出発、即到着
俺達は3人娘とミミに見送られて、王都を出発した。
徒歩で。
「エルネスタ様、まさかこのまま歩いていくのですか?
今、割と緊急事態なのですが」
「そうだぞ、タカミ子爵。
今は一刻を争う。
砦が陥落した後に、到着しても困るぞ」
と、コリンナとミーティア王女が焦りと不満を見せるが、まだ慌てる時間ではない……という訳でもないが……。
目的地では、今この瞬間にも誰かが命を落としているかもしれない。
俺達の到着が早まれば、それだけ救える命も増える。
……奪う敵の命も。
「慌てないでください。
人目につかない場所へ移動するまでは、このままです。
だから頑張って歩きましょう」
「……そうか」
俺が能力を隠したいということを察したのか、王女達は納得してくれた。
それから暫し歩き、人の目が無くなった頃──。
「そろそろいいでしょう」
俺は「変換」を使い、ある乗り物を作り出した。
「!?」
それはかなり大きなもので、プロペラと翼があった。
所謂垂直離着陸機の、オスプレイと呼ばれるものだ。
基本的には輸送機だが、重火器を装備することも可能なので、一応武器の範疇だな。
これで目的地であるマルドー辺境伯領までは、ひとっ飛びだ。
「こ……これは……。
空間収納から出したのかい?
まさかこれほど巨大な物を収納できるとは……」
「いえ、今作りました」
「「作った!?」」
驚愕する王女とコリンナ。
だが、いちいち説明するのも面倒臭いので、
「私の能力は、物を作り出すものだと思っておいてください」
と、簡単に教えておく。
「それにしても、こんな一瞬で……」
やっぱり釈然としない顔はされたが、無視する。
こんな所で、時間を潰してはいられないしな。
「さあ、乗ってください」
「これはなんなのですか……?」
「乗り物ですよ」
そんな俺の答えに、困惑する2人。
「馬車……のような?
馬がいないようだが……」
「……そのようなものです。
馬はいなくても動きます」
説明しても理解できないだろうから、適当なことを言っておく。
さあ、これで辺境伯領までは、1日とかからずに行ける。
……まあ、素人としては事故が多い機体というイメージなのでちょっと不安んだが、今回はスピード優先だ。
攻撃ヘリよりもスピードが出せるし、搭乗人数にも余裕があるからな。
それに俺の義手で接続して操縦すれば、少なくとも人為的ミスでの事故は起こりにくいだろう。
手足のように動かせるから、操縦ミスは有り得ないもん。
ただ今の俺は、機械と接続できる義手と、そこから生じる脳への負荷を軽減させる義足──そのスペックが落ちているから、そこがちょっと心配。
それでもいざとなれば、アンシーの能力で空中脱出とかも可能だろう。
ともかく王女達を座席に座らせ、シートベルトで固定してから発進だ。
エンジン、始動!!
「は? え? は?」
「なんだこの振動と音!?」
そしてオスプレイは浮き上がる。
「「と、とんだぁぁぁっーっ!?」」
王女達が驚愕して騒いでいるが、シートベルトで固定しているから問題は無いだろう。
「私も正直言って驚いています。
これほど巨大な物体が浮くとは……」
と、呟くアンシー。
彼女は微かに顔を青く染め、小刻みに震えていた。
え?
もしかして高所が駄目?
前にヘリへ乗せたことがなかったっけ?
その時には我慢していたのだろうか……。
今回の機体は前よりも大きいから、その所為で不安を感じているというのもあるのかもしれない。
いざという時に大丈夫かなぁ……。
そんな不安もあったが、辺境伯領にある目的の砦へは、4時間程度で無事に到着した。
ただ、やっぱり脳への負荷があったらしく頭は重いけど、活動するには支障の無いレベルだ。
「も、もう着いたのか?」
「信じられません……」
王女達は狐につままれたような顔をしている。
もしかしたらこれだけの高速移動を経験した人間は、この世界では初めてなのかもしれないので当然だが。
なんにしても、教国によって攻撃を受けているという砦へと、一刻も早く辿り着かなければならないから、早いにこしたことはない。
おっと、オスプレイは収納しておこう。
「消えた!?」
いちいち驚く王女達。
「今度は『空間収納』にしまいましたよ」
「あんな大きな物を……。
戦場への物資輸送に、相当有用だぞ……」
そだね。
今回は少量の食料や着替えなどの日用品とかしか、持ってきていないけどな。
さて、直接砦に空から乗り入れたらパニックになると思うので、少し離れた場所に着陸した訳だが、ここから徒歩だと30分くらいかな。
しかし砦に近づくと、女だけの4人組が怪しかったのか兵士に止められ、思わぬ時間のロスをすることになった。
最終的には王女とその護衛ということで中に入れてもらえたが、最初は王女だと信じてもらえなくて大変だったわ。
さすがに地元だけあって、コリンナを見知っている者がいたから、なんとか信じてくれたが、彼女がいなかったら砦での活動に支障をきたしていたかもなぁ……。
できれば今日中に教国の侵攻を止めたかったし、上手くいって良かったよ。
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