これは……?
突然、光の中から現れたぞ……?」
俺が「変換」で作り出した物が、目の前に現れる。
それを見て、マルドー辺境伯は困惑していた。
「ははっ、子爵のやることにいちいち驚いていたら、身が持たないぞ、卿よ」
「そうですよ、お父様」
なんだかミーティア王女とコリンナが先輩面しているが、ほんのちょっと前まで、君達も同じような反応をしていただろ……。
それはさておき、俺が作り出したのはドローンだ。
ミサイルとかで敵軍を殲滅してもいいのだが、敵と言えどもできれば虐殺はしたくないので、被害が最小限の形で撤退に追い込みたい。
そこでこのドローンを使う。
「おおっ、浮いた!?」
このドローンで、空中から攻撃する訳だが、無差別に攻撃する訳ではない。
まずは搭載された暗視カメラで、目的の物の場所を探る。
コントローラーに義手で接続すれば、自分の目で見たかのように把握できるぞ。
あ、見つけた。
ほい、ドローンに搭載していた爆弾投下。
爆発音が鳴り響き、闇の中から火の手が上がった。
そして同じことを、別の標的に対してもう2回ほど。
「暫く待って、敵の反応を見てみましょう」
「ふむ……何かが燃えているようだが、何をしたのだ?」
王女の問いに、俺は答える。
「糧食と、敵の司令官がいると思われる大きなテントを燃やしました。
上手く行けば、敵軍の継戦能力は無くなったはずです」
そう、敵軍3万人分の水や食料を全部燃やして、更に状況を見て作戦を判断する指揮官がいなくなったら、戦闘は続けられなくなるはずだからな。
まあ、食料は近くの町から補給すればいいけど、それでも3万人分の食料を集め、そして運ぶのにだって時間と労力はかかる。
それならばいっそ、退却した方が良いという判断になるかもしれない。
これで撤退してくれれば、無駄な血を流さずに済むんだけどなぁ……。
そして敵軍がいなくなった後に、国境付近へ地雷原を構築しておけば、再度の侵攻も防ぐことができるだろう。
だが逆に、教国軍が戦える内に全力を出して砦を落とせば良い──と、考え、短期決戦を仕掛けてくる可能性もあるが……。
でもそれが簡単なことなら、とっくにこの砦は陥落しているだろうし、実際には難しいだろう。
教国側も、そのリスクは承知だと思う。
だからそんな馬鹿な選択はしないだろう。
しかしそんな俺の淡い期待は裏切られ、その翌日──、
「そう来たか……!」
教国の連中は、むしろ死に物狂いで攻撃を仕掛けてきたのだった。
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